情報活用力や課題解決力を育む探究型学習が求められている。教科横断的な取組も増えてきた。京都学園中学高等学校では、家庭科と国語科で連携して「和食」をテーマに、NIE(Newspaper in Education)と図書資料も活用した探究型学習に取り組んでいる。調理実習なども交え、家庭にまで実践を広げることで、机上だけに留まらない学びとなっている。
伊吹侑希子教諭 |
国語科の伊吹侑希子教諭は、司書教諭として学校図書館を担当。以前から授業で時事問題を取り上げ、NIEの手法を用いて、生徒たちが問題の背景を調べ、どう解決する方法があるのか、「他人ごと」ではなく「自分ごと」として、生徒自身が主体的に考える探究型学習を積み重ねてきた。
一方で家庭科の「ホームプロジェクト」では、学習した事柄を家庭でも実践することで、家庭生活の改善向上を目指していた。被服やライフプランなど幅広く扱う「ホームプロジェクト」の展示を文化祭で見た伊吹教諭は、探究型学習として一緒に何か取り組みたいと考えていた。そんな中、2013年12月に「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録された。
無形文化遺産となったことでその意義が再認識された和食。新聞やテレビでも盛んに取り上げられ、生徒や生徒の家庭でも「食」に関心を持ちやすいと考えて「ホームプロジェクト」の内容を発展。和食に焦点を当てた。高校1年の家庭科の単元「食生活をつくる」で扱い、家庭科担当教員と伊吹教諭のティームティーチングで、「和食が〝WASHOKU〟に―京都のおばんざいについて調べよう―」をテーマに据えた。
グループワークを行い、生徒が意見交換をしながらそれぞれの調べを進めた |
高校生の作品。実際の料理や献立などの写真や、家庭からの評価も |
まず「京都新聞」に毎週連載されていたレシピ記事「おうちで作る京料理」を用意。その中で生徒自身が興味のあるものを選び、学校図書館の図書資料などを活用して、食材や調理法、産地などについて調べた。学習の目標は、新聞記事や図書資料の読み方や調べ方、まとめる力、参考文献の書き方などのルールを身に付け、食に対して興味・関心を持つことなど。
さらに冬休みには、調べた事柄について、おせち料理作りやおばんざいを購入して食べるなどの実体験を踏まえて考察、レポートにまとめ、家族が評価コメントを書く、という宿題を出した。
生徒たちは写真を添付するなど力の入ったレポートを提出。家庭からも「和食の良さを再認識した」「おばんざいなど伝統料理を継承したい」といった評価コメントが寄せられ、「授業だけでなく家庭での学びへ広げることができ、生徒の『食』への関心を高めることができた」(伊吹教諭)。
家庭科の廣瀬和代教諭は「学校図書館の資料を使うことで、生徒たちの調べたい事柄がさらに広がった。次々と新しい疑問や興味が湧き、実際に調理したり、店舗に足を運んで調べたりする行動に繋がった」と話す。
「和食」の探究学習は、現在も継続している。「食が日々の生活に密着しており、土地柄で京野菜や京料理、おばんざい、和菓子といった食文化に生徒や生徒の家庭が馴染んでいるため、取り組みやすい」と伊吹教諭は話す。
初年度は全クラスで同様の授業時間が確保できなかったが、年間指導計画(シラバス)に探究型学習を組み入れることで、授業時間数を計画的に確保した。文化祭で優秀なレポートを掲示することが刺激となり年々力作も増えた。毎年の継続が、より良い成果とさらなる取組に結びついている。
また中高一貫校のため学校図書館を共有しており、和食に関連した図書資料を増やしたことで、中学でも「食」をテーマにした探究型学習を行うようになった。これらの学びを通して、NIEおよび探究型学習の意義が各教科に浸透し、現在は国語・理科・社会・情報・英語・総合学習等でも行われている。
今年度、伊吹教諭は新たに、選挙権が18歳以下に引き下げられたことを受けた国語の授業に取り組んでいる。メディア・リテラシーの育成をねらいとした主権者教育だ。「今後も教科横断型の授業に取り組み、タイムリーな話題を取り上げながら、単に調べるだけではなく、生徒が経験したり複数紙の比較読みや図書資料の活用で、多角的な視野で物事を捉える姿勢を養う探究型学習をデザインしていきたい」。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2016年7月18日号掲載