「読書バリアフリー法」が施行された翌年の2020年7月、文部科学省と厚生労働省は共同で「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」を策定し、7月14日に各都道府県知事や教育長などに通知を発出した。
さらに同年12月22日には、各都道府県、指定都市・中核市担当課に、事務連絡「視覚障害者等の読書環境の整備の推進における留意事項について」を行った。基本計画を勘案した地方公共団体における計画策定と、検討にあたっての留意事項を関連部署などに周知を促す内容となっている。多様な関係者の意見を反映させる観点から、計画策定の際に必要と考えられるプロセスや、関係部局の連携のための【連絡会の構成員の例】、計画の具体的な項目に関するもの、単独計画ではなく障害者基本計画等既存の計画の項目を拡充する場合も含め、踏み込んだ内容となっている。
文科省の調査により、今年2月1日時点の「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画の策定状況」が明らかになった。(=表)。
都道府県では「既に策定済み」「現在策定作業中」合わせて38、「策定に向けて検討中」9、「策定する予定なし」(未定も含む)0。ただし「検討中」のうち策定時期が「未定」の回答は8となっている。
指定都市20市のうち「既に策定済み」は3(2月1日時点)だが「現在策定作業中」と回答した6の都市はすべて2024年度から策定している。中核市62市においては「既に策定済み」が11、最も多いのは「策定する予定なし」(未定も含む)36で、「策定担当部局が未定」の回答も多い。
2月1日時点の計画策定状況については、文科省「地方公共団体における視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画の策定について」ページに詳しい
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_01134.html
同ページに計画策定事例としてリンクがある都道府県は次の通り。
【読書バリアフリー計画単独で策定】千葉県・滋賀県・大阪府・和歌山県・鳥取県・岡山県・徳島県・福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・鹿児島県
【他計画に読書バリアフリー計画を位置づけ】第6期北海道障がい福祉計画・第4次青森県障害者計画・第5次福島県障がい者計画・群馬県読書活動推進計画・第7期埼玉県障害者支援計画・新潟県障害者計画・第7次福井県障がい者福祉計画・あいち障害者福祉プラン2021-2026・宮崎県生涯読書活動推進計画・沖縄県障害基本計画
なお国の基本計画(第1期)の期間は2024年度までとなっている。
文字・活字文化推進機構では、研修会やフォーラム、資料提供など、読書バリアフリーを周知する取組を継続して行っている。今年度は初めて「読書バリアフリーサポーター養成講座」を開講(=写真)。9月28日・11月30日・2025年1月18日・2月15日の4回の講座で、オンラインでの受講にも対応。レポート課題などがあり、最終日には修了証が授与される。今回30人程の募集枠に対し約200人の応募があった。全国から公共図書館の担当者をはじめ、自治体職員、子供の支援に携わる人、小・中・高等学校の教職員、管理職、大学関係者や出版関係者、NPO職員、学生など幅広い人が受講している。来年度以降も継続して開講予定という。
また同機構では全国の学校図書館、公共図書館を対象に、2023年度より「読書バリアフリー体験セット」の無料貸出を行っている。読書バリアフリーについて知る図書、点字つきさわる絵本、布の絵本、大きな文字の本、LLブックなど、主な種類のバリアフリー図書がセットとなっており、最大4週間貸出を受けることができ好評だ。
図書館の動きでは、子供向けのアクセンシブルな資料を集めたコーナー「りんごの棚」も注目され、広がりを見せている。
「りんごプロジェクト」(NPO法人ピープルデザイン研究所)では、アクセシブルな資料やさまざまな機器を一度に体験できる体験会を、「超福祉の学校@SHIBUYA」や「よこはま読書パーク」ほか、全国各地の自治体イベントや公共図書館、学校図書館などで実施。「りんごの棚」の普及に努めており注目される。
「読書バリアフリー法」は「障害の有無にかかわらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的」としている。文字を目で読むだけではない、さまざまな「読み」のスタイルについて今一度考えたい。
「視覚障害者等が利用しやすい」アクセシブルな資料としては、点字図書、大活字本、布の絵本、LLブック、マルチメディアデイジー、音声デイジー、電子書籍などがあるほか、インターネットによるサービス「サピエ図書館」もある。また、それらを活用するための機器の整備、利用案内や、対面朗読といった人的支援も求められる。
昨年発売された書籍『読書バリアフリー 見つけよう!自分にあった読書のカタチ』(読書工房/編著、国土社)では、さまざまなバリアフリー図書の紹介や当事者へのインタビュー等を掲載。小学校中学年からが読書対象となっており、小学生からの理解促進に役立つ。
企業の動きとしては、メディアドゥによる視覚障害者専用電子図書館「アクセシブルライブラリー」の導入数が、2022年6月のサービス提供開始から約2年間で103自治体となった(2024年8月末時点)。協力出版社は17社となり、小説・ライトノベル、趣味・ビジネスなど実用書ほか約1万7000点を提供している。
なお、障害の有無にかかわらず、「聴く」読書は一般的なものになってきている。学校での導入も期待される。
「聴く」読書として「audiobook.jp」を展開するオトバンクでは、公共図書館や学校図書館に向けて、複数の提供企業各社を通じてオーディオブックコンテンツを提供。直近では京セラコミュニケーションシステムの学校向けクラウド型図書館システム「ELCIELO for School」が東京・渋谷区の小・中学校全37校に導入され、9月より順次利用開始しており、そこを通じてオーディオブックも提供されている。
電子書籍は文字や図版の拡大、読み上げ機能があるものもあり、こうしたさまざまな機能の周知を図ることで、子供たちの「読み」の可能性も広がっていきそうだ。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年10月21日号掲載