教育関係者向けのセミナーと展示を行うイベント「NEW EDUCATION EXPO」(東京6月6~8日、大阪6月14・15日、サテライト会場…札幌・仙台・名古屋・広島・福岡)が開催された。その中から愛知県日進市の発表(東京会場)を紹介する。同市では児童生徒の1人1台端末に電子図書館を導入することで、児童生徒による貸出冊数が飛躍的に伸びたという。学校図書館と市立図書館の連携を図り、財源には国の「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用したほか、電子書籍の導入にはふるさと納税によるクラウドファンディングも活用した。
「変わる図書館! 学校連携&アウトリーチに取り組む最新図書館事例」と題し、日進市教育委員会学校教育部学校教育課課長・桃原勇二氏、日進市教育委員会生涯学習部図書館主幹・司書・岡田優子氏が登壇した。人口増加のただ中にある同市では、’‘学校図書館と市立図書館との連携’‘学校図書館への電子書籍の導入’‘電子・紙の英語書籍の導入’‘小学校社会科副読本の電子化と中学生プログラミング授業の連携’などに取り組んだ。学校図書館に関わる話題を紹介する。
GIGAスクール構想による学習用1人1台端末について、同市では教科の学習以外(学級活動、課外活動、委員会など)でも活用することも重視している。NEXT GIGAに向けて1人1台端末活用のより一層の充実を図るためだ。
課題となっていたのは学習での活用は教員の自発的な取組が進んでいるものの、学習以外では、教育委員会からのサポートがなければ進みにくい、という点だった。
そこで教育委員会の具体的な取組として複数の案の中から、最終的に電子書籍の導入を決めた。市立日進中学校の図書委員の生徒たちが「1人1台端末を活用して本が読めるようにして欲しい」という要望を校長に提出したことが決定打になったという。
一方で学校図書館の課題として①学校図書館システムが各校ごとに異なり、市全体として貸出傾向などのデータ活用ができていない、②各校に1人配置された学校司書から、市立図書館による選書サポートの要望、③校内の学校図書館の場所が、学年によって教室から離れると利用率が下がる、等があった。
こうした課題解決に向けて「市立図書館と学校図書館の連携を図る」ことになった。
①②について具体的には、まず市立図書館と学校図書館のシステムを、市立図書館の現行システムを活かす形で学校図書館と統一した。それまで学校図書館が個別に利用していたシステムは、リース期間終了前に解約した。
また市立図書館と学校図書館同士をつなぐ電子会議システムを導入し、学校司書へのバックアップ体制を整えた。
物流に関しては、市立図書館から学校への図書の貸出の業務を、これまでの学校間の文書集配業務に新たに追加。担当職員の雇用条件等も見直した上で実施した。
こうした取組によって、貸出と返却の手続きが学校図書館でも市立図書館と同じ自動読み取りで可能になったほか、自校と市立図書館の蔵書の確認が1人1台端末でできるようになった。2023年度からは1人1台端末で市立図書館の本を選んで予約、学校で受け取ることができる。
同市には現在公立の小学校9校、中学校4校の計13校があり、今回の事業費は約1億3000万円にのぼった。内訳は、ソフトウェア経費が約3750万円、ハード経費は児童生徒貸出用も含めたPC端末と図書へのICタグの貼り付け13万冊(1校の蔵書が約1万冊で換算)で約9700万円。
予算立てのため、国の「デジタル田園都市国家構想交付金」(以下、デジ田交付金)を申請した。他の自治体の事業を横展開する「デジタル実装タイプ TYPE1」で、所管は「図書館および学校教育課」とした。桃原氏によると「計画の段階で公共図書館と学校図書館の両者が所管となる形にしたことがポイント」。
申請の概要は「4つのシステムの同時導入でサービスの変革をもたらす」。4つとは「公共図書館と学校図書館のネットワーク」「学校図書館システム」「電子図書館システム」「電子会議システム」。
その結果、総事業費のうちデジ田交付金で5割、国のコロナ臨時交付金で4割、市は一般財源で1割を負担することで実現に至った。
③の課題については、学校の教職員から、学習で活用するため電子書籍の図鑑の要望があったという。電子書籍の図鑑は1人1台端末からアクセスできるため、気軽に持ち運べるのが最大のメリット。調べ学習などで正確な情報にアクセスして確認することを重視するほか、ディスレクシアや弱視の子供たちにとって、読み上げ機能や拡大機能が有効だ。
この電子図鑑の導入には、ふるさと納税によるクラウドファンディングを利用した。約290万円の目標額に対し400万円を超える寄付が集まった。「子供たちのため」という趣旨に賛同した市民からの寄付も多かったという。この取組が新聞等で目にとまり、日進金融協会からの寄付に繋がる波及効果もあった。
「クラウドファンディングは、寄付を集めるだけでなく、市の事業について広く情報発信する役目も果たしている。多くの方から寄付を頂いたことは本当に感謝しかない」と桃原氏は語る。
市民からの寄付(=応援)を受け、電子書籍の閲覧数を増やすための工夫に積極的に取り組んでいる。児童生徒用1人1台端末のトップページには電子図書館のアイコンを設置してアクセスしやすい。さらに電子図書館のトップページにはジャンル等興味の湧くアイコンを設置、7月から本格稼働する。
なお電子図書館の導入は、今は公共図書館にはなく学校図書館のみで、図鑑や英語書籍の他に、青い鳥文庫250冊読み放題パック、青空文庫などが導入されている。
電子図書館は児童生徒に積極的に利用され、1人1台端末の‘楽しみ’としての活用でもヒットしているだけでなく、貸出冊数にも大きな変化があった。同市ではこれまで学校図書館の紙書籍の貸出冊数は年間20万冊で推移していたが、電子書籍導入後の2023年度は紙書籍の20万冊は変わらないまま電子書籍の貸出冊数は23万冊になった。「子供たちの読書の機会が電子書籍の導入によって増え、貸出冊数が倍になった。この数字には非常に驚いている」。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年7月15日号掲載