この春出版された絵本『みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし』は、「きょうだい児」をテーマに、その心の葛藤と、障害を持つ弟との関わりを温かく描いている。「きょうだい児」とは、障害や病気をもつ子供の、健全な兄弟姉妹のことであり、様々な悩みを抱えているという。自身もきょうだい児であり、現在は亀田総合病院(千葉県)の小児科医としてきょうだい児のサポートを行っている、作者の湯浅正太氏に話を聞いた。
『みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし』…「ボク」は、「おとうと」のことが好き。でも、障害のあるおとうとがうまく喋れなかったりする様子をもどかしく感じたり、両親がおとうとにばかり構っているように思い、葛藤を抱えている。ある時、「みんなとおなじくできないよ」と話すおとうとの苦しい心の内を知ったボクは、「おとうとのことをもっとわかりたい」と悩み、行動し、ある一つの答えに辿り着く。
湯浅正太・作 石井聖岳・絵
日本図書センター 定価 1760円(税込)
はい。自分と同様、みんなと同じようにふるまえない兄弟姉妹のいる人に、“キミはひとりぼっちじゃないよ”と伝えたくて書きました。きょうだい児について、周囲の理解にも役立てて欲しいと考えています。
病気/障害を持つ子供(「同胞」と呼ぶ)の家族であるきょうだい児の特有の悩みとは、一般的に①自分も、同胞と同じような病気/障害を持つ(持っている)のではないかという不安、②皆と同じような行動ができない同胞への恥ずかしさ、③同胞が病気/障害を持ったのは、自分が原因ではないか、という間違った罪悪感、④両親共いなくなったら、同胞と自分だけで暮らしていけるのかという将来に対する不安、⑤同胞のせいで、自分が思うような生活ができないことへの憤り・恨み、⑥同胞を支えるためには、自分がしっかりしなければいけない、というプレッシャーなどです。
私自身は、特に③④に苦しめられました。弟と私は同じ小学校に通っていたので、悩みながらもできる限り弟を助けようと、弟のクラスに行って彼がいじめられていないか見張りに行ったこともありました。
“自分がもっと弟のことを理解できれば、弟を助けられるかもしれない”といった思いが強くなり、小児科医になった経緯があります。
子供にとって最も身近な「親」は、「障害のある子供」も「きょうだい児」も、等しく大事に育てたいのです。ただ、そうは言っても障害のある子供に接する時間が多くなってしまう傾向があります。きょうだい児が放っておかれてしまう現実を、後ろめたく感じる親は少なくない。
そうした中できょうだい児は、次第に心の不調を訴えるようになります。具体的には、イライラして突然怒ったり、勉強に集中できず成績が悪化したりします。さらに「お前はどうしてきちんと行動できないのか」などと叱責を受けると、自己肯定感も低下していく。家族はこうした経験を経てようやく「きょうだい児」としての支援が必要だったと気付き、後悔することも多い。
しかし「きょうだい児」への理解が乏しい親が“悪い”という訳ではありません。親は必死に頑張っています。ですから、「きょうだい児」の支援について、親だけに責任を押し付けるべきではありません。
重要なのは社会が「障害を持つ子供」と「きょうだい児」に関する理解を深め、その知識を家庭(親)に提供したり、家庭(親)に心の余裕が生まれる支援を行うことだと考えています。
(次回7月19日号では、学校におけるきょうだい児支援を紹介します)
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年6月21日号掲載