GIGA2期の整備が進んでいる。情報端末の更新やそのスムーズな活用を支えるネットワーク構築・改善のための各種予算措置と共に、クラウド活用を踏まえた校務環境を実現するための「次世代校務DXガイドブック-都道府県域内全体で取組を進めるために-」や「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(2025年3月)」及び「教育情報セキュリティポリシーハンドブック(2025年3月)」も公表された。
次世代校務DXを成功に導くポイントについて、全国の多くの自治体を支援している谷正友氏(一社・教育ICT政策支援機構代表理事)とネットワークの設計、構築、保守、運用を担うアライドテレシス文教推進室・小泉卓也室長とマーケティング本部の福田香奈絵本部長が鼎談した。
谷正友氏
小泉卓也室長
福田香奈絵本部長
――「次世代の校務デジタル化推進実証事業」の2年目が終了したところです。外部有識者の立場から「次世代校務DX」「教職員の新しい働き方」についての評価を教えてください
■谷 2023年度は山口県と秋田県で、2024年度は新潟県と秋田県で実証事業を行っており、外部有識者として秋田県に関わっています。
本事業の目的は教員の働き方改革にあります。教員自身が、使うように言われたから、決められているからデジタル環境を使うのではなく、業務改善に役立つと実感して活用するためのものです。
県内すべての市町村が同様の熱量で進展することは難しいとしても、数年先には皆が同じ方向で進めることを目標に議論し、クラウドベースでネットワーク(以下、NW)を統合して校務支援システムを利用しよう、教育情報に関するセキュリティポリシー(以下、セキュリティポリシー)もわかりやすくして各校や市区町村単位で策定できるようなひな型を作ろう、と進めています。
セキュリティポリシーについては、例えばコロナ禍では在宅勤務が広く一般化し、学校においても、一部の県立高校で在宅勤務に切り替えた例がありました。対して市町村立学校での在宅勤務の事例は、県立学校と比較して遅れをとっていました。
これには理由があります。市区町村の教職員において、県で定めた服務規程を準用していることが多く、部分的に解釈が異なる場合もあり、非常時での対応に温度差が現れたのです。
県域での取組を前提とした本実証では、このような規定の解釈や周知徹底の方法まで踏み込んでいます。取り組むべきと思いながら、推進できていなかったところにチャレンジしており、校務DXの機運の高まりを感じます。
■小泉 当初、無線LAN環境は県のポリシーに反すると拒絶されることもあり、校務用PCの利用は職員室のみというルールもありました。テレワーク環境の進捗は隔世の感があります。
■谷 コロナ禍には「子供は自宅、教員は学校」という状態が続き、ICTに苦手意識があったとしても「この状態で何ができるのか」を考える教員が一気に増えました。教員のプロ意識に火がつけば取組が進み、成果を感じると学校全体が変わっていきます。
前の授業、さらにその前の授業にどんなやりとりをしていたのかを生徒自らがクラウド環境から端末を通して確認しながら学びを進めるなど、端末やNW環境が既に道具になっている学校が確実に増えています。
また、コロナ禍以降、一般企業では仕事の進め方と時間の使い方が変わりました。一方、学校は時間割が決まっていて、調整できる時間は一般企業ほど多くはありません。
小学校教員はほとんどの時間を教室で過ごしていますが隙間時間はありますので、その時間を上手に使える環境を整備することで時間の使い方が変わります。それに伴い教員に余裕ができれば、それは子供にも伝わります。
奈良市ではそのような環境が整備できており、条件を満たせば、教室外や校外であっても安全に校務ができるようにしています。宝塚市や群馬県吉岡町、福島県の県立学校など、取組事例は増えつつあります。こういった事例を参考にしながら全体に広める段階にあります。今年のEDIX東京では、また新たな事例が出るかもしれません。
――2025年度は、GIGA2期に向けた端末更新が全国約8割の自治体で行われる予定です。端末更新にあたり配慮すべき点があれば教えてください
■谷 GIGAスクール構想では政令指定都市も小規模自治体も同じように端末とクラウド環境を整備しています。利用の頻度や幅においては教員の裁量が基本ですが、それが学び全体を考えた上での判断なのか、ただ苦手だから後回しになっているだけなのか、もしくは学校環境に課題があるのかについて見極める必要があります。
文部科学省では、端末等を活用していない自治体には予算措置をしないという思いで進めており、活用計画の策定等を補助の要件にしています。
■福田 ある市の公立小中高等学校では保護者連絡がすべて同じアプリ配信になり大変便利になったという話もあり、学校の変化を感じる一方で、学習における端末活用は均一ではないようです。
ただ、NW環境がしっかりしている学校では、先進的な取組が進んでいる印象があります。
■谷 NWは電気やガスと同様のインフラです。一般社会ではNW環境が当たり前のように利用されていますが、整備が行き届いておらず不便な状況にある学校もあります。ここさえしっかり整備しておけば多くの面で使い勝手が良くなるはずで、国もここに重点を置いて予算を措置しています。
これまで、学校教育における最も大きな予算は人件費でした。それが、教育DXの文脈で、これまでなかったNW環境を始めとする大きな予算が必要になったため、慣れない調整をうまくこなすことができない自治体があると感じています。
この解決を図るための一助としてネットワークアセスメントの予算も引き続き措置されていますが、アセスメントについてはやり方を間違えずに行わないと、問題は生じているのに課題が見つからないという結果になる場合もあります。利用者の数や振る舞いなど、課題が起こるときと同じような使い方をしながら調査を行う必要があります。
■小泉 弊社でもネットワークアセスメントの依頼を受けています。
センター試験(現・大学入学共通テスト)の翌日に学校の講堂で一斉に端末を使って答え合わせをした際につながらない、という案件では、講堂の無線LANアクセスポイント(以下、無線AP)が1台しか設置されていませんでした。
現状を把握するためにもアセスメントは重要です。時間や状況により回線速度が変わるため、今まさに障害が起こっている状況のほうが課題を見つけやすい面はあります。
■谷 NWの仕組みを理解していればすぐに解決できる問題もあります。このほか電波状況や外部からの干渉、無線APやスイッチなど機器の性能や設定、上流のボトルネック、IPアドレスの払い出し、帯域やセッション数不足など原因は様々ですが、ポイントは「量をさばけること」であると考えています。
GIGA端末で無線を使ってWebブラウザにアクセスするような使い方の場合、すべての端末が一定の速度でつながることが大切です。数台のみ高速で接続しても意味がありません。
■福田 文部科学省からはNW機器に求める帯域要件として1G以上、10G対応も考慮することが示されていましたが、ほとんどの学校では1Gの製品が導入されているようです。
今後、デジタル教科書・教材をクラウド上で活用することを考えると、NW全体の高速化が求められます。リプレイス時には最適な製品の提案が必要だと思います。
■谷 通信回線を10Gに変更しても、無線APやスイッチなどの周辺機器は古いまま、という自治体も少なからずあります。簡単に壊れるものではないため、更新の必要性を感じにくい面はあるでしょうが、壊れるまで使うという考え方はお勧めできません。
機器が古いことでボトルネックが生じている例は複数、見聞しています。NWの周辺機器も7年経てば保守は切れます。保守が切れる=更新のタイミングと考える必要があります。
次世代の校務DXでは「学習系」「校務系」を1本化して二重整備の見直しや整理を行うことが求められています。このタイミングまでに周辺機器の更新を終了することを目的としてはいかがでしょうか。
■小泉 DXを進める上で帯域確保を始め、NW環境の不備は、遅延の発生や、そもそも通信できないようなことになりかねません。
最近では高速・大容量の通信ができるWi-Fi7に対応した無線APが注目されています。弊社も今夏にリリース予定です。帯域のより効果的な活用ができる最新の技術ですので教育現場でお役に立てれば嬉しいと考えています。
――校務環境のクラウド化やゼロトラスト対応、セキュリティの確保について、どのような提案が学校や教育委員会に求められているのでしょうか
■谷 研修センターや宿泊学習などで出張している教員が、学校に戻らなくても軽微な事務処理が可能な環境とすることです。
そのために例えば、インターネットベースでストレージサービスを利用できること、安全確保のために、多要素認証などそこにアクセスするためのルールを示すことなど、情報資産の安全を担保することでしょうか。
提案の際には文科省が示している「教育DXに係るKPIの方向性」を達成に向けてどのように進めたいと考えているのか、各自治体にヒアリングすることも重要です。
これについては「段階的な移行」を選択したがる自治体も多いのですが、段階的な移行や並行期間の設定は、教員の負担が大きくなりがちです。様々な機器のリース・保守期間がずれているため、そうならざるを得ないのですが、NW環境に関しては一気に変えるほうが合理的であると感じています。
ゼロトラスト環境は高コストというイメージがありますが、期間の重複で生じるコストもありますので、それを踏まえ、リース・保守期間の凸凹の調整を含めた提案ができると良いのではないでしょうか。
■福田 弊社では学校のNW構築に関する無線AP、スイッチ、ルーター、WAN回線、セキュリティとあらゆる製品・ソリューション・サービスのご提案が可能です。
またメーカーのノウハウでの導入、運用支援も可能ですので、提案、導入、リモートの運用監視までワンストップで安心してお任せ頂けることも弊社のメリットだと考えています。
■谷 とても大切な仕組みですね。部分最適ではなく全体最適な仕組みとすることが必要です。
認証システム等を通過することで安全に様々なことができることが全体最適です。それに対して、サービスごとにアクセスする方法が異なることが部分最適です。
部分最適が増えるほど、教員の負担も増します。当初はシステムの足並みがそろわず、そうならざるを得ない面がありましたが、今後は当初から全体最適を目指すべきであると感じています。
利用者が幸せにならないソリューションは長くは続きません。教員が、便利、使いやすいと思えばそれは子供たちにも伝わります。
■小泉 管理の負担も教員の負担も軽減したいと考えています。そのためにも弊社のAMF PLUSを提案させて頂きたいです。
NW管理の一元的な管理や自動化ができるほか、なによりトラブルの予兆を把握したり、早期復旧が可能となります。
そこにNWマネジメントソフト「Vista Managerシリーズ」を組み合わせることで、NW環境全体の状況の見える化もできます。全体最適を目指すためにも、こうした効率的な運用が重要だと考えています。
■谷 国内で、リモートによりNWメンテナンスができる仕組みは魅力的です。一社でトータルソリューションを整備することにより、知識不足で工数を減らしたい中小規模の自治体でも洗練されたNW整備が手間なく入手しやすくなりそうです。
ただし自治体の調達は税金であることから、多様なシステムベンダーが参入しやすいようにオープンな仕様で競争入札を行うことでベンダーロックインを回避することが求められています。しかしこれは物品調達では達成しやすいものの、高度な知識が求められるシステム調達の際には全体最適の達成の難易度を上げているのではないか、という懸念もあります。
NWサービスについては、ベンダーが代わる際の対応を盛り込むことでトータルサービス導入の事例を創出することも考えられそうです。
――谷先生は大きな自治体も小さな町も支援されています。アドバイス内容は両者で異なりますか
■谷 自治体の規模が小規模であっても、学校そのものが大規模な場合もあり、立地条件もそれぞれですので、それに合わせたNW環境づくりをお手伝いしています。
また、大規模自治体で専門性を持つ担当がいる場合は、方針を示すだけでどんどん進んでいきますが、教育委員会の組織が小さく様々な業務を担当が兼務しておりマンパワーが不足している場合、国の情報をわかりやすく伝え、様々な疑問に対して答えるような形で進めています。予算書や仕様書も膨大になりますので、レビューやチェックなどのサポートもしています。
■小泉 弊社は全国43都道府県に拠点があります。各地区の方と顔を合わせて支援していこうという創業者の方針で、長年かけて拠点づくりをして参りました。ほぼ全国にわたり均一なサポートを提供でき、様々な規模の自治体に支援が可能です。
――教育関係者の皆さまへのメッセージをお願いいたします
■谷 GIGA端末の更新は今年度中にはひと区切りとなります。次に取り組むべきことは校務DXの実現です。
教員にとって働きやすいこと、子供に向き合う時間をこれまで以上に確保できること、その双方をICTにより両立できるようにすること。その実現のためのインフラがNW環境です。KPIを指標にしながらよりよい仕組みに更新していくことを期待しています。
また、大きく環境を変える際に最も重要なことが「情報の周知」です。
様々な意見についてはその都度対応できますが「聞いていない」と言われると対応のしようがありません。正しい情報を伝えて理解を得ることを繰り返していくことが最も重要です。
教員は免許をもったプロ集団ですので、見方、考え方が切り替わると適応力も高く、流石だなと思うことが多くあります。公的にはもちろん、非公式の場で情報を予め出して地ならししていくと良いのではないでしょうか。
■小泉・福田 教員や教育委員会が学校教育に専念できる整備・管理の工数を減らすようなサービスを提供していきます。
製品の品質と共に、全国43拠点を持つからこそのサポートの提供など、総合的に新しい基盤づくりをお手伝いできる企業として興味をもっていただきたいと考えています。
〇プロフィール
谷 正友
2012~2022年度まで奈良市教育委員会事務局に所属。奈良市のGIGAスクール構想を担当。2022年より富山市教育委員会事務局 (教育DX政策監)、日本デジタル・シティズンシップ教育研究会理事、デジタル庁デジタル推進委員、一社・教育ICT支援機構代表理事。
アライドテレシス(本社=東京都)
1987年設立。ネットワーク機器専業メーカーとして設計、構築、保守、運用、セキュリティマネージメント事業を担う。国内メーカーとして全国43都道府県に拠点を持ち、地域密着型のソリューションを提案・サポート。
教育家庭新聞 教育マルチメディア 2025年4月21日号