2月22日、大阪市内で第10回私立公立高等学校IT活用セミナーを開催。稲垣俊介准教授・山梨大学教育学部は初めて実施された大学入学共通テスト「情報Ⅰ」の問題傾向と分析、近畿大学附属高等学校と兵庫県立御影高等学校は1人1台端末を活用した授業改善、大阪府立摂津高等学校と雲雀丘学園中学校・高等学校は「情報Ⅰ」におけるプログラミング実践と「データの活用」の評価方法について報告した。なお、所属等は2025年2月時点。
山梨大学教育学部 稲垣俊介准教授
2024年度まで都立高校情報科教員を勤めていた稲垣准教授は大学入学共通テスト「情報Ⅰ」の出題傾向の分析および今後の学習指導のポイントについて講演した。
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2025年の大学入学共通テストで初めて「情報Ⅰ」が実施され、総受験者の6割を超える30万人以上が受験した。
2021年から開始した大学入学共通テストは高大接続改革の柱の一つである。文科省はデータ活用やプログラミング的思考力、情報モラルをSociety5・0時代の必須の力と位置付け、その育成のために情報Ⅰが高校で必履修科目となり、大学入学共通テストでも正式に評価対象となった。現行学習指導要領においては問題発見・解決に情報技術を活用する力を身につけることが狙いであり、知識・技能の習得に加えて思考・判断・表現できる力といった大学以降も学ぶための「基盤」を形成することが重視されている。
試験問題は試作問題と同様の大問4つで構成。平均点は69・26点だった。計算や統計などの数学的なリテラシーや長文資料における国語的な読解力が問われる問題構成で、学習指導要領において求められている横断的な思考力を評価する狙いが伺えた。
第1問は幅広い分野から出題された小問集合で正答率は65%程度と予想。どれも用語を暗記しているかではなく、理解しているかをはかる問題だった。
例えば128ビットで構成されるIPアドレスが利用されるようになった理由を問う問題は、ⅠoTが急増した社会的背景など「なぜ技術が変わったのか」を理解していれば正解することができただろう。
第2問はデータ活用とシミュレーションからの出題で正答率は75%程度と予想。レシートの情報を読み解く問題は日常生活に近い題材で、文章と図解を正確に読み取る力が求められた。
第3問はプログラミングで正答率は65%程度と予想。読解力とプログラムの変数の流れを追う∥トレースする力が求められる問題だった。プログラミングを通じて問題解決を行う経験の有無が正答率に影響したと考えている。
第4問は統計データの分析で正答率は68%程度と予想。データ活用は数学Iとの連携が必要かつ探究でも取り扱う分野だ。自分で考えてデータを操作するなど実際にコンピュータを使った演習をしてきたか否かで身につく力が変わる。
出題傾向の分析を踏まえた授業改善の方向性として、今後は実習中心の授業がより求められる。生徒の実態に合わせて、実習や探究活動を取り入れながら授業の再構成をしてみてほしい。スマートフォンのストレージ容量から毎日何枚の写真を撮るとどのくらいのペースで容量が埋まるのかを考えるなど生徒が自分ごととして実習に取り組める工夫も必要だ。
プログラミングは実習の強化とともにトレースの経験を積むこと、エラーを探したり検討したりする学習が重要だ。データ活用の分野は県別データを扱う問題が多い。総合的な探究の時間において地域課題を探究する学習が効果的だろう。
情報科は個別最適な学びと協働的な学びを比較的実践しやすい教科である。評価方法も含め更なる検討を進めてほしい。授業の共有・公開を通じて教員間の連携を深めることもよりよい授業づくりにつながる。
情報Ⅰが大学入学共通テストの受験科目となったことで生徒が情報を学ぶきっかけになり、実習を通して自ら学ぶ姿勢が育まれている。次年度以降においては情報Ⅰの問題は高度化し、情報Ⅱの出題もあり得る。個別試験はCBT化が進むだろう。また高大接続の深化に向けて大学においても教育の拡張を図る必要がある。
高校段階で全員が基礎的な情報リテラシーを身につけることは社会全体のデジタル人材の底上げにつながる。今後は文理問わずデータ分析やプログラミングのスキルを持った人材が社会に出ていくようになり、企業のデータ活用もますます一般化するだろう。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年4月21日号