NPO法人 学校図書館実践活動研究会は8月20日、『「子どもの学び」市民フォーラムin東京 学びを支える学校図書館のDXを考える』をオンラインで開催した。開会にあたり、森田盛行理事長は「(主に1人1台端末を活用した)情報教育と学校図書館の融合が、大きな課題になると考えている。学習において、紙、デジタル、さまざまなツールを利用することで、豊かな学びができるのではないか」と語った。
「多様化する情報社会における学校図書館と情報教育の連携」と題した講義では、教育工学を専門とする立場から、初等中等教育における情報教育・ICT活用の推進の歴史等を解説した上で、情報教育と学校図書館の乖離に触れ、接点を見つける方策を提案した。
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「情報教育」とは、「情報活用能力を育成する教育」のことであり、情報活用の実践力、情報の科学的な理解、情報社会に参画する態度の3つを育成することです。情報教育=コンピュータ(ICT)ではありません。
学校として「情報」をこれまでどう扱ってきたのか。情報教育について、行政レベルでの検討が活発になったのは1980年代からです。高等学校では1999年の学習指導要領の改訂で情報科が新設され、2000年代には未履修問題もありましたが、科目の変遷を経て、2022年4月から高等学校の「情報Ⅰ」が必履修となり、2025年1月実施の大学入学共通テストでは「情報」が追加されます。GIGAスクール構想の推進や、小学校におけるプログラミング教育の必修化もあります。
そうした中で、学校教育の中の「情報」は変化しています。情報という言葉・概念を使うとき、最近ではその多くが「ICT」やコンピュータを前提としていることが多い。しかし「情報=ICT」に限定してしまうと、多様な教育資源を活用することはできません。
一方で、学校において伝統的に「情報」を扱ってきた学校図書館は、すべての学校に必置であり、「情報センター」「学習センター」「読書センター」の機能があるにもかかわらず、今の「情報」の文脈ではなかなか出てきません。文科省「教育の情報化に関する手引」の最新版では、本文中に司書教諭・学校司書は全く登場していないのです。
なぜ情報教育と学校図書館が乖離してしまうのか。「情報=ICT」という近年の風潮、調べ学習の場が学校図書館からインターネットへ移っている、学校図書館の資料が古い・少ない、という意見や、図書館=面倒、PC=楽、という偏見もあるようです。
実は情報教育と学校図書館の連携への模索は、以前からあります。「情報専門職の養成に向けた図書館情報学教育体制の再構築に対する総合的研究」(LIPER)は、日本図書館情報学会の会員を中心とした研究活動で、2003~5年に実施されたものです。LIPER学校図書館班の中間報告では、「学校内情報メディア専門家」の実現可能性を探り、教育工学、情報教育の専門家へインタビュー調査を実施しました。その結果、司書教諭を学校内情報メディア専門家へと発展させるための必要条件や、司書教諭とは別の存在としての専門職を養成する場合のアウトライン等について、大きな示唆を得ることができました。時流とタイミングが合わず、実際の動きには結びつきませんでしたが、情報教育と学校図書館をつなごうと試みた本活動は大いに評価されるべきだと思います。
いま、情報教育と学校図書館が乖離しているのは、情報教育関係者、学校図書館関係者それぞれが多忙であることが大きな理由だと思います。お互いに意識を向けたい想いがあるものの、既存の業務が多すぎて外に目を向ける余裕がない。
そうした中でも接点を持つために、3つのアプローチが考えられます。▽施設・設備面からのアプローチ…PC室と学校図書館の組み合わせ活用など、まずは現状の施設・設備でできることを考える、▽人的資源からのアプローチ…司書教諭の負担軽減、学校司書の活用、情報教育担当者(特に高校情報科教員)の適切な配置、▽情報教育における学校図書館活用の具体的実践例や、モデルカリキュラムの検討。
実践例や授業をどんどん公開して頂き、失敗も共有しながら、学校図書館活用の良さを積極的に発信していくことが求められます。
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本フォーラムではほかに(一社)ICT CONNECT21会長・東京工業大学名誉教授・赤堀侃司氏の記念講演、文部科学省総合教育政策局地域学習推進課・図書館・学校図書館振興室長・朝倉博美氏の講演、関東学院六浦中学校・高等学校専任司書教諭・久渡愛美氏による実践発表が行われた。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年9月19日号掲載