(公社)北海道観光振興機構は、9月16・17日、首都圏の高等学校教員を対象とした「北海道(道央圏)教育旅行現地視察会」を実施した。9月6日に発生した北海道胆振東部地震では大規模な停電や一部土砂崩れなどの被害もあったが、徐々に復興が進んでいる。視察先の施設では、既に地震前と変わらない受け入れ体制で体験プログラムを提供していた。
1日目:羽田空港=新千歳空港=ノーザンホースパーク(苫小牧市)=民族共生象徴空間(白老町)=輪西八条アトリエ(室蘭市)※室蘭市内で宿泊
2日目:室蘭市内=洞爺湖有珠山ジオパーク(壮瞥町)=髙橋牧場(ニセコ町)=新千歳空港=羽田空港
重工業都市である室蘭市は、空知から運搬される石炭と天然の良港に恵まれ、製鉄に適した場所として発展してきた。「鉄の街」独自の物づくり体験を提供する工房・施設も多い。一行は「輪西八条アトリエ」を訪問。同工房で通年提供している、鉄のキーホルダー作りを体験した。コークス(石炭)で熱した鉄の材料をハンマーで叩いて万力でねじり、磨いて仕上げるというもので、1人10分程度の体験。ハンマーで鉄を均等に叩く工程に苦戦しながらも、夢中で取り組んだ。同工房のキーホルダー・マグネット作りは、手軽に鉄の特性を体感できる体験として人気が高い。夏休みには、親子向けの体験も企画している。
新千歳空港からバスで15分。一行は最初の目的地「ノーザンホースパーク」に到着した。同施設は、引退競走馬やポニー、馬車馬など約80頭の馬を所有するテーマパーク。修学旅行だけでなく、幅広い世代に利用されている。地震後は停電の影響もあり一時営業を停止していたが、8日後には営業を再開した。教員らはスタッフの説明を受けた後、パーク内を視察。引退競走馬などが暮らす厩舎や各所に点在するパドックを見学し、馬たちと触れ合った。
「馬とのふれあいエリア」では、実際に乗馬を体験した教員も。スタッフの付き添いのもと、サラブレッドとトラックを一周した。体験する馬一頭一頭の名前や性格をスタッフが教えてくれるため、自分が乗馬した馬には愛着も湧きやすい。乗馬中は名前を呼びながら笑顔で背を撫でる場面が見られた。
パーク内には、様々なアトラクションや食事施設がある。1日2回行われるポニーショーは、手綱なしで馬芸を披露することで有名。他の施設では見られない独自のショーとして人気を集めている。
引退馬が見せるライディングショーでは、迫力あるジャンプを披露する。馬車や屋内の引き馬体験など、天候に左右されないプログラムも充実。雨天時のスケジュール調整がしやすい点は、修学旅行で頻繁に利用される理由のひとつだ。ホーストレッキングや、降雪期のみ利用できる馬そりは、北海道の大自然を体感できる。
バーベキューレストラン「バックヤードグリル」では、地元の食材を使った料理を提供している。500名まで受け入れ可能。バリエーション豊かなバイキングは、修学旅行時の昼食として利用されることが多い。
白老町は、人口約13%がアイヌ民族という地域。講話や体験プログラムを通じて、アイヌ文化を伝承する活動が盛んに行われている。教員らにアイヌの歴史や文化を解説した村木美幸氏(民族共生象徴空間運営本部長代理)もアイヌの血筋を受け継ぐ。
「日本はアイヌ民族や琉球民族、コリアンなどが共生する『多民族国家』。子供たちには『国民=特定の民族』ではないことを伝えている。人種の多様性を理解する意識を育んでいかなければならない」と話す。
小中学校の社会科では、主に江戸期のアイヌ文化を学ぶ。そのため、現在のアイヌ民族の生活形態などに誤解を持っている子供も多いという。講話中に挙がる質問の大半は、現在の衣食住に集中する。「アイヌ民族の時間軸が現在も同じように動いていることを知って欲しい」と村木氏は言う。
アイヌ語の「イランカラプテ」は「こんにちは」の意。国が推進するアイヌ文化の普及啓発キャンペーンのキーワードにもなっている。
2020年4月にオープンする「民族共生象徴空間(仮称)」は、同町のポロト湖畔を中心に広がるフィールドミュージアム。国立アイヌ民族博物館、体験交流ホール、体験学習館、アイヌの住居「チセ」を再現した伝統的コタン(集落)などで構成され、アイヌ文化発展の拠点となることを目指す。建設中の外観を見学し、イメージをふくらませた。
ホールやコタンでは、アイヌ古式舞踊や刺繍、木彫などの体験プログラムを提供。人との対話・交流を重視する。さらに、400名の受け入れが可能な体験学習館では、伝統料理の試食体験を昼食として利用することも可能だ。新千歳空港からは約40分のアクセス。
20世紀に4度の噴火を繰り返してきた有珠山。その噴火によって生まれた昭和新山の山腹からは今も100度近くの蒸気が立ち上る。有珠山山頂の展望台まではロープウェイが運行しており、106人乗りの大型ゴンドラで往復できる。
案内ガイド付き学習コースでは、昭和新山や噴火口を前に、火山との共生・防災について学ぶ。地域の防災リーダーとして活躍する火山マイスターの川南恵美子氏は「有珠山を特別と思わず、防災を自分事として考えるようになって欲しい」と話す。ガイド中は頻繁に質問を投げかけ、子供が主体的に学べるよう促している。噴火当時の写真を用いるなど、分かりやすい解説にも努めている。
有珠山山頂の展望台からは、何万年もの間に火山活動がもたらした地形の変化の跡が見られ、大地の動きを体感できる。展望時間は往復1時間程度。山頂防災シアターでは、噴火を予知して近隣住民の事前避難を実現させた背景を映像で紹介している
農業が盛んなニセコ町では、収穫体験などのプログラムが多く実施されている。最後の訪問先、髙橋牧場では搾りたての牛乳を使ったアイスクリーム作りを体験。場内はミルク工房やチーズ・ヨーグルト工場など、手作りの現場を見学できる施設が充実しており、レストラン「PRATIVO」では全席からニセコのシンボル・羊蹄山が一望できる。
生産者と密に連携し充実した体験を提供
(有)マルベリーでは、同町を中心に倶知安や余市などの地域で農業・酪農・漁業体験を展開している。生活営み体験(民泊)は全体の8割以上を占め、需要が高まっているという。民泊を行う生産者とは常に情報共有し、体験の質向上に努めている。実施エリアの所轄・救急・消防には受け入れ日程を報告し、緊急時の要請体制を整備。体験中は5~6軒に1名のガイドが付き、安全面の管理と体験のサポートも行っている。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年10月15日号掲載