資料館にひきとられた、古い百人一首。その箱から「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに」のふだが消えてしまった。対となる「やくやもしおの身もこがれつつ」のふだは、「来ぬ人を」連れ戻そうと風に乗って神社まで飛んでいき、「来ぬ人を」のところまで、とお祈りすると、百人一首成立の時代までタイムスリップ。貴族の女の子の姿となって、百人一首を選んだ藤原定家と、その孫の為氏に出会う。女の子は定家に弟子入りし、「もしお」と呼ばれるようになる。
鎌倉時代の京都と現代を行き来し、「もしお」たちが生き生きと活躍するファンタジーであると同時に、定家をはじめ実在の人物や史実が描かれる。「もしお」は、「来ぬ人を」をさがしながら、のちに百人一首とよばれることになる色紙が生まれる場に立ち会い、定家の思いに触れる。同じ年頃の為氏との関係も気になるところだ。
百人一首を教科書で学んだり、新年を迎え「かるた大会」など親しむ機会も増える。本書で歴史や編纂した人々について知れば、百人一首のへの興味がより深まるだろう。
教育家庭新聞 新春特別号 2023年1月1日号掲載