2月10日、名古屋市内で第118回教育委員会対象セミナーを開催。益川弘如教授・青山学院大学はGIGA2期で求められる深い学びについて講演。新座市と岐阜市はゼロトラストネットワーク、春日井市はクラウドを活用した主体的な学びと教員研修、吉根中学校は端末・生成AIを活用した子供中心の学びについて報告した。
新座市教育委員会 教育総務課 仁平悟史専門員
埼玉県新座市は2023年にコンサルタントを用いず教育ネットワークを刷新し、ゼロトラスト・フルクラウド化を実現。仁平悟史専門員が実務に役立つQ&Aを中心に報告した。
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2023年9月に教育ネットワークを更改。2020年度にGIGAスクール構想で整備したもの以外のほとんどすべてを入れ替えた(※)。
SASE(サッシー)をネットワークの中心に据え、教職員用端末を用いるすべての通信をSASEに集約する構成とした。SASEとはゼロトラストネットワークを実現する製品。利点には次のような点がある。
(※)2020年度のGIGAスクール構想の整備では、校舎の各階にあるフロアL2スイッチより上流に2本ずつLANケーブルを敷設しリンクアグリケーション(LACP)を設定。これにより断線等への耐性を強化し可用性が向上。ボトルネックを発生させないとともに、将来的に10Gbpsに増強した際、各フロア2Gbps(理論値)を確保できるようにした。
新ネットワークは文科省が自治体に求めるセキュリティ要素のうち、必須要素のすべてと推奨要素の一部を満たしているほか独自のセキュリティも備えた。
認証は、顔または指紋の生体認証を常時必須とする二要素認証で、20分以上の無操作時は画面ロックが起動。SSOはGoogleIDをキーに校務システム登録情報を源泉とし、統合ID管理を活用して自動連携。
独自要素として学校アクセスポイントへの端末認証(EAP-TLS)、統合ログ管理などを追加した。
校内利用時と同一のセキュリティでテレワークが可能になり、教職員用端末も1台化できた。ロケーションフリーを有効に活用するためにも、端末選定の際には実際に全ての機能を使用した場合の連続稼働時間を仕様書に明記すると安心である。
不具合端末の修理の進捗状況などをリアルタイムで知りたいという学校の要望に応え保守状況閲覧システムを導入。ヘルプデスクへの問い合わせの進捗確認のほか、トラブルが発生した際に類似の問い合わせや解決方法を確認できる。
ネットワーク更改後に生じた問題で代表的なものは統合IDアカウント数不足だ。校務DXのためには、一部のシステムのみを使用する事務職員等も含め、全教職員へのID付与が必須である。
ネットワーク更改後は多くの視察があった。よくある質問のいくつかを紹介する。
費用については、本市の場合は不完全な三層分離だったためゼロベースで検討。見積額は3社ともに境界防御型(三層分離)よりゼロトラスト型が若干安価だったが、現行の三層分離の完成度が高い場合はゼロトラスト型が安価にならない場合もありうる。なお三層分離型でもテレワークやデータ利活用は可能だ。
セキュリティについては、境界防御の仕組みのみでは侵入後の対策が弱く、内部からのマルウェア侵入や不正操作に脆弱な面がある。ゼロトラストはすべての通信を検査し「不慮の事態」が起こることを前提に設計される。また、ISMAP認証を取得しているパブリッククラウドは、自治体内部のオンプレミスサーバより安心であると考えている。
「何から手をつけてよいかわからない」との声もよく聞く。まずは現行ネットワークの問題点を整理し、更改で期待する理想像や具体的な評価、スケジュール等を文書にまとめ、ゼロトラスト化への自治体・教育委員会の意思を明確にすることがよいと考える。イメージを具体化する過程で助力が必要な場合は公平性の観点から複数のSIerに相談すること、学校の意見を反映できる場を設けることも重要だ。
仕様書(RFP)を作成する際は自治体と事業者との認識違いを徹底的になくすことだ。本市は複数社と協議しながら仕様を練り上げたことで、知識や経験がなくともゼロトラストを実現できた。
民間だけでなく自治体においても今後ゼロトラストが主流になると予想される。実装方法は多様にあり、検討を開始すると様々な課題が出てきて対応に時間を要するため、検討だけでも着手するとよいのではないだろうか。
ネットワーク統合によりデータ連携が容易になったことから、データ連携基盤ダッシュボードの構築を予定している。
前段階として教員の勤怠管理ダッシュボードを構築。勤務状況、時間外在校等時間を見える化した。学校、職種ごとの比較もできる。
今年度、文科省「生成AIの校務での活用に関する実証研究」に参画。セキュアな環境を前提に個人情報の取り扱いを行う内容だ。保護者の希望日程をもとにした家庭訪問のスケジュール作成や、体力テストの結果分析および課題解決のための指導案作成などを行っている。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載