放射線の風評加害の対策として環境省が情報発信する「ぐぐるプロジェクト」が3年目を迎え、今年度の活動をまとめた「ぐぐるプロジェクトフォーラム」が2月29日、福島県内で開催された。「ぐぐるプロジェクトのあり方を考える」をテーマにディスカッションが開かれた他、公募課題の各部門優秀賞の表彰式が行われた。
【ディスカッション】
「ぐぐるプロジェクトのあり方を考える」をテーマに6人のパネリストを迎えてディスカッションが行われた。モデレーターはぐぐるナビゲーターの落語家・桂三四郎氏。
■福島県産の農産物の安全性をアピール
ななくさ農園で有機農業に取り組む関元弘氏は18年前に福島県に移住。「移住して5年、農業というものが分かり始めた時に震災に見舞われた。
放射線の計測もして安全だと分かっているが、県外で売ろうとしても危険だと言われることがある。福島県産物が安全ということを知らしめることが課題」と語る。
■安心して子育てができるように正しい情報を発信
福島県助産師会会長の小谷寿美恵氏は子供を取り巻く放射線の影響を伝えた。「震災当初、母乳から放射線が検出されるかも知れないと、心配する母親の気持ちが伝わってきた。結果として母乳から放射線は検出されなかった。今でも県外の人から福島に住むことに心配が聞かれる」という。
■小中学校で10年以上にわたって放射線教育を実施
福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授の坪倉正治氏は県内の小中学校で、放射線に関する授業を10年以上行ってきた。「震災直後は放射線の授業の必要性を説明しなくても受け入れてもらえた。しかし、震災後に生まれた子供が大半を占めるようになり、改めて放射線の授業の必要性を説明している。SNSなどから誤った情報が拡散しかねない状況で、正しい情報を伝えなければならない」と語る。
■今の福島を見てもらうことが正しい情報につながる
風評加害を増やさない方法として(公財)福島県観光物産交流協会理事長の守岡文浩氏は「正確な情報を持っている人を広げていくことが大事。福島に足を運び、見てもらうことが理解につながる。福島で見たことをSNSなどで発信してもらえば正しい情報が伝わるのでは」と述べた。
■提供の仕方を変えることで科学的情報が正しく伝わる
環境省の調査によると「放射線が次世代以降に健康影響を与えると思うか」で「はい」が約4割に上った。こうした誤りを正すために、大阪大学感染症総合教育視点副拠点長・特任教授の大竹文雄氏は行動経済学の観点から考察する。「2022年3月に国連科学委員会のUNSCEARが『遺伝的影響は無いと思われる』と発表したことを伝えた上で調査したが大きな影響は見られなかった。そこで改善点の1点目として『UNSCEAR』より『国連の科学委員会』という馴染みのある名称に優先する。2点目に4割が誤解していると捉えるのではなく、過半数を超える人が健康には影響がないと捉えていることを伝える。このように情報の提供の仕方を変えることで科学的情報が正しく伝わる」と訴えた。
■風評加害が広がらない環境づくりに向けて
環境省大臣官房環境保健部部長の神ノ田昌博氏は、SNSによるデマ情報の拡散は危惧すべき問題だとする。「風評加害やデマ情報が広がらない環境づくりが大事だが、そのためには専門家による正しい情報の発信などが欠かせない。今後、デマに左右されない体制作りを進めていきたい」として締めくくった。
【表彰式】
ラジエーションカレッジでは全国の学生や社会人を対象にセミナーなどを実施。公募課題では「風評加害を生まない」をテーマに学んだことを発信する場として、「プレゼンテーション部門A(パワーポイント)」「プレゼンテーション部門B(フリースタイル)」「グラフィックアーツ部門」「ショート動画部門」「ドラマ企画部門」の全5部門で昨年6月19日から12月15日まで作品を募集。審査の結果、各部門の優秀賞が決定した。
■それぞれの手法で福島の正しい情報を伝える作品を発表
「プレゼンテーション部門B(フリースタイル)」の優秀賞は会社員の高橋彩乃さん。この部門は資料などを使用せず、言葉とパフォーマンスで5分以内で表現する。高橋さんは書道によるパフォーマンスを、実際に会場で披露した。
「グラフィックアーツ部門」の優秀賞は東北福祉大学総合福祉学部福祉行政学科2年の山本悠生さん。作品は壁に飾られたものを見て、フィルターがかかった状態で人々が話すことの危うさをポスターで表現した。
「ショート動画部門」の優秀賞はビジュアルアーツ専門学校の武木田樹さん、今井那々羽さん、吉野潤さん、北田直也さんの4人グループ。「ドラマ企画部門」の優秀賞は慶應義塾大学文学部人間科学専攻3年の安藤未菜美さん。「プレゼンテーション部門A」の優秀賞は該当者なしとなった。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年3月18日号掲載