2月22日、大阪市内で第10回私立公立高等学校IT活用セミナーを開催。稲垣俊介准教授・山梨大学教育学部は初めて実施された大学入学共通テスト「情報Ⅰ」の問題傾向と分析、近畿大学附属高等学校と兵庫県立御影高等学校は1人1台端末を活用した授業改善、大阪府立摂津高等学校と雲雀丘学園中学校・高等学校は「情報Ⅰ」におけるプログラミング実践と「データの活用」の評価方法について報告した。なお、所属等は2025年2月時点。
近畿大学附属高等学校・ICT教育推進室長 乾武司教諭
近畿大学附属高等学校は2013年度から1人1台のiPadを整備。当初よりアプリやSNSの利用の制限はせず、生徒は自由に利活用している。乾教諭は1人1台端末による授業の変容と、AI時代の学校の在り方について報告した。
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インターネットに自由にアクセスできる環境になったことで、生徒が自ら情報収集したり共有したり、皆で考えて学んだりすることが容易になり、アウトプットも多様になった。これにより、すべての授業が探究ベースで実現可能になり、教科書を超えた学びが生まれている。
担当の生物科の授業は教員が説明するのではなく生徒が活動する生徒ベースのものへと変えた。「バイオーム」の単元ではグループ毎に情報収集し解説動画を作成して一つにまとめ、デジタルブック「バイオーム図鑑」として「教科書を超えた教材」を生徒たち自身で作り学びを共有した。生徒は端末やアプリに詳しく、生徒から教員が教わることも多い。
オープンデータを使ったデータ活用にも取り組んでいる。日本のバイオーム分布について、日本各地の暖かさの指数を求め年度による違いを比較し、各自が調べた結果を日本地図にまとめて分かりやすく視覚化。データは最も確からしいものを生徒自身が探し出すようにした。最後に日本全体の傾向を考え、気になる点やそれを調べる方法を検討。学習体験が実社会とリンクする糸口を授業で提供することで、課題探究のトリガーとなってほしいとの思いをもって授業を設計した。
これらの授業づくりのコンセプトは、学びを個人的なものとせず、皆で共有し、人のために貢献できる学習体験とすることだ。これもICT活用によって容易になった。
教員の生成AIの利用では事務的な活用例として案内文書作成がある。ゼロから作るよりも時間を短縮でき自分では思いつけない新たな視点を得られる利点がある。
評価での活用も効果的だ。本校は6割の生徒が内部推薦で近畿大学に進学する。その自己推薦書の添削に活用。レベル(厳しい・優しい)も選択でき、添削にかかる業務は激減した。
授業計画や教材をAIで生成すると新たな気づきやヒントを得られる。生徒の協働を取り入れる、アウトプットは創造的なものとするなど具体的な指示を行うとよい。
生徒の活用としては個別学習の支援や探究活動におけるサポートとしてもAIが役立つ。学校が提供する教育の本質が問われる時代の中、生徒の興味関心にもとづく課題探究は重要な柱となる。先行研究の紹介・要約・解説、テーマ選びの支援、アプローチ方法の提案など、AIを「できる仲間」として自分専属のアシスタントや相棒のように活用してほしい。
将棋の世界ではAIを利用することで異次元の思考力の領域に突入したと感じている。学校でも生徒の視野や思考を広げ、深める活用を意識して取り組むことが重要だろう。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年4月21日号