全国初のオンラインによる読書の習い事「ヨンデミー」は2020年12月からサービスを開始。登録者数は今年4月で1万人を突破した。そのヨンデミーのメソッドを詰め込んだ新刊『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』は、発売前に重版がかかるなど注目度の高さが伺える。㈱Yondemy代表の笹沼颯太氏は「読書はいくつかの条件を満たせば、誰でも必ず好きになります」と語る。
-そもそもなぜ読書が大切と考えたのですか。
僕自身もYondemyのメンバーも読書に救われてきました。メンバーそれぞれの理由で「読書があるから今の自分がいる」「だから今の子供たちに届けたい」と思っており、それは精神面だけでなく、勉強や仕事の面も含めてです。
受験勉強を例に挙げると、分からないことがあった時、問題集の後ろにある解説を読めば理解できて自分で解決できる人と、解説を読んでも分からないので、補講を受けたり先生に聞かなければならない人では、勉強に差が出来てしまいます。私個人としては学びの手段としての読書の意義が強く、これからも支え続けてくれるものだと考えています。
その背景には幼少期の読書体験が大きかった。これだけ大きな力となる読書というものが、自分にとっては「楽しかっただけ」でしたから。
楽しく読む=遊んでいるだけで、一生ものの財産であり、武器となる、これが読書を「教育」として扱う意義だと思います。
-「読書教育」という言葉を使っていますね。
今の子供たちの環境は、30代~50代の保護者世代の子供時代とはまったく違います。今は娯楽といえばYouTubeやソーシャルゲーム等があり、何もしなくても子供たちが自然と本を好きになる確率は著しく下がっています。
でも特に本に魅力がなくなったわけではない。実際、ヨンデミーのユーザーにも「本にハマったから、動画を見なくなりました」という方がたくさんいます。本が面白い、没頭して読む、そうした楽しさが伝われば読むけれども、伝わっていないから読まない。だからこそ「読書教育」としてのアプローチが必要です。
子供の可処分時間を、子供自身がどこに使いたいのか。子供に”読ませる”のではなく、子供自身が読みたい、と思って読むようにしていかないと、大人になってからも読み続けようとは思わないでしょう。だからこそ子供のうちに「読みたい」という気持ちをしっかり”作りきる”ことが重要です。
-子供の「読みたい」気持ちを作るために必要なことは?
一般的に読書サポートにはまず「読み聞かせ」がありますが、ヨンデミーでは読み聞かせの次は「読み習い」と言っています。自分で文字を追う読書は、誰かに読んでもらうこととは全く違う活動です。なので、子供には読むということが分かっていくためのサポートが必要です。
-サポートという点で、著書(=写真右)では、「選書」「きっかけづくり」「環境づくり」の3つの柱で誰でも読書家になれる、という力強いメッセージがありますね。例えば「習慣化できる環境のつくり方」の章では、本の置き場所や、声がけ、本にまつわる会話をすること等が紹介されています。
好みの動画が次々に出てくるYouTubeと違い、本は読んでみたら合わないこともありますし、モチベーションの浮き沈みは必ずあります。
YouTubeに勝てるようなきっかけづくりをしなければならないし、浮き沈みがあっても読み続けられるような環境を作り、安定した習慣にしなければならない。本書にそのメソッドを詰め込みました。
子供に本を読んで欲しいと思った時、お勧めの本を見つけるだけではなくて、他にも色々な方法があり、子供たちがハマるようになれるし、そのように教えることができる、と考えています。
先生方や司書の方にも手に取って頂いているようですので、学校でも参考にして頂けたら嬉しいです。
子供たちにとっては、「友達」の存在は”大きすぎる”と言える程です。だからこそ学校全体で読む文化を作り、友達同士で良い意味で競い合ったり、楽しみを共有すれば、学校ならではの力強いモチベーションを作れると思います。例えば先生が毎日1冊、朝の会で本を紹介したり、学級文庫に毎週学校図書館から新しい本を借りてくるなど、さまざまな方法を多く行えば、子供にそれが届く確率も高まると思うのです。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年7月15日号掲載
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Web特集-インタビュー後編
現在本を読む40代、50代の方に、なぜ読書好きになったのかを尋ねると、多くの方が「たまたまです」と答えます。つまり、読まない人はその「たまたま」、つまり偶然出会えなかっただけだという。
実は、読書を楽しんでいる大人と、そうでない人では、人生に差が出ることが統計で分かっています。例えば生涯年収(出版文化産業振興財団「現代人の読書実態調査(2009年)」)は、読書する人の上位25%と、下位25%では、5000~6000万円の差がありますし、さらに上位1%と下位1%では、その差はもっと開くでしょう。
それから平均寿命(イエール大学研究、2016年)にも、読書をするかしないかで差がでる、といった調査結果もある程です。例えば体調が悪い時に、考えつく可能性の範囲かもしれないし、日常の生活の中で気をつけることも違ってくるでしょう。本を読むことで世界が広がり、フラットに情報を判断できるようになるということではないでしょうか。
本を楽しむきっかけがないために、好きにならないだけの子供も多いはずです。それなのに、子供たちにもその偶然の出会いが来るのを待つのでしょうか。偶然好きになれなかった人たちが人生で損をしていることが分かっているのに、それを教えてくれない、というのは、なかなか辛いものがあります。
「学び」に向かう力の地盤として
本を読む、読まないの差は、大学入試の際の受験勉強でもよく見られます。
苦手な科目が出てくると、先生に聞かなければ分からないので補講をうける、するとやらなければならない課題が増える、するとこれまでは得意だった科目の復習がおろそかになって苦手な科目が増え、新たに補講が増える、という負のスパイラルです。
一方で、苦手を作らない子供の場合は、分らないところがあると、その都度参考書などの解説を読んで理解し、自分で解決できるので、それほど勉強量を増やさなくても、カリキュラム通りに学んでいけるし、苦しまずに成績も上がっていく。
書いてあることで解決し、自分で学んでいける。これは、大人になっても、必要なスキルです。
例えばマーケティングに携わることになって、本でサッとある程度学べる人と、先輩から教わるまで待たなければならない人では、昇進のスピードも変わってくるでしょう。それが生涯年収の差になってくると思うのです。
いま、リスキリングとか、学び直しという言葉がありますが、裏を返すと、それは子供の頃に学ぶことが嫌いになっている、ということが大きいと思います。一夜漬けでテストを乗り切って、学びは苦しいものだけど、頑張れば大人になった時には勉強をしなくて済む、という考え方になってしまう。
一方で、子供の頃はただ楽しく読んでいる、というところからスタートし、大人になると、読むことが学びになったり、さまざまな人の心に触れたり、広い意味で学びそのものを楽しみ続けられるようになります。
読書をしない人と比べると、読書家は読書以外も含めて、大人になってから学びに関する活動をする割合は倍以上という統計もあり、「学ぶことが好きだから」を理由に読書をする会社員に、「読書を通じた変化は?」という質問には、「さらに学ぶ意欲が高まった」という回答が上位に挙げられています(出典:パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」2023年調査) 。
大人になると、読書家というだけで、学びのループができると考えられます。
読書は学ぶ力の地盤になるものです。今はネットですぐ調べられるし動画で分かるから、読書は大事かもしれないけど必須ではないと、人によっては考えるかもしれません。しかし、本が読めるだけでこれだけ人生が変わる。その重要性を伝えていきたいと思っています。