「第22回 図書館を使った調べる学習コンクール」(=以下、コンクール)の作品受付が今月末終了する。応募作品数は年々増え、今年は10万点を越えると予想されている。主催の(公財)図書館振興財団では今回、大人への作品募集にも力を入れており「調べた結果が社会に繋がるようになって欲しい」と佐藤達生事務局長は語る。
子供たちに図書館の楽しさを知ってもらい、将来大人の利用者になって欲しい、という願いからコンクールはスタートしました。
始めてみると「自分で課題を見つけて調べ、他者に伝える」力が身につき、「学力の向上」に直結することに気付きます。こうした教育的効果が教育の現場で注目され、新学習指導要領の推進する「主体的・対話的で深い学び」にも結びつくことから、応募点数が年々増えています。地域コンクールも、昨年の119から、今年は132団体に増えました。
公共図書館は行政に対して市民がクリティカルな視点を持ち、民主主義を維持するために必要な施設です。その図書館を発展させることが、巡り巡って我国の持続的な発展に繋がると考えています。
自分の住む地域について調べる子供が一定数いる、ということがわかってきました。
身近な地域を調べることで、歴史上の人物との繋がりや、地元の産業や歴史・文化を知り、誇りに思う感情が生まれるのではないか、と考えています。「自分の住む町が好き」という気持ちが、「ここに住みたい」という気持ちにリンクするのではないでしょうか。
それは大人も同様です。コンクールの「大人の部」でも、自分たちの地域をテーマにした作品が寄せられます。地域課題の解決を提案した優れた作品もあり、学習者のそうした成果がもっと発信され、社会に繋がるようになって欲しい、と思うようになりました。
そこで今年度は、大人に向けての作品募集にも力を入れました。ポスターも幅広い世代が登場するデザインにしました。
これから人口が増えていくシニア層が、家の中に閉じこもるのは勿体ない。「社会関係資本」というそうですが、人が集い、アクションを起こすことで、新しい価値が生まれます。本コンクールを利用し、そうした活動が増えて欲しい。それが地域に役立つ図書館の使われ方だと思います。
現在、地域課題解決の手段として図書館が注目されています。実際に地域の活性化の中核としての図書館づくりが各地で始まっています。
例として「大和市文化創造拠点シリウス」(神奈川県)が挙げられます。①市民の健康づくり、②子育て支援、③シニア層の活動の場、といったミッションがあり、図書館、生涯学習センター、屋内こども広場、芸術文化センター等を備えています。図書館内には「健康度見える化コーナー」もあり、血管年齢や骨健康度などを測定でき、それをもとにアドバイスも受けられるんですよ。
かつては多くの本を収蔵するため、大きな図書館が郊外に建設されていました。しかしその役割が社会教育だけでなく地域活性化の場へと拡がったことで、駅ビルなど中心市街地に設置されるケースが増えているのです。会社帰りにも立ち寄りやすくなってきました。今後は、子育て世代やシニア層だけでなく、30~50代の働く世代にも図書館に来て欲しい。
コンクールには「子どもと大人の部」もあります。母子での応募が多いのですが、働く世代の父親層にもぜひ参加して欲しい。1つのテーマについて「複眼的」になれるのがこの部門の面白さです。
子供と大人それぞれ異なる視点で考えることで、新しい発見に出会えますよ。
さらに踏み込んで、世帯収入と学力向上という地域の目的達成の手段として図書館を活用したい、というケースもあります。世帯収入を向上させ教育費に充当することで学力の向上を図りたいということです。
図書館にできることは、情報の提供です。情報を受けた取った人が、行動を変容させなければ、状況は変わりません。
「つがる市立図書館」(青森県)は、「こころ豊かな人づくりと市民の豊かな暮らしを育む図書館」として、2年前にショッピングモール内にオープンしました。入口に特産農産物の市況価格を毎日張り出しています。それを見た人が何かを感じて、何かの行動が起きるきっかけになるのではないか、と考えています。りんごジュースを作る地元企業の方を招き、子供たちに講演して頂いたこともあります。地域の産業について学んだり、なぜ絞ったりんご果汁が変色しないのか、といった疑問を持つことで、子供たちの「気づき」に繋げたい、という意図からです。ここでは普段から「郷土学習講座」や「飾り作り」など、頻繁に催しも行っています。
これからの社会は、人が思考を停止してしまうとAIに負けてしまいます。だからこそ、「自分で考える」力をつけることが全ての基本となってくると思います。
そのためにも図書館がますます重要な場になっていくのではないでしょうか。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年11月19日号掲載