第15回EDIX東京(教育総合展)が5月8~10日に開催され、3日間で2万6482人の教育関係者が参集した。各企業ブースでは教育DXをテーマにした製品や事例を紹介。本展示会に2年ぶりに出展した日本マイクロソフトのブースでは登壇者がGIGAスクール構想第1期の充実した成果と今後の戦略を報告。渋谷区は「教育ダッシュボード活用」「生成AI活用」、今年度からスタートした「探究『シブヤ未来科』」の取組を話した。
◆子供のウェルビーイングを実現する目的で他自治体に先んじてスタートした渋谷区の教育ダッシュボードについては、宮川里紗主任(教育政策課教育ICT政策係)、清水雄一指導主事(教育指導課)、北浦明人指導主事(同)が報告。
渋谷区では2021年から端末利用状況のレポートを学校公開し、2022年から教員向けにMicrosoft Power BIを用いた教育ダッシュボードの運用を始めている。
2023年からは児童生徒向けに、Power BI・Microsoft Power Appsを用いて構築した「学習のふり返り・日記」「認め合い」「教員の見取り・支援」を活性化させるアプリと子供向けダッシュボードの運用を開始した。
■教員向けダッシュボード
遅刻・欠席・保健室来室状況や各種アンケート、児童生徒の朝の気持ち、タブレット利用状況など子供の状態を可視化することで、クラスや1人ひとりの状況を多面的に把握できるようになった。
学級・学年経営にも役立っている。個別支援のための時間の創出にもつながった。
■児童生徒向けダッシュボード
児童生徒向けダッシュボードでは「学習NEXTシート」「生活NEXTシート」に学習や生活のふり返りを子供自身が入力。小学校1年生から入力できるように、渋谷区のシンボルでもある「忠犬ハチ公」をモデルにしたスタンプでも表現できる。自己肯定感や自己有用感を高めるための取組で、ふり返りや認め合いの日常化により子供の自己調整力の向上や相互承認が進んだ。
教員は子供の書き込みに返答・リアクションしやすくなり、日常的なコミュニケーションが活性化した。
全国学力・学習状況調査(質問調査)を2022年度/2023年度で比較したところ、小中学校共に「困りごとがあるときに先生や学校にいる大人にいつでも相談できる」項目が有意に向上。不登校傾向の児童・生徒の不安や悩みについて早期発見・支援につながった、という事例もある。
「様々なシステムを組み合わせて可視化が実現した。ウェルビーイングの観点を大事にしており、悪かったところをふり返る反省よりも良かったところをふり返って明日への意欲につなげてほしいと考えている」と語る。
2025年9月には端末・ICT環境の刷新を予定しており、それに向けたフルクラウド化を検討し、データ利活用基盤をさらに発展させる考えだ。
◆生成AIの利活用について林海斗主事(教育政策課教育ICT政策係)、柳田俊指導主事(教育指導課)が報告。
渋谷区では2023年12月から希望した行政職員を対象に生成AI活用の実証実験を行い、過半数の利用者が業務削減に効果があったと回答したことから、マイクロソフトのAzure OpenAI ServiceおよびMicrosoft Copilotを2024年 3 月より試行検証。 5月から全校展開している。
教員が前向きな気持ちで安心して生成AIを活用するため「渋谷区専用環境の構築」「教員用生成AIガイドブックの策定」「研修」「サンプルAI(構築済みプロンプト)の作成」に取り組んだ。
■渋谷区専用環境を構築
入力データがAIの学習データに反映されないAzure OpenAI Serviceと「商用データ保護機能」がある Copilotを渋谷区の専用環境で利用できるようにした。
両者とも「文章作成、要約・翻訳、アイデア出し、ローコード作成」が可能で、これに加えてCopilotでは画像分析・生成やPDF等の要約・分析ができる。また、区で作成している業務特化型サンプルAI(後述)は、Azure OpenAI Service上で提供する。
■教員用生成AIガイドブックを策定
文部科学省や東京都のガイドラインを参考にして作成。次のような4つのルールを定め禁止事項や留意点を明確にした。
▼専用環境において業務目的で使用。許可しない生成AIは業務で活用しない
▼個人情報等は入力しない
▼生成AIが示した回答を利用する際はその根拠を必ず確認する
▼著作権を侵害しないように留意する
■研修で活用を促す
基礎編、応用編2種類の研修を予定。
基礎編では生成AIを使わないことに対する危機感も含めた生成AIの基礎知識と活用をテーマに研修。
応用編ではモデル校において具体的な活用やプロンプト作成について学ぶ予定だ。
■サンプルAIで負担減
業務特化型のサンプルAIを作成。教員が毎回プロンプトを最初から入力しなくても利用ができるようにする。
保護者だよりや保護者対応・トラブル対応補助、探究指導案の作成補助に向けたサンプルAIを作成しており、現場からのフィードバックを基に教育委員会でチューニングを進める。
今後はメールやデータ分析、議事録等、Copilotとマイクロソフトアプリケーションとの連携を模索し、また、業務に特化したサンプルAIも種類を増やすことで、利便性を高める考えだ。
◆「自己調整力」「想像力」「挑戦力」を育む、探究「シブヤ未来科」について松村信之介統括指導主事(教育指導課)が報告。
2022年度から始まった「シブヤ科」が今年度から、探究「シブヤ未来科」としてスタートしている。地域企業と連携した探究的な取組「シブヤ科」をパワーアップ。探究「シブヤ未来科」ではICT活用も取り入れ、教育課程を大胆に見直し、授業時数特例校制度を活用して午後の5・6時間目に主体的に学んでいる。授業時数は、総合的な学習の時間を小学校3年生から中学校3年生まで各学年とも70~80時間を上乗せしており、トータルで年130(中1)~156時間(小5)だ。
■調べ学習に留まらない学びを繰り返す
4~10月は「探究基礎」及び「テーマ探究」。企業等の協力も得ながら体験を重視して学び(50時間程度)、共通テーマで探究的に学ぶことで調べ学習に留まらない探究のプロセスを体験する(70時間程度)。
10月以降は「My探究」として個別探究に取り組む(35時間程度)。
「世界一美味しいオムレツ作り」「将棋のプロに勝つ」「未来の学校をMinecraftで制作」など子供のテーマはバラエティに富んでおり、課題設定やデータ分析、対話・交流等でMicrosoft 365を利用している。
■カリキュラム作成等も支援
教員が余裕をもって探究活動を支援できるように研修やアプリ活用、校務DXなどを進めるとともに、教員向け「探究ハンドブック」、子供向け「探究ワークシート」を作成。
各学校の探究カリキュラムの作成も教育委員会や企業で支援している。
また、主に水曜午後の時間を活用し、小学校は週1回、中学校は月1回のTeachers learning dayも設けて教員の学びの機会の確保に努めている。
当日の動画はこちら
【1-04】子供の Well-being を目指した教育ダッシュボードの児童・生徒活用、教員活用 (youtube.com)
【1-05】渋谷区における生成 AI の導入と教員の利活用について (youtube.com)
【1-06】探究「シブヤ未来科」ーシブヤの街と教育環境を最大限活用する学びー (youtube.com)
マイクロソフトブースでは教育ダッシュボード構築や生成AI活用などの各ブースを展開。児童生徒向け・教職員向けパソコンのラインナップも公開し、にぎわった。
※記事中で紹介した渋谷区のセッションの様子は6月中にマイクロソフト の公式ページで紹介予定。