1953年に学校図書館法が公布され、今年で70周年を迎える。これを記念して、学校図書館法公布70周年記念事業運営委員会(以下、運営委員会)、(公財)文字・活字文化推進機構、学校図書館整備推進会議、(公社)全国学校図書館協議会の4団体は同法の公布日である8月8日、学校図書館法公布70周年記念式典を開催。学校図書館改革に向けて決意を表明するとともに、「未来に広がる学校図書館」標語の表彰や記念講演などが行われた。
主催者である運営委員会代表で文字・活字文化推進機構理事長の山口寿一氏は「学校図書館法は議員立法により制定されたが、きっかけは1948年に文部省が作成した『学校図書館の手引き』だった」とする。
この手引きは戦後の新しい学校教育を始めるにあたり、学校図書館の重要性を伝える内容だった。手引きをテキストとした講習会は関東と関西で開催され、参加者は地元に戻ると周りの教員に講習会の内容を伝えた。その後、各地に研究会が生まれ、全国学校図書館協議会(以下、全国SLA)が結成された。
協議会は全国で100万人の署名を集め、それが議員立法につながった。しかし、学校図書館の道のりは平坦ではなかった。「学校図書館が真に機能するのに必要なのは専門の教職員であり、手引きにも司書の必要性が明記されていた。しかし、学校司書の配置などは遅れており、学校司書の待遇改善に向けた実態調査が求められる。70年前を思い起こし、改めて文字・活字の大切さを噛みしめながら学校図書館の一層の充実に取り組んでいきたい」と今後の展開について語った。
また、学校図書館改革の政策実現に向けた今後の活動が、運営委員会事務局長の設楽敬一氏より報告された。今後、運営委員会では2023年秋の臨時国会、2024年の通常国会を視野に以下の政策の実現に向けて取り組んでいく。
①劣悪な勤務状態に放置された学校司書の待遇改善に向けて、早急に現状調査を実施するよう政府に求める、②学校図書館整備など5か年計画に基づく地方財政措置の予算化の促進と予算化状況を把握し、積極的に活用するよう自治体と地方議会に対して求める、③1校専任の学校司書配置を促進するとともに学校司書が職員会議や研修活動に参加できる環境を整える、④すべての学校図書館にバリアフリー図書の展示コーナーを常設するとともに、障害者サービスに必要な知識と技術を習得した司書の養成に努めるよう政府に求める。
式典では全国SLAが募集した、学校図書館法公布70周年記念「未来に広がる学校図書館」標語の表彰式も行われた。応募総数は1866編となり、厳正なる審査の結果、入選1点、次点2点が決定。入選したのは加古真優奈さん(高2)「きのうの自分と あしたの自分を 今日変える 学校図書館」。加古さんは「私は本が好きで毎日通うほど学校図書館を愛用している。多くの人が本を読むことで、昨日や明日の自分を変えることにつなげてほしい」と受賞の喜びを語った。
「対話型AI『チャットGPT』時代の学校図書館のあり方を考える」をテーマに、東京大学大学院教授で脳科学者の酒井邦嘉氏による記念講演が行われた。
インターネットが普及し、ネットから多くの情報が得られるようになり、学校図書館の存在が問われている。そうした中、ネット上の情報と本や雑誌などの出版物の最大の違いは「記名・審査・保存の有無にある」と酒井氏は主張する。
ネット上の情報は誰が書いたものか不明なものも多く、書籍が多くの人の手を経てチェックされているのに対し、間違った情報が上がっているケースも目立つ。そして、書籍という形となり図書館などに保存され、後世に残されるという。
図書館の役割は「健全な読書習慣を啓発すること」と説く酒井氏。インターネットや対話風AIに依存することによる問題点は①自分で考えなくなることで思考力・創造力が低下する、②自分にとって都合の良い選択をするため自己肯定感が増幅する、③書き手と読み手の間の人間関係が喪失する、として解決策として読書習慣を取り戻すことで考える機会を増やすことを提案する。
読書を通じて「脳を創る」ことにより「言葉の意味を補う想像力が自然に高められる」、「読書を通して思索に耽ることで、自分の言葉で考える力が身につく」、「読書経験を通して脳が変化し、成長する」などの利点が考えられるという。
また、紙の本や新聞が優れている理由として、1ページしか表示されない電子書籍と異なり、新聞などは一覧性に優れており、開いた紙面から多くの情報が飛び込んでくるというメリットがある。キーワードを入力しなくても関心の高い情報をみつけることができるのは紙媒体の強みと言える。
SNSなどの短い文章の羅列は音声の抑揚や相手の表情から行間を読み取ることができない。そのため、自分にとって都合の良い解釈ばかりが増幅されるが、炎上の原因となり、学校ではいじめにつながる恐れがあるとする。酒井氏は「技術の進歩は人間の退化につながる恐れもある」とし生成AIなどの活用の仕方に警鐘を鳴らした。
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最後に学校図書館法公布70周年を迎えるにあたり、学校図書館は「図書整備」の段階から、次の「質的向上」のステージへ進むことが重要だとし、学校司書の「一校専任配置」を促進し、子供たちがいつでも立ち寄れる学校図書館の実現を目指すとする、アピールが読み上げられた。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年8月21日号掲載