SDGs(持続可能な開発目標)を実践するために、子供が取り組めることにはどんなことがあるだろうか。学校や家庭の中でできることは何だろうか。東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭は、「楽しみながら」取り組むことを提案する。普段の生活の中で、すでに当たり前のこととして行っていることを意識し、さらにそこから一歩踏み込んで取り組むポイントを紹介する。
SDGsが世界のさまざまな課題解決のために掲げている「1 貧困をなくそう」「2 飢餓をゼロに」などの17の目標は、少し大きくて難しいテーマでもある。子供たちが「自分ごと」として考えて行動するためのポイントは、普段の生活の中で「楽しみながら実践すること」「自分の頑張りを可視化すること」だ。
昨秋出版された『SDGs ぬまっち式アクション100』シリーズ(鈴木出版)は、『①学校編』『②まち編』『③家族編』全3巻で小学生が取り組むSDGsの計100のアクションを紹介する。
本書を監修した“ぬまっち”こと沼田教諭は、担任した学級での「ダンシング掃除」や「勝手に親善大使」などがメディアでも紹介され、子供が自分たちで考え、楽しんだりしながら行動する、自主性・自立性を引き出すユニークな授業が注目されている。本書のSDGsのアクションも、子供たちが頑張って何かを達成するのではなく、楽しみながら実践できるアイデアが満載だ。
生活の中で実践できるアクションは、毎日のちょっとした心掛けから始められる。『①学校編』で紹介するアクション「END」は、“えんぴつ ながいき だいさくせん”のこと。鉛筆ホルダーをつけたり、筆箱に入れる本数を決め、1本の鉛筆を長く使うことが、資源(木)を大切にすることにつながる。
また「七日七善」は、1週間で7回“いいこと”をしてみる。“一日一善”ではなく、無理せず自分のペースで取り組み、SDG「3 すべての人に健康と福祉を」につなげる。
さらに一歩進んだ取組も。「お助けピクトグラム」(=写真)は、SDG「3 すべての人に健康と福祉を」「11 住み続けられるまちづくりを」に沿った活動だ。アメリカから来た転校生が、保健室がわからなくて困っている。そこで、漢字が読めなくても場所がわかるように、学校のピクトグラムをみんなで考える。アイデアを出し合ったり、形にしていくのは、子供も大人も楽しい作業になりそうだ。
子供が楽しんで取り組むためには、「大人も一緒に楽しむこと」と沼田教諭。SDGsは「自分ができることを、みんながそれぞれでやっていくもの」。お助けピクトグラムも、大人、子供も関係なく、学校だけでなく家庭で、タブレットを使ったりしながら作ることもできる。「子供が自分からやりたくなる環境を作ることが大切」。
多くのアクションに「地球にっこりフローチャート」が付いている。編集を担当した同社の初野友憲氏は「もっとも工夫した点のひとつ」と話す。実践したこととSDGsとの関連性や、どんな“いいこと”があるのかを示している。普段からの何気ない行動の中にも、SDGsの目標達成に貢献できることが理解できるようにした。
沼田教諭は「SDGsの達成目標は子供たち自身が“自分たちが大人になったときの地球のため”という、当事者意識を持つことが大切」と言う。一方で「できたことが、どこまでできたか、どれ位できるようになったかが分からなければ、“やる気”は続かない」。SDGsは、一人ひとりの実践がすぐに地球環境の改善や課題解決に結びつくわけではなく、少しずつ効果が現れるもの。数十年先を見る取組は、自分の頑張りが見えにくいのだ。「だからこそ可視化して、ポイントを貯めるように確認できることが重要」。
小学校の教科の学習に取り入れられる内容も多い。『②まち編』では、2年生活科から始まる地域学習に関連づけられる内容も多い。買い物の際のアクション「ギリギリ品レスキュー」や「レッツつめかえ」は高学年での家庭科で学ぶ消費者教育、「人助けマーク」は3年国語科「記号」にも関連づけられそうだ。
『③家族編』は「アナログそうじチャレンジ」「家電調査隊」「わが屋の計画停電」など、家庭だからこそできるチャレンジも紹介する。
折しも新型コロナウイルスの影響が続き、生活様式も変化の過程にあると言える。沼田教諭は「この先のニューノーマルについて、学校や家族、友達同士で話し合ってみるのも良いと思う。SDGsはどう進んでいくのか考える準備期間と、前向きにとらえることも可能なのではないか」としている。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2020年6月15日号掲載