4月に成年年齢が18歳に引き下げられ、今夏には選挙権年齢が18歳となってから3度目の参院選も行われる。(一社)日本新聞協会は「主権者教育のこれからとNIEの可能性」と題し、第5回NIE教育フォーラムを2月26日にオンライン形式で開催した。
パネリストは関西学院大学准教授の鈴木謙介氏、明治大学特任教授で元日本新聞協会NIEアドバイザーの藤井剛氏、ivote副代表で中央大学法学部1年の小泉のの花さんを迎えて、パネルディスカッションが行われた。司会は日本新聞協会NIEコーディネーターの関口修司氏。
司会の関口氏によると、4月には成年年齢が引き下げられ、若者の社会参加の機会が増えていくことが予測される。そうした中、主権者教育に注目が集まっている。10代や20代の若者の投票率は低い。若者の政治の関心度を高め、投票に結び付けるには、どうすればよいかと問題を投げかけた。
関西学院大学で社会学を教えている鈴木氏は、自分の1票が政治を変えると思える感覚を「政治的有効性感覚」というが、この値が日本の若者は低く、投票をしても無駄と思っている人の割合が高いとする。日本財団が実施した18歳意識調査によると「自分で国や社会を変えられると思う」「社会課題について家族や友人など周りの人と積極的に議論している」という質問で「はい」と回答した割合は、諸外国と比べて日本の若者は最下位だった。「自分の行動が社会に影響を与えるといった感覚が日本は諸外国と比べて低く、特に若い世代ほど乏しい傾向にある。これが政治行動の消極性につながっている」と鈴木氏は考察する。
学生団体ivoteの副代表を務める小泉さんは、普段は中央大学法学部政治学科で政治学やメディアなどを学んでいる。高校3年の時に周りに社会や政治について話せる仲間がいなかったことがivoteに入ろうと思ったきっかけ。現在は中・高校生に向けて、出前授業で模擬選挙を中心とした主権者教育を行っている。
「日本の若者の政治離れが進んでいると言われるが、学校内で政治や社会の話題に触れることができない、今の環境に問題があるのではないか。そうした環境では政治を避けるようになり、選挙という行動に移れない」と小泉さんは語る。
千葉県の公立高等学校の教員を32年勤めてから、明治大学で教鞭を取っている藤井氏は、主権者教育を行うための高校生向け副教材として総務省と文科省が作成した「私たちが拓く日本の未来」の編集に関わった。藤井氏は日本の若者は本当に政治に興味が無い訳ではないという。「2021年の衆議院選挙では18歳の投票率は50%に達していました。また、山形県の選挙管理事務所が調べたところによると2016年の参議院選挙で18歳の高校生の投票率は83・2%だった」とし、しっかりと主権者教育を行い、背中を押してあげれば投票行動に結びつくと述べる。
政治的中立性については、日本の学校で主権者教育を行う際に、ドイツにおける政治教育の基本原則であるボイテルスバッハ・コンセンサスが参考になるのでは、と小泉さん。「ドイツでは、①教員が自らの意見で相手を圧倒して生徒の判断を妨げてはいけない、②学問と政治の世界で対立があれば授業の中でも論争があるものとして扱う、③生徒は自分の利害に基づいて政治的状況を分析し、政治に参加できる能力を養うなどのルールがある。こうしたルールが日本でも実現すれば主権者教育も前進するのでは」と考える。
鈴木氏は複眼的に情報を見ることができるのが、主権者教育で新聞を教材として使うことの強みと語る。さらに、新聞を使う際に重要となるのが記事のスクラップとなる。「紙面の記事は流れていく情報だが、スクラップして保存しておくとデータとなる。デジタルの新聞の場合、他者と共有するのが難しいという問題がある。もっと簡単に他者と共有できる仕組みができあがれば、紙かデジタルかという形で新聞を捉えなくても良くなるのでは」と語る。
主権者教育における新聞活用として、藤井氏はマニフェストの比較を挙げる。「若者の選挙の棄権理由は、政治に関心がない、面倒くさい、誰に投票したら良いか分からないなど。この中で誰に投票したら良いか分からないを防ぐ手段として、各政党のマニフェスト一覧を生徒に配るという手法がある。自分の考えに近い政党をマニュフェストから選ぶことで政治を身近なものとして捉えられるようになる」という。マニフェスト一覧を教員が作るのは難しいが、選挙前には新聞に掲載されるので、それを活用することができる。
最後に関口氏は高校生にはもっと政治について議論してもらいたいとし、「議論することで主権者教育の意識が高まり、票の質を高めることにつながる。新聞を授業に使って主権者教育を盛り上げてほしい」とフォーラムを締め括った。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年3月21日号掲載