誠文堂新光社による月刊科学雑誌『子供の科学』が今年創刊100周年を迎えた。長きにわたり子供たちの知的好奇心に応え、多くの人に影響を与え続けている。その歴史と魅力について、土舘建太郎編集長に話を聞いた。
-1924年の創刊当時、どの様な理念でスタートしたのでしょうか。
創刊号の巻頭では、初代編集長の原田三夫が「この雑誌の役目」として“普段研究で忙しい学者に科学の面白い話を聞き、“子供たちに伝える”“実験を載せて理科の面白さを体験してもらう”“自分で発想しアイデアを出せる子供に育つような体験を紹介する”、一番大切なこととして“本当の科学とはどういうものかを皆さん(子供たち)に知って頂く”としています。今もこのコンセプトは変わりません。
-創刊号やその頃の『子供の科学』を読むと、鉄道や自動車、レオナルド・ダ・ヴィンチ、日本アルプス、海外の先住民の暮らしなど、その内容の幅広さに驚きます。
学校の先生方や第一線で活躍していた研究者による記事があり、例えば植物学の牧野富太郎博士による植物画と解説も掲載されています。また海外の写真もたくさん載っています。
-現在の研究者や、エンジニアなど、各分野で活躍されている多くの方々も、子供の頃に読者だったそうですね。
100周年記念企画の1つで、そうした方々にインタビューを行っています。ノーベル化学賞を受賞された白川英樹博士は、たとえ内容が難しくて分からなかったとしても、「理科が好きな子供たちがこれを読んで科学の世界に魅せられていた」と語って下さっています。
現在も、学校で扱わないことを知りたい、好きなことを突き詰めたい、本誌はそうした子供たちの思いに応えて、ここまで続けてこられたと思っています。子供が興味を持つことがあれば、どこまでも先を見せていく。面白ければ大学生レベルの事柄も扱っています。
■アクションを起こす‘切り口’と‘体験’
-現在の読者層は。
小中学生で、中心は小学校3~6年生です。保護者がかつての読者、あるいは理系の職業や研究者で、お子さんに手渡される場合もありますし、学校図書館で読んだことがきっかけで、購読するケースも多いようです。
-幅広い年齢層の子供たちに向けて、興味の湧く誌面をどのように企画しているのですか。
メディアに出てくる子供たちが関心を持っているタイムリーな話題を扱いつつ、科学の‘王道’である宇宙や生き物なども取り上げます。
特に‘王道’については「どういう形で取り上げれば、子供たちは関心を持ってくれるか」を意識して、切り口を探します。皆さん驚かれるのですが、私を含めて編集部は全員文系。そのメンバーで「こうやって見せたら面白いのでは」と常に話し合っています。また「体験できること」、その企画によって子供たちが「アクションを起こせること」も重視しています。
例えば今年1月号の特集「めざせ!鳥マスター」では、鳥の歩き方の観察を取り上げました。鳥が飛ぶ様子を観察するのは難しくても、カラスや鳩の歩き方はすぐ見られますし、結構面白い。
インターネットで検索すればすぐに情報が出てくる今の時代だからこそ、子供たちが関心を持つためには、切り口や見せ方の工夫が増々重要になっていると思います。
-扱うテーマも多岐に渡っていますね。6月号では、「いじめはどうして起きるんですか?」という小学生からの質問に、‘自己調整過程’の観点から回答しています。
あらゆるものの中に科学があると思っていますし、切実な問題こそ、科学的な視点で取り上げていくべきだと思っています。脱法ドラッグやジェンダー問題なども取り上げましたが、科学的な原理を伝えた上で、読者に考えさせるような記事を心がけています。
-100周年事業の今後の展開は。
メインプロジェクトの1つが「小中学生トコトンチャレンジ2024」です。昨年末から今春まで、小中学生から研究したいテーマを募集し、177件の応募の中から17件が採択されました。現在、研究資材費の提供と研究サポートを受けながら子供たちが研究に取り組んでいて、12月に成果発表を行います。
また本誌8月号(7月10日発売)は、創刊100周年の記念特大号です。付録は「2050年の『子供の科学』」。子供たちに行った「2050年に実現してほしい未来」についてのアンケートを元に、医療や宇宙、AI、あらゆる分野の未来を掲載します。
子供たちの考えた未来についての単なる誌面発表ではなく、各分野の研究者に取材し、2050年に実現するためには「いつまでに、どんなことが達成される必要があるのか」というプロセスを紹介することを大事にしました。未来を実現するのは子供たち自身ですから、これを読んでぜひ「自分がこれを実現させる研究者になろう」という気持ちを持って欲しいです。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年6月17日号掲載