(公社)全国学校図書館協議会(以下、全国SLA)は7月6日、「第53回学校図書館賞」および「第25回学校図書館出版賞」の表彰式を都内で行った。学校図書館賞は「STARTプログラム」の開発と活用を行った勝山万里子氏が、学校図書館出版賞大賞は「LLブック」のシリーズを刊行した国土社が受賞したほか、学校図書館出版賞に汐文社とポプラ社、同特別賞としてあかね書房が受賞した。
学校図書館の振興に著しい業績を示した個人および団体を顕彰する「学校図書館賞」において今回〈実践の部:学校図書館の実践活動〉で受賞したのは、勝山万里子氏(茨城キリスト教大学兼任講師、茨城県立水戸工業高等学校学校司書)で、事由は「探究的な学習の基礎を育む学校図書館の実践~STARTプログラムの開発とその活用~」。
なお今回は〈運動の部:学校図書館運動の推進〉〈論文の部:学校図書館に関する著作・論文〉、学校図書館大賞、酒井悌賞、岩崎徹太賞、小峰廣恵賞、村松金治賞は該当なし。
受賞した勝山万里子氏は受賞者発表会に登壇した。
勝山氏は2011年度から2022年度まで茨城県立水戸第二高等学校に学校司書として勤務。STARTプログラムは学校図書館が中心となって作成し、2012年から1年生が「総合的な学習の時間」14時間かけて取り組む。STARTは「Student Talk About Reading Themes」の頭文字をとったもので、同校のALTが名付けた。
プログラムは生徒の情報活用能力を育成するもので、①興味のある課題を設定 ②必要な情報を収集 ③スライドにまとめ ④発表を2回行うといった活動を通して、情報活用スキル(図書館の使い方、情報の探し方、参考文献の書き方)の習得といった“学び方”を学ぶ。さらに発表の際の服装や話し方も身につける。この一連のプロセスを個人で行うことで、生徒全員が探究のプロセスを経験できることも大きな特徴だ。
同校はSSH指定校であり、SSH教員との打ち合わせを重ねながら同プログラムを開発。SSH3期目申請の際にはSTARTプログラムがSSHのベースプログラムと位置づけられた。本プログラムで学んだことが、その後の大学での学びや仕事の中で役立っているという声が卒業生たちから多く届いており、勝山氏は「生きるための力を育むプログラムとなっている」と語る。
2020年にはワークシートをテキスト化し1年生全員と全教職員に配布。現在も改訂を重ねる。
勝山氏は2022年度から勤務している茨城県立水戸工業高等学校で、STARTプロブラムテキストから同校で必要となるスキルを司書教諭と取捨選択し、美術科教員からの要望で著作権の項目を加え『水工Skills』として冊子にまとめ1年生全員に配布。国語、美術、保健体育、工業化学で活用されている。
また茨城キリスト教大学の司書教諭資格課程でも『探・研skills』をデジタル資料として配布。他にも公立図書館でSTARTプログラムのNDCの解説などをもとにした親子向けの調べ学習講座などを実施するなど、STARTプログラムの実践が広がりを見せている。勝山氏は「STARTプログラムは学校や活用の場に合わせてアレンジして使えるので、小中高大、公共図書館でも役立てて欲しい。相談にも応じている」としている。
学校図書館向き図書の優良な出版企画に対して出版社を顕彰する「学校図書館出版賞」。
2019年以来4年ぶりとなる大賞を受賞したのは『ひとりでできるかな!? 国土社のLLブック 全7巻』(読書工房/編著)を刊行した国土社。同シリーズは交通機関の利用、病院の受診、料理、掃除、洗濯、身だしなみといった自立に必要なスキルを分かりやすく解説したもの。「LLブック」は知的障害や発達障害のある人、日本語を学習中の人を対象としているが、篠田一希副編集長は「物事の“分かり切ったこと”とされていることは、実はそうではなく、大人でも実はきちんと学べていないことがある。分かりやすい文章やイラストで見ることで理解できる人はたくさんいる」とし、本シリーズを多くの人に手に取って欲しい、と話す。
学校図書館出版賞は次の2社。
(小川浩之/監修)。世界各地の戦争・紛争を「ヨーロッパ・アメリカ」「中東・アジア」「アフリカ」の地域ごとに解説。地図と世界史を併せて理解できる。“戦争の始めと終わりはいつなのか”など子供たちの疑問にも真正面から答えている。同社営業部・北浦学部長は「ウクライナにおける戦争だけでなく、第二次世界大戦以降も悲惨な戦争が起こっていることを知って欲しい」。
▽ポプラ社『みんなに知ってほしいヤングケアラー 全4巻』(濱島淑恵/監修)当事者の悩みを聞くと同時に、彼らを支える制度や仕組みを紹介。小学校高学年から中学生が主な読者対象となるが、当事者だけではなく、友達から相談された子供も対応ができるよう、配慮の行き届いた内容だ。
「学校図書館出版賞 特別賞」を受賞したのはあかね書房『都道府県別伝統工芸大事典』(宮原克人/監修)。全国の伝統工芸品を1冊にまとめた。同社出版部の木内麻紀子氏は風土、歴史に触れること、読みやすさを意識して編集したといい「紙の本には記載できることが限られるため、作っていく中で内容を精査していく。本というものの便利さ、信頼性を改めて感じた」と語った。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年7月17日号掲載