「りんごの棚」は特別なニーズのある子供のためのアクセシブルな本を集めたコーナー。1990年代前半からスウェーデンの公立図書館で始まった取組だ。トレードマークの赤いりんごが目をひく。日本でも現在、公共図書館、学校図書館での設置が広がっている。実際の取組を紹介する。
2023年3月、豊島区立中央図書館(東京都豊島区)で「りんごのたな」が設置された。以降、当初の予想を超える貸出数と館内利用があり、障害のある人の来館も増えたという。
同区文化商工部図書館課資料グループの石川典子氏は「りんごのたなを設置するとき、利用者が自分にとって読みやすい姿勢をとれるようにすぐそばに絨毯がある場所を選んだ」と話す。書架は幼児でも届く高さとなっており、LLブック、手話の本、布の絵本(大・中・小))、さわって楽しむ本、大きな文字の本、マルチメディアデイジー図書、お話・わらべうたCD、多様性を考える本が並ぶ。
書架の上には、読書バリアフリーに関連したパンフレット、リーディングトラッカー等を置くほか、バリアフリー図書の紹介の展示など。青い鳥文庫の大活字本と、もとの大きさ(新書サイズ)を実物大で比較した掲示は、出版社に許可を得て作成した。また保護者向けに「多様な学びのシート」を用意し、区の教育支援に関する情報も発信している。
あえてこのコーナーに‘障害’という言葉は掲示していない。障害の有無や年齢に関わらず、誰もが気軽に多様な読書の形と出会える場所となっている。図書館の入り口にも近く、大人向けの雑誌や児童書の傍という、誰もが立ち寄りやすい場所に設置したことも奏功している。
毎朝同館の職員が布の絵本やリーディングトラッカー、資料一つひとつを丁寧に整えているが、さまざまな人が訪れる公共図書館で、りんごのたなの資料が頻繁に利用されていることが伝わってくるという。
豊島区内には、7つの区立図書館がある。中央図書館に先立ち、2022年1月には巣鴨図書館で、区内で最初の「りんごの棚」が設置されている。現在、駒込図書館にも設置されているほか、改修が予定されている千早図書館(現在はりんごの棚の一部を設置)、上池袋図書館にも、改修完了時に設置される計画で、区内に着実に広げていく。
近年、学校でもりんごの棚を設置する動きがあるが、予算の確保は厳しい現状もある。石川氏は「子供たちがバリアフリー図書に触れる機会を作るため、また自校に必要な資料を検討するためにも、公共図書館の団体貸出を学校で積極的に活用して欲しい」と話す。
中央図書館では通常の学校の団体貸し出し用資料とは別に、「りんごのたな」パックを、通常学校向け、および特別支援学校(級)向けに準備中。今年度1月頃からの運用開始を目指す。
同館では他にも多様なニーズに応えるための取組を行っている。
パンフレット「ようこそ中央図書館へ」として、ピクトグラムや写真を使った図書館の「やさしい利用案内」を用意している(※)。
また「りんごのたな」だけでなく、館内には多言語資料や「聴く読書」の資料、LLマンガなどを面出しするなど目立つ形で配架。そうした「読書バリアフリー図書資料」の案内は、「りんごのたな」にも掲示している。
巣鴨図書館と中央図書館の両方でりんごの棚に関わった石川氏は、「立地などによってもニーズが異なるため、その館に合った資料を考えるのも効果的」と話す。
バリアフリー図書は、“この本が揃っていれば良い”ということではなく、巣鴨図書館も中央図書館も、それぞれ適切な資料を厳選し、優先順位をつけて購入していった。
「最初からあらゆるバリアフリー図書を揃えるのではなく、まず導入した資料の動きを見ながら、タイトルを増やしたり、シリーズを増やしていってもよいのでは」と話す。
また中央図書館には点字図書館「ひかり文庫」が併設されており、りんごのたなや、その他のバリアフリー図書の選書について、相談することもあるという。
※公共図書館の「やさしい利用案内」のひな型「LL版図書館利用案内『ようこそ 図書館へ』」(元近畿視覚障害者情報サービス研究協議会LLブック特別研究グループ作成)は、現在、日本図書館協会・障害者サービス委員会のWebサイトから申請することで入手が可能。
ひな型に自館の写真などを入れるなどして、利用案内を作ることができる。https://www.jla.or.jp/committees/lsh/tabid/1008/Default.aspx
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年10月21日号掲載