2016年に発足し、気候変動が人類の健康に与える影響をモニターする国際協力プロジェクト「ランセット・カウントダウン」が2024年度報告書を公表。日本では23年までの10年で、熱波を経験した日数が年平均17.6日、23年度は36.2日で過去最高。深刻な健康被害、食料問題につながり、特に感染症へ備えが課題であると警告している。
11月1日に行われた日本国内の報告会では、東京科学大学教授・藤原武男氏が「2024年版ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関する報告書~日本データシートのポイント解説」、東京大学大学院教授・橋爪真弘氏が「気候変動と健康」をテーマに解説を行った。
藤原氏の報告によると、日本の沿岸の海水温度が2021年から23年にかけて、1981年から2010年の平均より1.34℃上昇。このことは漁獲高に影響を与え、海洋由来の食料安全保障のリスクとなっている。
さらに化石燃料等の使用による大気汚染では呼吸器疾患、心血管疾患、肺がん、糖尿病、神経障害のリスク・死亡率の上昇につながっている。
また、橋爪氏は気候変動による気温と降水量の変化で、日本でほとんどみられなかった感染症が拡大する可能性が高まっているという。例えば日本では主にヒトスジシマカが媒介するデング熱が、1951年からの10年間に比べ2014年からの10年間では1.62倍に、沿岸で増殖し食中毒を引き起こすビブリオが増殖に適した沿岸線の長さは、1990年から10年間で約2倍に増加。
日本の平均気温は上昇を続け、過去100年間で1.35℃上昇し、特に1990年代以降は高温の年が増加。熱中症による救急搬送は毎年4万人以上で、志望者数は自然災害の5倍以上。「暑さを過小評価すべきでなく、暑さは災害と考えるべき」と橋爪氏は警告する。
子供は暑さへの対応が弱い。汗をかくことによって体内から熱を発散させる機能が未発達なためだが、日中に野外での活動量が多いことも要因となる。大人がそのことを理解して、適度な休養、エアコンの使用や水分補給などの環境を整えることで、発症をコントロールできると強調した。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年11月18日号掲載