「第40回学校図書館研究大会神戸大会」が8月8~10日、神戸市で開催された。司書教諭や学校司書、学校長、学校図書館に関心のある人が参加する本大会には、2100人が参加。3日間で100余の分科会や講演会、シンポジウムが開催されたほか、小学校・中学校・高等学校・大学の学校図書館視察などが行われた。大会のテーマは「アクティブ・ラーニングを支える学校図書館の在り方」。9日に開催されたシンポジウムと、学校図書館におけるICT活用に関連した分科会を紹介。
【主催=兵庫県教育委員会、神戸市教育委員会、公社・全国学校図書館協議会(以下、全国SLA)、兵庫県学校図書館協議会、後援=文部科学省、兵庫県、神戸市、兵庫県市町村教育委員会連合会】
シンポジウムはほぼ満席となった |
9日に開催されたシンポジウム「アクティブ・ラーニングを支える学校図書館の在り方」は、パネリストに島根県SLA会長・飯塚良治氏、文部科学省初等中等教育局児童生徒課長・坪田知広氏、琉球大学准教授・望月道浩氏、広島大学大学院教授・山元隆春氏が登壇した。司会は全国SLAの森田盛行理事長。
望月教授は小学校の事例を紹介。沖縄県全体として、「貧困と子ども期」の課題があり、特にA小学校は「子供の暮らし向きの困難」を感じる教員が100%という。同校内では空きスペースなど至る所を活用し、いつでも本が身近にある環境作りを行った。読む・書く・聴き合うといった多くの実践を通し、「子供理解から学校図書館(学びの場)をデザインする」ことを挙げ、「アクティブ・ラーニング(以下、A・L)を支える学校図書館とは、安心できる居場所であり、学校内の読書環境デザインを整え、全連関的な/豊かな学びを支える場」と結んだ。
山元教授は「アクティブ・リーディングの時代」を提唱。「単に参加するだけでなく、〝夢中〟になれる人を育てる」。本との出会いや〝はまる〟ことがなかなか出来ない子供に対しては、「わからないことをそのままにせず、大人が疑問の形で物語を関連付けるなど『わかり方』を言葉にしたり、『考え方のモデル』を示すことで、読者を育てていかなくてはならない」と語った。
坪田課長はA・Lが注目されるなか、「一人ひとりにあった学び方を行うべき」とする。学校図書館は、最も魅力的なコンテンツがある場所であり、一見、学校図書館とは最も遠く感じる算数や数学等でも、学校図書館を使って欲しい、とした。
デジタルコンテンツで授業が変わる |
飯塚氏が県SLA会長を務める島根県は近年、学校図書館の優れた実践が全国的に注目されている。同県の取組を紹介しながら、「計画的に豊かな読書活動を行うことが大切」と語った。同県では未就学児への「ブックスタート」など段階を経た読書活動を実施。幼少期から本に触れることで、小学校入学後に、本を開き活字を追うことに抵抗がなくなる。
今回のシンポジウムではA・Lを支える「ラーニングコモンズ」という言葉の解釈が取り上げられた。望月教授は図書館情報学の視点から解説し、ICT環境の整備・開発、専門員の配置等を挙げた。飯塚氏は「静かに本を読むことの多かった従来の学校図書館と比べ、今後は、A・Lによって児童生徒の交流も活発になり、館内は賑やかになると考えられ、配架の工夫も必要になる」。
特に重要なのがレファレンスサービスであり、「司書教諭と学校司書が相互補完、司書教諭の複数配置、ブックリストの作成、1人職である学校司書のネットワーク作りが重要」とした。
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坪田課長は講演「文部科学省の学校図書館施策」も行った。財政措置や第4次学校図書館図書整備5か年計画等を解説。「自治体や学校・学校間で図書館の利活用の差が大きい。学校司書の配置や学校長の姿勢が大きく影響している。学校長が学校図書館の重要性を認識することで、司書教諭も学校司書もモチベーションが高まる」として、未来の学校図書館像や、今後の学校図書館に期待することなどを語った。
分科会ではA・Lの取組に関した研究発表も数多くあり、書誌データや電子書籍、デジタル教材やコンテンツといった、ICTの活用と関連づけたものもあった。
埼玉県川越市立南古谷小学校の中島晶子司書教諭の発表は「ICTを活用した探求型学習と学校図書館」。学校図書館の資料は今後、図書資料だけでなくデジタルコンテンツが増加すると予想され、中島教諭はそれらを「学校図書館の立場で整理・提供ができるのではないか」と考えている。
司書教諭の仕事として、まず毎年4月に、各学年で最低限身に着けて欲しい可能な限りミニマムな内容の指導計画表を各教員に配布する。図書館活用や図書資料を使った調べ方、新聞活用等のスキル、読書指導と共に、情報教育やICT活用も盛り込む。計画的・系統的な指導が大切だ。
さらに教員へのタブレットの体験講座等も実施。管理職も参加し、実際にPCを使いながら具体的な授業を想定して使いやすいサイトは何か、評価する。機器の管理や情報の共有にも役立ち、校内の理解も進むという。
平和を願う心育む |
全国SLA長尾幸子氏と作家・あまんきみこ氏 |
9日に開催された「本を通して子どもたち伝えたいこと」と題した、作家・あまんきみこ氏と長尾幸子全国SLAスーパーバイザーの対談。あまん氏は自著「ちいちゃんのかげおくり」を読み語りした。長崎に原爆が投下された日でもあるこの日、本を通して平和を考えるひと時となった。 |
同校では高学年ではほぼすべての教科でデジタル教科書を導入。授業準備作業の軽減や、児童にわかりやすい授業につながっている。実践されているICTの利点を生かした授業を紹介した。①興味関心を高める授業…掛け算九九のアプリ「ピュア・フラッシュカード」は、九九が苦手な高学年でも恥ずかしがらずに取り組めた。社会科では帝国書院の「i地球儀」を活用。児童には地球儀を渡し触って確認させる。②手軽さを生かした授業…児童は画用紙等に発表する内容をまとめ、タブレットのカメラ機能で撮影しスクリーンに映し出す。模造紙にまとめる時間が短縮され、拡大やスクロール機能を使うことで、楽しく積極的な発表に繋がる。
具体性を生かした授業…マット運動では、Webカメラとソフト「ラグミラー」を活用。時間を設定して動画再生ができ、自分の演技を確認できる。「水島宏一の器械運動アプリ」(光文書院)で練習のヒントを得る。④情報の新しさを生かした授業…5年生の国語の授業で、新聞のデータベースを使い、同じ日の新聞3紙の読み比べを行う。
なお中島教諭が参加する、東京学芸大学を拠点とする「デジ読評価プロジェクト」(sites.google.com/site/dejidoku/)を紹介。デジタルコンテンツの基礎データの収集、協力校評価委員会の組織作り、評価基準の作成を行っている。
滋賀県長浜市立木之本中学校の丸本高祥教諭はアクティブ・ラーニングが生まれる「きっかけ」に着目。理科の実験の延長線上として、学校図書館を活用した。実験で〝本物(の現象)〟に触れるのと同様に、学校図書館でも、初めて見るものへの感動を作り出したいと考え、ICTの活用によって生徒の興味を引き出すと同時に、「文字では伝えきれない部分」(映像や写真など)と、「文字でなくては伝えられない部分」(図書資料)が相互作用することによって、生徒たちの学びを深めようとした。
取り組んだのは「地球と宇宙(旧単元名)」の単元。電子黒板などのICT機器を学校図書館に設置。授業の導入に活用し、丸本教諭が自作した半球型のスクリーンに、アプリを活用して様々な惑星を映し出した。全員が注目できる映像によって関心が高まり、生徒のテーマへの〝没入感〟を作り出すきっかけとなった。「クラス全体で、様々な情報を共有できるのがICTの利点。一方、単なるにぎやかしにならないよう、活用方法や仕掛けを考えてICT機器を導入する必要がある」
生徒たちの作ったポスターを解説 |
生徒が惑星を調べて発表を行う授業(約50分)では、「地球脱出計画」として〝地球が爆発寸前で早く移住先を決めなければならない〟と想定。時間制限を設け、電子黒板にタイマーを表示した。緊迫感の中、生徒たちはグループごとに異なる惑星を図書資料で調べ、その結果をまとめ地球と比較をするポスターセッションを行った。
同校の学校司書(当時)の速水美和氏は公立図書館からの団体貸し出しも含め200冊程度の図書資料を用意。生徒たちは調べた図書資料の内容を1冊につき1枚「情報カード」に記入する。丸本教諭は「実験だけではまとめる力はつかない。本から得た知識や、実験でわかったことを表現する力が科学には必要。情報カードに記入することでまとめる力が養われる」と考える。
速水氏は「学校図書館を使った調べ学習は、じっくり時間をかけるイメージだったが、地球脱出計画は限られた時間の中で行う点が新鮮だった。子供たちが非常に集中し、誰も遊んでいなかった」と話す。
自分たちで調べたからこそ自信をもって発表でき、文章と図でわかりやすくプレゼンテーションすることに結び付いた。この単元では生徒たちのテストの正答率も非常に高かったという。
「本に没頭する雰囲気が生まれ、一つのことをチームで成し遂げたいという一体感が生まれることで、学力を補うことができるのではないか。一人ひとりに役割を与えることで自信が生まれ、まとめたい、伝えたい気持ちが自然に発表に結び付き、アクティブ・ラーニングになる」と語る。