2月25日に第2回私立公立高等学校IT活用セミナーを、大阪・CIVI研修センター新大阪東で開催した。大阪での高等学校ICT活用セミナーの開催は初であったが、当日は72名の参加者があった。次回私立公立高等学校IT活用セミナーは7月28日に東京・KFCホールで開催する。
近畿大学附属高等学校 乾武司教諭 |
近畿大学附属高等学校では現在、約4000台の個人所有の情報端末(iPad)が日々活用されている。校内の情報化推進担当であり、教科「情報」の免許を持つ乾武司教諭は、同校のICT環境整備や授業改善に取り組んでいる。「子供が接するインターネット環境は急激に変化した。生まれたときからインターネットが存在し、知識獲得手段のファーストステップがスマホである世代を前に、自分の感覚ではもう語ることはできない。ところが子供の感覚と学校の認識との格差が大きすぎる。教室環境が100年前と同じで良いわけがない」と語る。
大規模導入前の同校の状況は、スマホ所持は禁止、見つかったら即解約。教科「情報」の時間以外はインターネット接続禁止であった。この状況を改善するため平成25年度から新入生の情報端末(iPad)1人1台活用に着手。当時、私学のICT活用の先鞭をつける整備として話題を集めた。
ネット活用は自由、ゲーム含めてアプリのダウンロード、活用も24時間自由というポリシーは当時、物議を醸した。当時、校内の賛同者は数名程度であった。
「全校生徒分の端末の充電を学校が担保するのは不可能。1人1台を実現するには生徒管理とするしかない。使用に制限をかけるほどつまらなくなり、何のために導入したのかがわからなくなっている事例をいくつも見てきた。『新しいものに制限をかけてはいけない。まず自由にやってみて、ダメだったら制限すればよい。ネット世界に生きている彼らのやり方をまず受け止めよ』という当時の学校長の英断により実現した。教育は変化を恐れてはいけない。大人の決断がまず必要。さらに自由な活用を担保した整備は、世界標準であり、日本に欠けている最も大きな要素」と乾室長は語る。
現在、iPad4期生を迎え、卒業生も輩出して丸3年の活用期間が1周したところだ。教員も肩の力が抜け、すっかり慣れた。
生徒の学びは、1人1台活用で予想以上に多様化した。インターネットで常につながっているので、机上ではなくても情報共有が成立する。定期テストの模範解答は情報端末に配信。デジタルなのでフルカラーの解説を送ることができる。
情報端末上で行う小テストはアプリ「Quizlet」「Kahoot!」で作成している。速さと正確さを求められることから、ゲーム感覚で前向きに小テストに取り組むようになり、英語嫌いの生徒が自ら単語を覚えるようになった。プロジェクトベースの学習活動が増え、ジグゾー学習も定着した。
生物では、細胞の性質を生徒それぞれが調べ、どのような関係にあるのかについて各グループが2分間の映像で表現。映像化はiMovieを使う。アプリの使用方法を教える必要はなく、わからなければグーグルで調べるように指示するだけだ。グループの数だけ様々な「細胞のストーリー」が生まれ、笑いながら互いの作品を見ると同時に知識も定着した。人間形成にも役立った。さらに保護者にこの作品を見せることで、保護者の学校への信頼も高まった。
「学びの成果は多様なアウトプットで。教員はこれまで、板書によってこの程度覚えておけばよい、と生徒の知識を限定していたのではないか。ICTの使い方に正解などないのだから、教員はもっと自由に使えばいい」
現在、全教室に無線LANを整備済だが、食堂や体育館、人工芝の運動場にも整備が広がった。
さらに4期生からは学校指定の鞄の形状も一新。数冊の本と情報端末程度の収納力しかないダレスバッグと呼ばれる薄手のファッショナブルな鞄とした。これは「紙の資料」を多く持たせたがる教員への抑止力にもなっている。
【講師】近畿大学附属高等学校・乾武司教諭
【第2回私立公立高等学校IT活用セミナー・大阪:2017年2月25日】