新型コロナウイルス感染症は今年5月にようやく5類感染症に移行。その間、GIGAスクール構想による児童生徒の1人1台端末の配備とICT環境の整備は進み、子供の学びの環境や学び方が大きく変化している。そうした中、学校図書館や子供の読書活動はこれからどのように進化していくのか。今年3月に策定された第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の推進にあたっては、昨年度策定された第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」の各自治体における予算化も鍵となる。文部科学省総合教育政策局地域学習推進課図書館・学校図書館振興室長朝倉博美氏に聞いた。
本年3月28日に第五次「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」(以下、基本計画)が閣議決定されました(※1)。
この中の「近年における子どもの読書活動に関する状況等」によると、第四次基本計画期間中、地域の図書館数は過去最高となり、学校司書の配置も進んできています。一方、児童書の貸出数や全校一斉の読書活動を行う学校の割合は減少しました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大による臨時休校・休館等により、図書へのアクセスがしにくい状況となり、読書指導や本の貸出が困難となったことなどが影響を与えた可能性があると考えています。
また、小・中・高等学校の児童生徒の不読率(※2)はコロナ禍を経て上昇している一方で、児童生徒一人当たりの平均読書冊数は増えています。つまり、本を読む子どもと読まない子どもの二極化が進んでいると考えられます。
こうした状況は、第五次基本計画の策定に向けて昨年6月に設置した「令和4年度子供の読書活動推進に関する有識者会議」(以下、有識者会議)の議論の中でも指摘されたことです。
そこで第五次基本計画では「不読率の低減」「多様な子どもたちの読書機会の確保」「デジタル社会に対応した読書環境の整備」「子どもの視点に立った読書活動の推進」の4つを基本的方針として掲げました。
特に第四次基本計画から大きく異なる点として、次の2つが挙げられます。
「多様な子どもたちの読書機会の確保」については、2019年に成立した「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」及び2020年に策定された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(読書バリアフリー基本計画)」を受け、視覚障害等のある児童生徒の読書環境の整備を図り、読書機会を確保することが求められています。また日本語指導を必要とする児童生徒、特定分野に特異な才能のある児童生徒、相対的貧困状態にあるとされる子どもといった多様な子どもたちを受容し、それらに対応した取組を行う、学校図書館に関しては、一時的に学級になじめない子どもの「居場所」となり得ること等も踏まえて開館に努める等、読書や学習の場を提供することとしています。
そして「デジタル社会に対応した読書環境の整備」については、「言語能力や情報活用能力を育むとともに、多様な子どもたちの読書機会の確保、非常時における図書等への継続的なアクセスを可能とするため」として、学校図書館や図書館のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める必要がありますし、ICTを活用した子どもの情報発信の重要性にも言及しています。
すでにコロナ禍の学校図書館や図書館で、オンラインによる読み聞かせや、電子書籍の貸出、オンライン閲覧目録(OPAC)の導入なども行われるようになりました。1人1台端末を読書活動にも活用し、図書館の電子書籍貸出サービスと連携する取組も見られています。
そのような状況の中で、昨年8月には文部科学省から事務連絡「1人1台端末環境下における学校図書館の積極的な活用及び公立図書館の電子書籍貸出サービスとの連携について」を発出しています。
ICT環境を活用し、児童生徒の資質・能力を育成するため「教科書・資料集等の教材・書籍・新聞・雑誌・インターネット等を効果的に組み合わせて活用することが重要」としています。
「令和4年度 子供の読書活動の推進等に関する調査研究 電子図書館・電子書籍と子供の読書活動推進に関する実態調査」では、2020年度から2022年度の進捗状況について調べています。コロナ禍の影響もあって電子書籍サービスの導入は進んでおり、その動きが早いと感じています。自治体において「すべての公立図書館で電子書籍サービスを導入している」のは20年度が9・1%で22年度は28・4%。公立学校では「すべて」「一部」での導入をあわせて20年度の2%から22年度8・5%と伸びています。また、「導入を検討している」も増えています(=図①)。この流れは今後も続くと考えています。
本調査では「公立学校における電子書籍活用の課題」についても尋ねています。5割以上の地方公共団体では、「電子書籍導入の予算が不足している」、約4割が「電子書籍導入に関する知識が不足している」と回答していました。今後これらの課題の解決も必要です。
学校図書館の財政面については、2022年4月より、第6次「学校図書館図書整備等5か年計画」(以下、5か年計画)が始まっています。2026年度までの5年間で、全ての小中学校等において学校図書館図書標準の達成を目指すとともに、図書の更新、新聞の複数紙配備および学校司書の配置拡充を図るものです。
この5か年計画については、今年1月にも「学校図書館図書等の整備充実について」の事務連絡を発出しました。
5年に1度の策定時に通知するだけではなく、学校管理職も教職員も異動等がある中で、学校や市(区)町村教育委員会等に、措置額について適切に発信することで、着実に周知を図っていきたいと考えています。
地方財政措置は各自治体で予算化が図られることで初めて学校図書館のための費用に充てられるものです。一方で「単年度総額480億円」「5年間で総額2400億円」の財政措置と言われても、現場ではピンとこないかもしれません。そこで「地方交付税算定額の試算方法」として、各学校で簡単に試算できるように早見表を作成し、周知を図っています(=図②)。
事務連絡や通知などの発信によって、教育委員会や現場の教職員の方が動きやすくしたいと考えます。
実際にある学校司書の方から「昨年8月に事務連絡が出されたことで、学校に環境整備の要望を伝えやすくなり、学校司書用のPC導入につながった」という声も届いています。
今は読書推進を進める好機であると考えています。第五次基本計画ができたことで、`子どもの読書活動を推進するには、家庭・地域・学校の取組が必要である‘、そのための学校の予算として`5か年計画が確保されている‘と、2つの計画を紐づけたメッセージを発信しやすいからです。
予算があるから整備が進む、というわけではなく、子どもたちの資質・能力を育むために`読書推進が重要である‘`学校図書館の機能・環境を充実させ活用することが必須である‘という理解が大切で、その実現のための`手段‘として予算を活用していただきたいのです。
図書資料を揃え、提供するには学校司書の配置が必要になるでしょう。また、児童生徒が主権者として必要な資質・能力を身につけるために新聞の複数紙の配備も必要です。そうした取組に向け、校長の「学校図書館長」としてのリーダーシップにも期待が寄せられています。
第五次基本計画等への対応のための要求・要望額となっています。「図書館・学校図書館等を活用した読書活動の推進」では新たに「多様な関係機関・団体等による連携体制構築事業」を掲げています。図書館や学校図書館だけでなく「公民館や児童館、大学、民間団体等(NPO、書店等の民間企業)の幅広い連携・協力体制を構築し、地域における学習資源や人的資源を共有・活用して地域に根ざした子どものための読書環境醸成の取組を行う」ため、モデル事業として200万円、3箇所程度を要求しています。
また「『子ども読書の日』(4月23日)の理解促進」では、例年実施している特色ある優れた取組への文部科学大臣表彰に、新たに幼児教育関係分野(幼稚園・保育所・認定こども園)に対象範囲を拡大し、現場のモチベーションアップにつなげたいと考えています。
文部科学省総合教育政策局地域学習推進課担当による「読書活動総合推進事業」の要求・要望額は5554万9000円(前年予算額は4533万1000円)。第五次基本計画への対応のため、図書館や学校図書館等を活用した読書活動を総合的に推進する。
※<>内は前年度予算。★印は新規
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年9月18日号掲載