2月末、コロナ禍で閉館した学校図書館では、「場」を活かした従来の実践ができなくなった。そうした中、5月に開設されたWebサイト「2020新型コロナウイルス対策下の学校図書館活動」は、休校期間中の全国各地から学校図書館の状況や取組をいち早く発信。サイトを開設した青山学院大学教育人間科学部教育学科・庭井史絵准教授に話を聞いた。
Webサイト開設のきっかけは、4月23日に文部科学省が公表した「休校中の学校図書館」(※1)です。主に本の貸出について示しています。貸出はもちろん大事なことですが、管理職や一般の先生方がこの指針を見た時、学校図書館に期待できることは本の貸出のみ、と考えてしまうのではないか、また学校図書館では本の貸出をすることだけが目標になってしまうのではないか、と危惧しました。
実際には休校期間中、本の貸出に留まらず、さまざまな取組が行われていました。メールやGoogleフォーム等を活用した生徒や教員へのレファレンス、HP上での本の紹介や、学びに役立つリンク集の作成、と事例はたくさんあります。ユニークな活動としては、学校図書館の主催による生徒対象のオンライン講演会というのもありました。情報リテラシーに関する内容で、自宅で学ぶ生徒たちが必要な知識を得ることができた。学校図書館は“今”伝える必要があることを伝えることに成功している。
そのような取組を共有できる場を作り、また記録として残したいと考えたのです。できたこと、できなかったことも含めた「経験値の集合体」を作りたかった。
それらの取組は管理職の後押しや、学校全体の理解があったからこそだと思います。働きかけにもかかわらず、思うように動けないという声も多かった。管理職や教員とのコミュニケーションがいつも以上に取りづらい状況の中で、普段からできていないことは、非常時にもできません。
一方で、学校図書館が得意なことを活かせるニーズを掘り起こすことも大事です。「これは図書館に相談すればやってもらえる」というイメージを持ってもらうためのアクションが必要です。
今は各教科の教科書にも読書や調べ学習に関する内容が入っていますから、それに普段から色々な形で学校図書館が関わることで、資料提供以上の役割を果たせるようになる、と考えています。特に今回のような状況の中では、一緒に課題づくりをするだけでもいい。
学校では学びを継続するためにさまざまなことに取り組んでおり、止まってはいない。学校図書館だけが、開館して本の貸出ができて初めて自分たちのサービスができる、と思うのではなく、自分たちの「機能」に目を向けて、その役割を果たす必要があります。
学校図書館には、「ミッション(使命)」と、「機能・役割」、「実践」があります。
「ミッション」は、学校図書館法に「教育課程の展開に寄与する」と示されています。
学校図書館は「読書センター」「学習センター」「情報センター」の3つの「機能・役割」を担うことによってこのミッションを全うしようとする。
その「機能・役割」を果たすために、読み聞かせや図書館の利用教育、資料の提供、ブックリストの作成といった「実践」が生まれてきます。
私自身、司書教諭として勤めていた期間を含め(※2)、「場」としての学校図書館を大切にしてきました。
「場」を作ることは目に見えるのでわかりやすい。開館時間やスペースの工夫、色々なサービス等、場所としての学校図書館にはさまざまな「実践」があります。
しかし今回、その「場」がなくなり、それまでの実践の多くができなくなった。では、何をやらなければならないのかと考えてみると、これまでとは別のアプローチが思い浮かぶのではないでしょうか。
そうした意味でコロナ禍は、学校図書館を「場」からではなく、「機能」から考える機会になったと思います。
まず「情報センター」「学習センター」としての「機能」を考えてみると、授業はないが課題は出ており、その中で学んでいる子供たちに、どのような情報や資料が必要かを考える。例えば情報にアクセスできるリンク集を作り、それを先生方の課題のプリントに一緒に入れてもらう。あるいは学校図書館員(※3)が自分でリンク集を作らなくても、教員に「子供たちにこのサイトを教えるといいですよ」と一言、伝えるだけでもいい。それはHPにリンク集を作るのと同じ機能と言えます。
「読書センター」としては、読書を推進し、読むことを継続させる役割を持っている。そのために子供たちの「読む」環境に目を向ける。また、なぜ本を読んで欲しいのかを考える。
物語を楽しんで欲しいならば、映画等、物語性のある映像作品を紹介してもいい。活字を読んで色々と想像して欲しいと考えるなら、文字情報に触れ続けることができるよう、身近な「読み物」を紹介して、子供たちの読書をサポートすることができます。「家にはどんな本がどれ位あるか見てみよう」「毎日家に届く新聞を読んでみよう」といったことでもいい。
「物語に触れたい」「新しいことを知りたい」「課題に役立つ情報が欲しい」等、本を手にとる理由は様々です。それに応じて、本は提供できなくても、情報を得るにはさまざまな方法があることを伝えて子供の「窓」をたくさん開いてあげる。
極端な例を挙げるなら、「おじいちゃんにお話を聞いてみよう」でもいいのです。コミュニケーションをとることで、おじいちゃんも情報源になりますよね。
人に尋ねたり、ネットで検索したり、本で調べることを思いつく子供もいます。でもそれができない子供もいる。そもそも窓が開いていない。そういう子供の窓を開けてあげて、情報にアクセスする機会を与えるのは、学校図書館員のとても大事な役割です。
そのためのアプローチとしては、子供に直接指導する、という方法と、先生を通して、あるいは先生と一緒に子供たちを指導したり支援する、という方法があります。
例えば授業で「ネットで調べてみよう」と子供たちに指導している教員には、「ここを工夫すれば、先生の授業はより良いものになりますよ」と伝える。
また、教員を対象に情報検索講座を開催してみる。先生方が同じテーマで検索し、どんなキーワードを使ったかを全て記録してもらう。3~5人でキーワードを交換し比較すると、意外とみんな違っていたりします。誰が検索しても同じ結果が出るわけではないことに気づいてもらう。
図書資料の予算が少なかったり、読み聞かせの時間がとれなくても、学校全体の学習活動の中で、関わるべきところを見つける、そこから学校図書館の機能・役割を果たすことが始まると思うのです。
今回、「図書館の人だから詳しいはず」と思われていることがいろいろある、ということも分かりました。
PCのセッティングの手伝いや、機器の貸出といったことを求められた学校図書館員もたくさんいたようです。私自身、学生向けの授業の配信などに際して、著作権について同僚から多くの質問を受けました。司書や司書教諭が情報の専門家であると思われているからですよね。
さらに、GIGAスクール構想による、児童生徒1人1台PC配備によって、情報利用の仕方は今後大きく変わっていくでしょう。
子供たちはすでに、ネットや動画から色々な知識を得ています。それらを本と同じ「記録された情報」として受け止め、学校図書館が提供するリソースであると考える必要があります。
本来、学校図書館はさまざまな情報の提供が得意なはずです。これまでも本・新聞・雑誌・DVDなどを、必要に応じて使い分けてきたのですから。
今までは、調べる・まとめる・発信するという作業が、別々に行われてきました。しかし1人1台PCの環境では、常にそうした作業を行き来するようになる。
集めた情報を編集したり、動画を加工することは、必ずしも発表のためだけではなく、さまざまな場面で行われ、何度も調べたり作ったり発信したりするような、情報利用の仕方になる。授業でも個々のペースで学ぶようになっていくでしょう。
紙の教科書一冊だけで学べる時代が終わったので、PCという情報ツールを子供たちに渡すことになった。彼らが扱っている情報に対して、学校図書館がどのように関わり、支援していくのか、勉強が必要ですし、やらなければならないことはたくさんあると思うのです。
2020年5月15日開設。全国の公私立小学校~高等学校の状況のほか、国や地方自治体の情報を通してわかる取組、企業その他の団体と連携した取組等も掲載している。「学校図書館は一人職である場合が多い。他の学校図書館ではどのような状況で、何に取り組んでいるのか、情報が必要な方に役立つようなるべく早く立ち上げることを目指しました」(庭井准教授)。アンケート形式で各学校の状況について情報を集め、寄せられた回答は加工せずそのまま掲載。「学校図書館のこれまでにないコミュニケーションの取り方や、授業との関わり方についての発想が面白いと思いましたし、それがたくさんの先生方の目に触れて欲しいと思いました」。更新は終了しているが、現在も閲覧は可能。
※1 4月23日に文部科学省総合教育政策局地域学習推進課による事務連絡の中で、「学校休業中の学校図書館の取組事例」として「時間を区切っての図書の貸出し」「分散登校日を活用した図書の貸出し」「郵送等による配達貸出し」「学校司書によるおすすめ絵本の紹介など」が示された
※2 慶応義塾普通部の司書教諭として、2001年4月から2019年3月まで勤務
※3 「学校図書館員」ここでは、学校図書館に関わる教職員の総称として使用
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年9月21日号掲載