3冊シリーズの本の表紙を見てみよう。3冊の物語の順番は当てられるかな?原書のタイトルはどんな意味かな?――読む前に本の内容を推理することで、自然とその本に興味を持ち、読みたくなる。千葉県市川市立冨貴島小学校(小松﨑聡校長)では、2022年11月30日、読書のアニマシオンの授業が行われた。読書のアニマシオン研究会元代表の岩辺泰吏氏による『名探偵カッレ』を題材にした実践を紹介する。
授業を受けたのは6年1組27名の児童たち。事前に4人ずつ7つのチームに分かれ、それぞれ“探偵事務所”のチーム名を決めていた。「チームたまごやき」「TH探偵事務所」「古高探偵団」等々。ただし授業の内容は知らされていない。
冒頭「今日は推理的な授業をします。ある本についてクイズを出し、正解して合計の得点が高いチームが優勝です。優勝したチームは…拍手がもらえます」岩辺氏の説明から授業が始まった。
まずはウォーミングアップ。谷川俊太郎氏のある詩について、「これは谷川さんが6年生のために書いた詩です。詩のタイトルをチームで考え、当ててみて下さい」と岩辺氏が説明してから、暗唱する。
児童たちは詩を聞いてチームで話し合い、短冊に書いて黒板に掲示した。各チームがそれぞれ考え抜いたタイトルが並ぶ。「君の未来」「未来の自分」「水平線の先」「広げるだけじゃつまらない」「冒険する自分」「卒業証書」「望遠鏡の向こうの世界」。チームごとにタイトルを考えた理由も説明する。詩の言葉からイメージした、児童たちの発想は豊かだ。
正解は「卒業式」。決して簡単な問題ではない、この“クイズ形式”の授業はこれから一体どうなるのだろう、という児童たちの期待が高まったところで、いよいよ本題に入る。黒板に並んだのは、新訳『名探偵カッレ』(リンドグレーン/作 菱木晃子/訳 岩波書店)シリーズ3冊。
まず表紙だけを見て、3冊の物語の順番を当てるクイズから。表紙の絵の違いを考えながら、チーム内で意見が分かれたりしながらも、相談し、まとめて、本の順番を短冊に書いて各チームが黒板に掲示していく。
正解の3冊の順番が示される。表紙に描かれた登場人物が他の本よりも一人多い本が、最終巻となる第3巻。正解が当てられたチームもそうでないチームもある。
岩辺氏は『名探偵カッレ』はスウェーデンの中学生の夏休みの物語であること、スウェーデンの夏は白夜であり、2か月の夏休みがあること、カッレと2人の友達、エヴァロッタとアンデッシュは“白バラ軍”、対抗するグループに“赤バラ軍”があること等、物語の背景や登場人物について触れながら、シリーズ最終作『危険な夏の島』について――原書の表紙にあるスウェーデン語の「Rasmus」とはどんな意味なのか?――などのクイズを出していく。
本の中に出てくる暗号を解読してみるクイズでは、タテ書きで暗号文が書かれたプリントを配布。暗号文を読み解き、「分かった!(自分たちは)すごいよね!」と各チームで盛り上がった。
授業の最後に岩辺氏は「探偵物語や冒険物語はとても面白い。読み方のコツは、(話の流れが止まらないように)できるだけ一気に、できれば2、3日で読むことです。『名探偵カッレ』の舞台であるスウェーデンは、高校を選ぶ時に進路が決まります。そのため、中学校までが本当にのびのび過ごせる時間とも言えます。エヴァロッタのお父さんは『人生は短い、だからできるだけ遊んでおかなくてはならない』ということを言っています。本の解説も含め、皆さんもぜひ読んでみて下さい」と結んだ。
同校の学校司書が協力しブックワゴンには“探偵もの”の児童書が集められ、授業後に興味を持って手に取る児童の姿も見られた。
市川市では教職員が26の部会に分かれて月1回、自主的な教育実践の研修会を行っており、例年「公開研究会」を開催。保護者にも公開されている。
今回の授業は「学校図書館教育」部会による公開研究発表会。授業後の研究協議会では、活発な質疑応答が行われた。
岩辺氏は授業について「本を読まずに興味を引き出すアニマシオン」と解説する。「高学年は、筋道を立てたり、推理して考えるのが楽しい時期なので、“探偵もの”にもぜひ踏み込んで欲しい。アニマシオンは、楽しいひと時によって読書に導く手法」と話す。授業後「リンドグレーンはどんな人?」と尋ねる児童もいたという。
中学受験も間近な6年生の秋という難しい時期にもかかわらず、児童たちは全員集中して丁寧に取り組んでいた。読書推進や学校図書館活用に積極的に取り組んでいる市川市。岩辺氏は「子供たちの読書力、言葉の豊かさ、相談力がしっかりついていることに感銘を受けた」と語る。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年2月20日号掲載