(公社)全国学校図書館協議会は5月18日、「学校図書館実践講座〈特別企画〉」を東京・千代田区の専修大学で開催した。東北大学加齢医学研究所の川島隆太所長が登壇し、「子どもの脳の発達と読書」をテーマに講演。読書が脳に及ぼす影響、成績向上につながる読書の効用、読書と脳の関係、脳とスマートフォンの関係について科学的見地から論じた。
川島所長は、昨年出版された著書『読書がたくましい脳をつくる』(くもん出版)で、宮城県仙台市の公立小中学校に通うすべての児童生徒を対象とした学力調査研究から明らかになったことを論じている。今回の講座には、図書館関係者をはじめ、小学生や未就学児を連れた保護者も来場した。
大脳の前頭前野は、メタ認知をしている部位とコミュニケーションを司る部位がある。前頭前野は子供のどの能力を伸ばすかにも関与している。
新聞記事を読むと左右の脳が同時にしっかり働くという実験結果が出た。同じ作業の繰り返しは、慣れによって脳の反応が弱まると考えられがちだが、読書の場合は何度同じ本を読んでも強い反応が出続ける。
音読は黙読よりさらに脳が働く。「言語処理を担っているのは左脳だけという通説はもう古い」と川島所長。読書は「脳の全身運動」という。
子供の創造性(クリエイティビティ)の源も、脳の活動領域を調査することで明らかとなった。
何かを創造するとき、脳では言語処理の部位と言語知識の格納部位が活発に働いている。つまり頭の中では、それまでに身につけた言葉を使って物事を考えている。子供の創造性を育てるには、新聞を読んだり読書をすることが必要だ。これは読書量が多い子供ほど、大脳左半球の白質(神経線維が密集している部位)が発達していることからも裏付けられる。
なお、読書時間が長く寝不足になっている子供たちの主要4科目の成績は平均点以下になった。睡眠を阻害する量の読書は避けるべきだ。
一方で、読み聞かせも子供の脳を守り、発達を促すことが明らかになってきた。それは「言語処理を行う読書」とは異なる効果で、本の読み聞かせを聞いた子供の脳では、言語活動に関わる前頭前野ではなく、脳の奥にある辺縁系と呼ばれる部位が最も強く働いていた。辺縁系は感情や情動を扱い、コミュニケーションに深く関わっている。大人が自分の心から子供の心へと働きかける読み聞かせでは、子供はドキドキしたり、感情が揺さぶられる体験をしていることが分かった。
山形県長井市で実施している「よみきかせプロジェクト」では、15分程度の読み聞かせによって、子供の言語能力の向上だけでなく、問題行動が減ることが明らかとなっている。子供にとって外での集団生活は環境ストレスとなるが、親子のコミュニケーションとしての読み聞かせを通じて、家庭が緊急避難基地にもなる。言語能力の向上も図りたければ、子供に「今度はお父さんに読み聞かせして欲しい」と声掛けし、役割変換の遊びを取り入れるのも良い。
スマートフォンの使い方の違いでも脳の発達との因果関係が明らかになりつつある。仙台市生活・学習状況調査の2013年度の結果では、スマホを長時間使用していた生徒は、自宅学習時間の量や睡眠時間の長さに関係なく、主要4科目の成績が悪くなった。一方で使用時間が1時間未満の生徒は、成績に影響がなかった。
「スマホは道具として使ってほしい。インターネット検索や部活動などの連絡のための道具として使う場合、使用時間は1時間未満に抑えられるはず」。スマホを長時間利用する子供は、SNSでの会話などのための時間を、数時間以上作る傾向にあるという。
また子供はスマホを利用する時、1種のアプリに長時間留まらず、複数のアプリに短時間で移動する傾向がある。さらに1つのアプリの使用時に、様々な「通知」などの割り込みによって集中力も途切れる。電子書籍で読書を推進する場合は割り込みのない読書専用端末が効率的だ。
集中力が続かず、読書が苦手な子供の場合、一文が短いものから徐々に長いものにしていく。難易度は重要ではなく、その子供にとって読みやすいものから読むこともポイントだ。
『読書がたくましい脳をつくる 脳科学が見つけた、みんなの生活習慣と脳の関係』
読書で成績がよくなる科学的な理由について小学校高学年頃からでも読みやすく書き下ろされた。
本体1400円+税
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年6月24日号掲載