『まんが地域学習シリーズ 守ろう!みんなの東北』(全4巻)は、読者と等身大
の登場人物たちが妖怪たちのいる‘もう一つの東北’を冒険しながら、地域の課題を学び、さらに課題解決に向きあえる点が大きな魅力だ。刊行のきっかけとねらいについて、刊行したマイクロマガジン社の岡野信彦氏に聞いた。
岩手県遠野市に暮らす小学6年生の石澤研治(ケンジ)は、ある日大きな地震によって、人間の世界と隣接している「もう一つの東北」に迷い込んでしまう。そこは、人間ではなく妖怪が跋扈する世界。妖怪たちはケンジに「なぜ東北の山を破壊する?」「数多の生き物がすむこの世界をなぜこわす?」と詰め寄るのだった—。
『まんが地域学習シリーズ 守ろう!みんなの東北』は、『①自然と伝統文化編』『②復興と気候編』『③人口減少とお祭り編』、そして今年6月刊行の『④東北の未来編』で完結となる全4巻。まんがの世界観を楽しみながら青森・秋田・岩手・山形・宮城・福島の東北6県について学べるシリーズだ。
刊行開始当初の2021年は、東日本大震災から10年として注目を集めた年でもあった。しかし「本シリーズの刊行はそれがきっかけではない」と話すのは、マイクロマガジン社・第一編集部の岡野信彦氏。同社では2007年に一般書『地域批評シリーズ』を創刊し、日本各地の本質や問題点を探る書籍を刊行してきた。取材を通して「日本の将来を担う子供たちにも‘地域の課題’を深く知ってもらうべき」と考えたという。
そこで子供向けに、少し難解でもある地域問題を分かりやすく学習まんがで解説する『まんが地域学習シリーズ』が誕生した。第一弾で「東北」をテーマにしたのは、東日本大震災から10年ということはもとより、『地域批評シリーズ』の中でも、東北が最も反響が大きかったから。「東北の人は大人も子供も地元愛がとても深い、ということを強く感じていた」(岡野氏)。
『まんが地域学習シリーズ 守ろう!みんなの東北』では、現実の東北とパラレルワールドで存在するもう一つの東北に迷い込んだ小学生たちが、冒険の最中に、妖怪・モンスターである「もんのけ」(人間社会の『問題』がかたちになったもの)から現実の東北の地域問題を聞き、子供ならではの発想でその解決法を考えるという、ファンタジー要素が溢れるストーリー展開となっている。ケンジをはじめとする登場人物は、東北各県出身の、いずれも小学6年生。読者である子供たちと等身大の登場人物たちも、それぞれ個性的だ。
『①自然と伝統文化編』で登場するもんのけ「こけし」は、ケンジたちに「なぜ人間は昔ほどこけしを買わないのか」「買わないから作らないのか」と問いかけ、伝統工芸品は作られなければ『工人』が減り、技術もなくなるという危機感を訴える。工芸品は‘おみやげ’になるためでなく、‘使う’ために生まれたのだから、もっと『使う』ものとしての魅力を発信する必要がある、というこけしの言葉に、ケンジたちは自分たちにできることを考えていく。「ネットを使えば東北にいながら世界中に発信できる」「工芸品の伝統を生かしながら、使われるために『進化』してもいい」。初めは険しい表情だったこけしは、子供たちのアイデアを聞き、笑顔を取り戻していく。解説記事として、東北の伝統的工芸品や、伝統工芸文化が衰退する理由などを取り上げる。
「もんのけ」たちは、天狗や座敷わらしなどの妖怪の姿や、サメ(フカヒレ)、ナマハゲ、冬将軍、ねぷたといった東北ならではの姿をしており、シリーズ全体で東北の自然や環境、伝統工芸品や祭りなど伝統文化の大切さ、鉄道、豪雪地帯の現状、東日本大震災からの復興などのテーマを網羅する。さらに課題解決を考えるヒントとなるコラムや豆知識も充実。「再生可能エネルギーと環境問題」(①巻)、「ネットリテラシー自己診断テスト」(②巻)「コンパクトシティとスマートシティ」(③巻)、「地域探究学習は楽しい!」(④巻)など、東北地方に限らず現代的なトピックスを掲載した。
本書をまんがとして作成する上で、最も難しかたのは「「まんが的なストーリーの中に、地域問題をどう分かりやすく落とし込んでいくかということ」だったという岡野氏。そこで設定を大胆に工夫し、パラレルワールドでもんのけに出会うという、冒険ファンタジーとしての楽しさを生み出した。読者の子供たちも、ケンジたちと一緒に「ふるさとのために自分たちは何ができるのか」を考えて欲しい、そんな願いが込められている。「地元を基準として他の地域を見てみると、さまざまな違いに気付くはず」と岡野氏。段階を追って領域を広げていくと、日本全体の課題も見えてくる。さらに海外との違いにも目を向けることにつながる。「本書が社会全体を考えるきっかけになれば嬉しい」。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年6月20日号掲載