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図書館

誰もが読みやすい環境をつくろう~専修大学文学部 野口武悟教授に聞く

2024年10月22日

実体験で「新しい発見」を

ニーズは異なっても用意できるものの共通点に着目する

「障害者差別解消法<障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律>」が2016年4月に施行され、障害のある人への「合理的配慮」の取組が求められる中、「読書バリアフリー法<視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律>」が2019年6月に施行されました。背景として、特定の障害に限らず、さまざまな「読み」に関する障害をカバーできる立法が求められていた側面があります。

「視覚障害者等」とは、「視覚障害、発達障害、肢体不自由その他の障害により、書籍(雑誌、新聞その他の刊行物を含む)について、視覚による表現の認識が困難な者」とされています。

野口武悟教授

同じ障害であっても一人ひとり全部違いますし、10人いれば10通りのニーズがありますが、一方で、用意すべきバリアフリーの資料(=アクセシブルな資料)や読書補助具は、ある程度想定し、整えることができる。利用者本人がそれらを自分で選び、自分にぴったり合ったものを使える環境を学校や図書館がいかに作っていくのか。その取組が求められています。

例えば、文字の認知に困難のある「ディスレクシア」は、知的障害ではなく”話の内容は理解できるが文字が読みづらい”ということであり、情報の形を文字から音に変えれば理解できるので、読み上げてもらうなど音声化することが有効な場合があります。それは視覚障害の人にデイジー図書や対面朗読を提供することと共通しています。あるいは文字の拡大は、弱視の人だけでなく、幅広いニーズがあります。

また社会的な障壁に直面しているという点では、外国にルーツのある人に対する多言語対応の必要性が挙げられ、今後ますます求められるでしょう。そうした中で「やさしい日本語」はよく知られるようになりました。今年6月には「教科書バリアフリー法<障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律>」が改正され、「日本語に通じない」、つまり日本語指導が必要な児童生徒も対象に追加することとなり、ある意味、斬新とも言える改正でした。

ただし「読み」の障壁は、障害に起因するものと、言語や文化に起因するものは全く異なります。学校の現場で言うと、特別支援学級と日本語指導のニーズは全く異なります。そこを混同せずに、しかし広い意味でバリアフリー化することは、その両者だけでなく、誰にとっても使いやすさ、読みやすさにつながることは間違いありません。

体験して自分事にする

最近は「聴く」読書も注目され、TVCMも見かけることが増えました。とてもいい流れだと思います。

読書バリアフリーを自分事とするには、難しく考えるのではなく、まずは自分で体験してみることが大事です。紙に印刷された文字を目で追う以外の読書スタイルがある、ということを自分で体験してみれば、料理しながらでも音で聞いて楽しめるといった、新しい発見にもなります。

聴く読書、あるいは触れながら読む読書など、さまざまな読書のスタイルの実体験をすることが、読書のダイバーシティを進めていく近道ではないでしょうか。

「りんごの棚」の取組

そういう意味では「りんごの棚」は、子供の「読み」に対する特別なニーズに応えることはもちろんのこと、すべての子供たちが色々なアクセシブルな資料に触れ、楽しみながらさまざまな「読み」を知る機会として有効です。

さらに学校図書館でりんごの棚を作る意義の1つに、子供自身が「読み」に困難がある場合にそれに気づき、適切なサポートにつなげられる可能性が挙げられます。多様な資料に触れることで「これは今までと何か違って読みやすいな」と子供自身が気づくことはとても重要です。受験期や大人になってから自分の「読み」の特性に気付き、「もっと早く知りたかった」という思いが残ってしまうこともありますから。

一定の割合でそうした特性のある子供はいますし、決して特別でも変でもありません。ただ、その特性に保護者よりも先に教職員が気づいたとして、保護者にどう伝えるかはすごく逡巡されます。早くケアした方が子供のためになる、という意識を保護者にも持って欲しい。そうした認知を広めるためにも、学校をはじめ公共図書館やさまざまな場面での「読書バリアフリー」の情報発信が必要です。

計画策定に向けて

「読書バリアフリー法」が施行されて今年で5年となりました。2023年に市川沙央さんの小説『ハンチバック』が芥川賞を受賞し、世の中の関心の高まりとともに、書き手・出版社・図書館それぞれの取組が進み始めていると感じます。

一方で、それを後押しする行政側の取組はとてもスローです。国は2020年7月に基本計画を策定しましたが、自治体の計画の策定はあまり進んでいません。計画が策定されることで、各自治体で予算化が進み、公共図書館や学校、公共施設やあらゆる場面での「読書バリアフリー」がより進んでいくはずです。

第一は視覚障害者等の当事者が読書できるようにしていくことですが、加えて、その取組をみんなが応援し、支持する機運が高まることが、行政が力を入れることにもつながっていきます。そのためにも「読書バリアフリー」を自分事としてみんなが考えていける環境づくりが重要です。

みんな年齢を重ねれば文字が読みづらくなります。そうした時に読書を諦めなければいけないのか。そう考えると読書バリアフリーはずっと身近になります。誰もがずっと読書を楽しめる。そうした社会になっていくと良いと思っています。

※< >内は法律の正式名称。

 

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年10月21日号掲載

読書バリアフリーに対するさまざまな取組を探る

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