杉並区(東京都)では、学校図書館の環境整備や学校司書の資質向上のための研修に長年取り組んできた。今回注目する学校図書館支援担当は、サポートデスクとして日々の学校図書館業務を支えるほか、研修会の実施や先進的に学校図書館活用に取り組む学校への財政的な支援、学校間の情報共有、物流の充実など多角的な取組を行っている。今年度、(公社)全国学校図書館協議会が主催する学校図書館賞を受賞。受賞事由は「研修プログラムと実施ノウハウが広く公開されれば、他の自治体にも大いに参考になる」など「杉並区の支援体制と支援内容の手厚さ」(『学校図書館2021年6月号』)。
杉並区には小学校40校、中学校23校、特別支援学校1校があり、学校図書館を中心とした、読書推進や情報活用能力の育成が積極的に進められている。各校の主体的な取組を学校図書館支援担当が後押ししている。2009年、学校司書配置開始と同時に、学校図書館支援担当は済美教育センター内に設置された。
同区では学校司書を区立の全小・中学校に週5日6時間で配置。特別支援学校への学校司書配置はないが、司書教諭を小学部と中学部に各1名配置している。各校で教員と学校司書の連携が積極的に行われ、学校図書館支援担当は、サポートデスクとして日々の業務を支えている。スタッフは、区の常勤職員である担当係長をはじめ、小・中学校の元司書教諭2名と元学校司書2名の構成で、指導主事も関わり、学校図書館活用に関連する事柄に対応できる体制を整えている。支援内容は、図書資料の購入や学校図書館システムの操作、館内のレイアウト変更、蔵書構築や環境整備、学校図書館を活用した授業についての相談など多岐にわたる。学校図書館を訪問したり、電話やシステムを使って相談を受けることも多い。
研修会企画運営も学校図書館支援担当業務の大きな割合を占める。月に1回定例で学校司書研修を行うほか、教員と学校司書の合同研修も実施。さらに教員向けには、司書教諭研修だけでなく、年度によっては若手教員研修や管理職向けの研修を行い、希望者が参加できる学校図書館の活用研修では調べ学習や読書会の指導方法など具体的な内容としている。これらの研修を通じて、教職員全体に学校図書館活用を促している。昨年度は新型コロナウイルス感染症対策で動画配信や資料配布などで対応した。
また学校間・センター貸出の物流システムや公共図書館との連携など、学校図書館を取り巻く環境整備にも力を入れる。
「学校図書館活用実践校」事業に注目する。これは司書教諭(学校図書館担当教諭を含む)が学校の推進役となって、学校図書館支援担当が指定する学校図書館活用項目を展開する学校を募集する事業。例えば、選定基準・廃棄基準の見直し、蔵書比率の確認を行った上での蔵書計画作成、読まない児童生徒への働きかけを含む学校全体の読書推進計画作成と実践、情報資源を活用する学びの指導体系表(全国学校図書館協議会作成)の活用とそれに基づく授業実践などである。応募校から毎年複数校を選定する。
実践校には校内組織として学校図書館運営委員会の設置と開催を必須としている。委員会の名称は各校によって異なるが、学校図書館長(校長)、副校長、司書教諭(または学校図書館担当教諭)、情報教育担当教諭、学校司書等を構成メンバーとする。
2020年度は小学校4校、中学校2校が取り組んだ。井荻小学校では、校内組織「図書・情報プロジェクト」を立ち上げ、情報資源の活用に取り組んだ。Web上の情報も学校図書館の資料とし、「情報資源を活用する学びの指導体系表」と、同校の情報活用能力の段階表との整合性をとり、校内研修で教職員の共通認識を図った。
済美小学校では、自校独自で「課題図書」を設定。幅広い分野から、低中高学年計220冊を選定した。重点を置いたのが、読まない児童・読めない児童への読書指導。読み取りの課題がある児童へ配慮し、教員と学校司書が選定した2冊の本から好きな1冊を選べるようにして、ひとこと感想を毎週記入する。一人ひとり異なる“読み”の特徴を担任が把握し、学校司書と共有することで、丁寧な個別支援につなげる。
同事業は各校それぞれの課題を可視化し、指定校が解決のための道筋を具体的に考えることを促す。学校図書館支援担当は指定校からの相談に応じ、計画づくりの助言や授業見学を行っている。年度末に行われる各校の実践発表は、昨年度はオンデマンドで行い、全校で共有された。
今年度は4校が指定校で、情報活用能力の育成、読書推進活動や教科学習での学校図書館の活用推進に取り組む予定。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2021年6月21日号掲載