学校図書館を「学びの場」として積極的に・継続的に活用すると、子供たちの「個」に寄り添った資料が提供され、子供自身がそれを選びとる力をつけ、主体的に学び、子供同士で教え合う協働的な活動が可能になる。兵庫県神戸市立本多聞中学校(石原銘勝校長)では学校図書館を活用した学びを通して「生徒たちは学校図書館を『思考する場』と捉えている」という。このような学びの実現には、司書教諭と学校司書、各教科の教員との連携や資料提供における工夫、単元の進め方など、随所にポイントがあるようだ。なお神戸市は「学校図書館活用神戸モデル」を策定し、学校図書館の活用を積極的に推進している。
本多聞中学校では、社会科を中心とした探究学習をはじめ、さまざまな教科で学校図書館が活用されている。社会科・司書教諭の岩浅昂汰教諭によると、同校では1年間を通じた探究活動の場として、あるいは単元の中で必要に応じて、という主に2つのパターンでの学校図書館の利用が定着しているという。
▽2022年度の1年社会科の単元「世界地理」の実践を紹介する。
まず教室で北アメリカについて3時間、教科書で学び、南アメリカについても2時間教科書を用いた学習を行ったあと、南アメリカについて生徒一人ひとりがテーマを決め、学校図書館で探究学習を3時間行う。3学期には、1学級を6つの班に分け、班の中で「アマゾンの開発に賛成」「反対」に分かれるディベートを1時間行った。
岩浅教諭は「教科書に載っていることは(社会の事象についての)‘例’であり、調べることを通して‘分かること’や‘考えること’とはどういうことなのかを知って欲しい、というのが、この探究学習のスタートだった」と話す。「社会科は暗記科目と言われるが、実は情報活用能力が求められる科目。探究活動をしないことが、インプットのみの暗記科目になってしまう理由ではないか」。アマゾンの開発について探究することを通して自分との接点を見つけ、自分事として理解することにつながる。「さらにアウトプットすることで本人の理解が深まるので、知識が定着する。実際にアウトプットが上手に出来ている子は学力も高くなる」と話す。
▽2年「総合的な学習の時間」における実践「数学探究」で、3人が1つの班となり、週1回、8か月かけて探究学習を行った。
数学の担当教員と学校司書で集めた資料から、生徒は世の中にある‘様々な数学的な要素’について学び、それぞれが探究するテーマを決める。「宮沢賢治の作品にオノマトペがどれくらいの頻度で使われているか」「西洋美術の黄金比について」などのテーマが取り上げられた。計画的に探究に取り組み、中間発表ではよりよい探究と発表になるよう生徒同士の質問やアドバイスを受けて学習を進めた。最終発表を終えた生徒たちはやり遂げた達成感を感じた様子だったという。
「世界地理」「数学探究」いずれの授業も、まず導入で基礎的な知識を学ぶ「インプット」を行っている。そこから個々の興味も生まれ、次に思考ツールなどを使って探究テーマを決める。そして生徒一人ひとりが自分に合った資料を見つけて、各自探究したことをスライドにまとめて発表したり、ディベートなどで「アウトプット」を行っている。
授業に必要な資料を用意したのは学校司書の道浦百合氏。授業のキーワードになるものを考えながら教員と打ち合わせし、資料を検討する。「‘アマゾンの開発’の場合は、アマゾンについての資料だけでなく、環境問題に関連した、各種年鑑や『理科年表』(丸善出版)、地政学に関するもの、国連やJICAの資料など、様々な分野の資料が提供できるように準備する」。生徒一人ひとりに合った資料を提供できるように努めているという。
さらに、必要な資料を生徒が自分で見つけられるよう、パスファインダーを作成。単元の目的に沿った図書資料や、インターネット上で調べることに役立つURLが記されている(=図)。
特にGIGAスクール構想による1人1台端末が導入されたことで、パスファインダーの必要性が高まった。道浦学校司書は「教員からのパスファインダーの要望が多かった。1人1台端末を教室や学校図書館で使うようになったが、多くの生徒がなかなか的確な情報に辿り着けず、時間だけが過ぎてしまうようだ。またインターネットだけでなく、紙の資料も調べて欲しい、という意図もある」と話す。確かな情報のWebサイトに辿り着く力をつけつつ学習を進めていくために、パスファインダーが役立っているという。
生徒たちは書架で本を探すことに加え、パスファインダーを頼りに探したり、1人1台端末で検索をする。基本的に生徒が自分で資料を探すが、必要な資料に辿り着けない生徒には道浦学校司書がサポートをしていく。また生徒同士で「この資料に載ってるよ」「このWebサイトが使えるよ」などと自然に情報交換をしながら、学習を進める姿も見られるという。校外学習など実際に現場で得た情報に説得力があるということにも気づいていく。
「座学の学習とは異なり、学校図書館での探究学習は自分自身で動かないと課題を達成できない。自分の力で資料を集め、友達同士で情報交換したり、資料を共有しながら学べるのは学校図書館ならでは」(道浦学校司書)。
こうした学習を通して、「生徒たちは学校図書館を(インプットではなく)思考する場である、と思うようになった」と岩浅教諭は語る。
同校は全校生徒659人(2022年度)、特別支援級2学級を含む20学級がある。普段からさまざまな教科の授業で学校図書館を利用しているが、館内は48席のため、利用したい学級が重なってしまう場合には、ブックワゴンで資料を教室に運ぶこともある。
このような学校図書館の利用の調整や、必要な資料の準備には、岩浅教諭と道浦学校司書、授業者の教員との普段からの打ち合わせが必要だ。職員室では岩浅教諭と道浦学校司書の席が隣同士になるよう配慮され、毎朝の朝礼の後にその日の授業の確認を行うなど日常的に話しやすい。
資料や思考ツールを準備するのは道浦学校司書であり、頻繁に教員と相談できることは、大きなメリットだ。思考ツールが実際に授業で使ってみると的確ではなかった、となれば、同じ単元でも後から授業を行う学級では別のツールを用意する、素早い対応可能で、より良い授業づくりにつながっていく。
2019年度から同校に着任した岩浅教諭は当初、学校図書館で授業を行う際、他の教員にも「良かったら空き時間に授業を見に来て下さい」と声をかけてきたという。授業者以外の教員が2、3人、授業を見に来ることもあり、「生徒たちが‘なんで先生が今ここにいるの?’と驚いたりしています」(道浦学校司書)。そのようにして学校図書館を活用した授業は徐々に学校全体に広がっていったという。(勤務校は当時)
岩浅教諭や授業者である教員から、資料を使った授業の相談があると、まずは道浦学校司書が仮のパスファインダーとして、学校図書館で用意できる図書資料やWebサイトのURLなどを一日程度でまとめて共有のフォルダに送る。「授業で実際に生徒が使うかどうかは未定でもまずは作成してみる。蔵書の確認や、自分自身が授業内容やそれに沿った資料について理解する目的もある」と話す。
こうして作成された仮のパスファインダーは年間20以上に上り、その多くが実際の授業で活用された。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年4月17日号掲載