「りんごの棚」は特別なニーズのある子供のためのアクセシブルな本を集めたコーナー。1990年代前半からスウェーデンの公立図書館で始まった取組だ。トレードマークの赤いりんごが目をひく。日本でも現在、公共図書館、学校図書館での設置が広がっている。実際の取組を紹介する。
幸ケ谷小学校に「りんごの棚」ができたのは2023年10月。6年1組の子供たちが7月、学校図書館を訪れ「りんごの棚の設置のお願い」と記した‘決意表明’を納富ミサ子学校司書に手渡したことから動きだした。
子供たちがりんごの棚を作りたいと考えるようになったのは、1学期の社会科、政治と法律に関する10時間の単元の学びからだった。
当時の担任の宗像北斗教諭は「政治や法律と子供たちとの距離感を縮め、深い学びに誘うことと、本校の学校・地域コーディネーターである佐伯さんの、読書バリアフリーを校内に広めたいという想いが一致した」と話す。
佐伯美華氏は、同校の地域・学校コーディネーターを長年務めつつ、りんごプロジェクト/NPO法人ピープルデザイン研究所のメンバーとしても活動しており、各地の小学校におけるりんごの棚づくりを支援するなどしている。宗像教諭は佐伯氏のその活動を知り、授業で「読書バリアフリーやりんごの棚について子供たちに話して欲しい」と依頼。
単元の1時間目は、佐伯氏が「読書バリアフリー法とりんごプロジェクト」というテーマで、バリアフリー図書の内容と、りんごプロジェクトは、誰もが読書を楽しめる社会を目指して公共図書館や学校図書館に「りんごの棚」の設置を推進していることを説明した。
さらに2時間目の授業では、横浜市立盲特別支援学校の職員で、シンガーソングライターとして活躍する栗山龍太氏をゲストティーチャーに招いて授業を行った。
その後、子供たちは「障害者福祉」について、街の中のバリアフリーなどの調べを進め、インクルーシブな街づくりは法律によって守られていることを学んだ。
「社会のために自分たちができることは何か」。考えを深め、7月の単元の最後の時間に、学校図書館に「りんごの棚の設置のお願い」を届けた。
宗像教諭は「子供たちが、インクルーシブや多様性を深く学ぶきっかけになり、学習が終わった後も関心を持ち続けるようになった」と話す。
夏休み明け、子供たちはりんごの棚づくりに積極的に参加。さらにさまざまな催し物に参加したり、ニュースを見るなど、社会的な事象に目を向けるようになったという。
そして今年度の6年生は、細谷邦弘教諭と共に「総合的な学習の時間」でりんごの棚を核とした学びに取り組んでいる最中だ。
今春の学校図書館のオリエンテーションでは、2~6年生に向け「りんごの棚」を紹介したところ、利用が劇的に増えたという。
佐伯氏が紙芝居形式で「りんごの棚にある本」について説明し、隣で納富学校司書がバリアフリー図書を実際に手にして紹介した。
それまで特別なコーナーという印象だったが、”誰でも読んでいい”ということが伝わった。
なおオリエンテーションではディスレクシアなどの読みの特性にも触れ「自分が見えにくいと思ったら先生に言ってね」と伝え、適切な支援につなぐことも重視する。
実は同校では以前から点字図書などを収集していた。納富学校司書は「ただ資料を集めるのではなく、バリアフリー図書を”りんごの棚”として独立させることで、資料を先生方や子供たちに届け易くなった」と語る。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年10月21日号掲載