大正大学(東京都豊島区)附属図書館では2024年11月9日、「にぎやかな図書館祭(フェス)」が開催され、イベントの一環として「読書推進フォーラム『高校生・大学生×学校図書館×作家×出版社』」を実施。高校生の不読率の高さが注目される中、高校生や大学生の当事者と、司書教諭、作り手の作家、出版社も交えた、読書推進についての意見交換が行われた。
登壇したのは、淑徳巣鴨高等学校、本郷高等学校(いずれも豊島区)、東京都立北園高等学校(板橋区)の生徒、大正大学文学部日本文学科4年生の村中花音さん、渋谷教育学園渋谷中学高等学校・司書教諭の前田由紀氏、翻訳家・作家で法政大学社会学部教授の金原瑞人氏、理論社執行役員・編集局長の小宮山民人氏、コーディネーターは大正大学教職支援オフィス教授・大正大学附属図書館長の稲井達也氏。
なお同附属図書館は近隣の高校と連携し、普段から高校生も利用している。
「本を読まない人の増加」は今回のフォーラムのキワードの一つ。高校生からは「ゲームや勉強が忙しすぎて読まないイメージ」「学校の図書室は使わないが、書店で買って読む。ラノベをWebサイトで見つけて読むこともある」「テスト問題で取り上げられた文章を“面白かったね”と友達と話すことがある」といった、普段の自分や友人の本との距離感が語られるところから意見交換が始まった。
大学生の村中さんは「本を読みたくても、長時間読むのに慣れていない人も多い。長い文章を読んで、それが自分に刺さるのか、面白いのか、という不安がある場合もある。またある友人は本を読む際に頭の中で映像化するため疲れるという人もいて、(本をあまり読まないのは)各自の読書スタイルにもよるのでは」と語る。SNSで短い文章に慣れていることだけが理由ではないようだ。
前田氏は、AIが選ぶ自分好みの本だけではなく幅広いジャンルの本に触れて欲しい、という。
新しい本と出会うために、読書の領域を広げる実践を紹介した。
「ビブリオバトル」(※1)では、参加者に本を紹介するだけではなく、発表者本人にとっては本を紹介するための深い読書へとつながる。
また「新書回転寿司」(※2)は、新書をNDCの類ごとに10冊ずつまとめ、生徒の机を“ネタ”のように回し、類ごとに読みたい本を見つけることで、さまざまなジャンルに触れる機会を作る。
そして「いちばん読書指導で効果的なのは、生徒に自分たちで企画を考えさせること」。同校ではカミュの『異邦人』の読書会や、「哲学対話」を生徒発信で行ったという。
※1「ビブリオバトル」…2007年に、当時 京都大学情報学研究科共生システム論研究室の研究員だった谷口忠大氏(現・立命館大学教授)が考案
※2「新書回転寿司」…清教学園中・高等学校探究科教諭 総合図書館清教リブラリア館長 片岡則夫氏が考案
YA(ヤングアダルト)を中心に、翻訳だけでなく、数多くのブックガイドを手掛けている金原氏は「面白い本があると勧めたくなる。そして読んでもらって“これ、面白かったよ!”と言ってもらえると嬉しい。翻訳に取り組んでいるのも、その辺りに原点があると思う」と話す。「本も友達と同じで“合うか合わないか”なので、(さまざまな本との出会いのきっかけとなる)ブックガイドを積極的に出している」。
金原氏は、海外小説を紹介する冊子「BOOKMARK(ブックマーク)」を2015年から刊行し(2023年20号で終了、現在書籍としても発行されている)。その刊行に携わった翻訳家の三辺律子氏とともに、海外の翻訳文学のお勧めの本を中高生が投票して決める「中高生海外文学大賞」を立ち上げる予定だ。
小宮山氏は「中学生・高校生向けという意味でYA図書を作っている。ただ、YA図書を売ることに難しさも感じている。」と話す。
YA図書を実際の中学生、高校生にもっと届けるためには“戦略が必要”。そこで、実際に高校生や大学生はどのように本を選んだり、情報を得ているのかが話し合われた。
フォーラムでは、登壇者一人ひとりのお勧めの本、本を通して戦争と平和について考えること、新聞や電子書籍、本のタイトルと装丁はどのように決めているのか、課題図書について、どんな本が読みたいか、学校図書館への要望など、幅広い話題で語られた。当日の様子は同大学の公式YouTubeチャンネルで公開される。
https://www.youtube.com/channel/UCp6-9sw_nLmm_4GRmWHpucg
「にぎやかな図書館祭」は、大正大学附属図書館が豊島区立図書館と共に、2022年より継続事業として取組として実施している。大正大学附属図書館では、豊島区立図書館の司書が未就学児から小学区低学年向けに「絵本の読み聞かせ会」を行ったほか、「工作ワークショップ」(リーディングトラッカー作り)、池袋の街を周遊しているIKEBUS(イケバス)の乗車体験などが行われ、親子連れなどで賑わった。