｢第55回 日本子どもの本研究会全国大会｣(主催=一社・日本子どもの本研究会)が7月29・30日、東京・渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催され、子供の本に関わる、図書館関係者、学校関係者、出版社、団体などさまざまな立場の人が参加した。
29日には翻訳家・原田勝氏による記念講演｢想像力の使い道-むこう側にいる人たちへ｣、代田知子会長による基調報告、講座や読書会など、30日には分科会、両日に展示発表が行われた。閉会講演は翻訳家で元日本女子大学教授の百々佑利子氏による｢『クシュラの奇跡』-ドロシー・バトラーの本棚が語ること-｣。
「特別支援の読書」のグループワーク
30日の分科会は｢絵本｣｢小学生と読書｣｢中高生の読書｣｢特別支援の読書｣｢科学｣｢学校図書館・探究的な学び｣｢地域と読書｣｢図書館と出版と子どもの本｣の8つが開催され、いずれも複数の実践発表や討議、質疑応答などを交えながら行われた。
｢小学生と読書｣では、東京都府中市立府中第二小学校・前川律子教諭が｢読書活動を通して本とことばの世界を広げる｣をテーマに、小学校での実践を紹介した。読書を通して子供同士のつながりをつくる活動の1つが、｢本の中から友だちを見つけよう｣。読んだ本の中に出てくる登場人物に目を向け、`友達になりたいと思った登場人物‘を、クラスの友達同士で紹介する、というものだ。
また｢SNSや動画などからの情報によって、子供たちは色々なことを知っている。しかし、言葉(語彙)は少なく感じる｣と前川教諭は話す。そこで『あっちゃんあがつく』(みねよう/原案・さいとうしのぶ/作・リーブル/刊)をもとにした実践を取り上げた。ひらがらなを習った時期の児童にぴったりの活動で子供たちにも｢〇ちゃん〇がつく｣の言葉を考えてもらう、というもの。`たっちゃんたがつく たいやきおいしい‘といった児童の作品を紹介。言葉を紡ぐ楽しさを児童が体験するようすを伝えた。
栃木県宇都宮市立瑞穂野北小学校・小野秀子教諭は｢学校司書とタッグを組んで本と子どもをつなぐ｣をテーマに、国語科の実践や、家庭や地域、市立図書館との連携、学校給食とのコラボレーションなどを紹介。学校図書館がカリキュラムマネジメントを携えた情報ステーションとして機能していくための年間指導計画も紹介した。
｢特別支援の読書｣では、都立北特別支援学校・松井雄一主任教諭による｢障害の重い子の授業での『読み』と図書館活用｣、都立墨東特別支援学校図書館支援員でおはなしの会うさぎ・小野寺千秋氏による｢どの子もみんな本が好き–肢体不自由教育の読書活動–｣の話題提供をもとに、グループワークが活発に行われていた。
「中高生の読書」では現役のＹＡ世代
が登壇
現役のYA世代が登壇する分科会である｢中高生の読書｣は｢ノンフィクションとの出会い｣がテーマ。日本子どもの本研究会・ノンフィクション研究部会の小澤恭子代表がまず話題提供を行った。
中学生、高校生、大学生が、どのようなノンフィクションの本を読んでいるのか、ノンフィクションを手に取る理由などについて語った。大学生の岩井路加さんは中学2年生から大学3年生の現在に至るまでに出会ったノンフィクションの作品を紹介。｢以前は読書は自分の部屋のような存在と感じていたが、今はテキストは世界につながっていた、と感じている｣と語った。
登壇した中・高・大学生たちが語った、ノンフィクションを手にとるきっかけや理由はさまざまだ。不登校で時間があったから、探究学習が入口となり深掘りしていった、高校で卒業論文のために読むことがきっかけ、学業が思うようにいかず、ハッピーエンドで終わるフィクションよりもノンフィクションに心が動いた、知りたいことを教えてくれる情報源、等々。
続いて岩波書店ジュニア新書・編集部・編集委員の山本慎一氏も登壇した。自らが10代に読んだ本が今の仕事にも繋がっていること、ジュニア新書について｢読んだ人それぞれが、自分で何かを考えて、一歩踏み出すだすきっかけにして欲しい｣と語り、｢フィクションには`終わり‘があるが、ノンフィクションは`読み終わったところから始まる‘。自分ならどう考えるのか、スタートするための本だと思う｣と語った。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年8月21日号掲載
