2月10日、名古屋市内で第118回教育委員会対象セミナーを開催。益川弘如教授・青山学院大学はGIGA2期で求められる深い学びについて講演。新座市と岐阜市はゼロトラストネットワーク、春日井市はクラウドを活用した主体的な学びと教員研修、吉根中学校は端末・生成AIを活用した子供中心の学びについて報告した。
青山学院大学 益川弘如教授
益川弘如教授は学習科学に基づく「学ぶ力」を引き出す授業づくりと次期学習指導要領で求められる「質の高い深い学び」について講演した。
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学習科学の研究領域では、「学ぶ力」を引き出す学びの視点として次の4つの活動がある。
これらを1人ひとりの学習で展開することで、子供の自分で考え答えを作り出す力を発揮させ、「学び方」を自ら獲得させていく。
算数の問題で子供の思考過程を検証したところ、多くの子供は公式に当てはめて答えがでれば満足していた。大事なのは問題場面を具体的にイメージし、何を計算すべきなのか、算数の見方・考え方を働かせて取り組む力である。
覚えた公式をただ使って答えを出すだけでは見方・考え方は働かない。問題が解ければよいというものではないことに留意する必要がある。
諮問では「質の高い深い学びの実現」という表現が多く見られる。
知識の概念としての習得や深い意味理解を促し、授業改善に直結する学習指導要領とすること、そのために重要な理念の関係性を整理し、デジタル学習基盤の活用を前提に進めていく。これらを一体的に検討することでGIGA端末の効果的な活用の次の姿が見えてくる。
石井英真准教授(京都大学)は知識の深さを次の3層構造に整理している。
たとえ主体的に学習していても、事実を記憶するだけでは学びは浅いレベルに留まってしまう。学びを深めるためには意図的な支援や活動の制約など教員の仕掛けが重要である。
子供がそれぞれにもっている知識や経験と、学校で教えたい原理原則や科学的概念は、自分で考えて言葉にすることで初めてつながる。かつ友達と話し合うことで自分なりに納得する形で知識が定着する。
事実を情報交換するのではなく、事実と自分の知識とのつなげ方(概念や見方・考え方)を話し合いながら学び取っていく協働的な学びが極めて重要である。「これが答えだよね」という確認の話し合いではなく、「どうして?なんで?」という言葉が出るような話し合いの中で「答えは自分で作るものだ」という主体的な学びが進む。
例えばクラウド共有や相互参照の際には、なぜ内容や解釈が異なるのか、どこが違ってどこまでは一緒か、明確な問いを持たせる。すると得意な子から結果を教えてもらう、調べたことを発表しあうといった浅い学びではなく、苦手な子の視点からも新たに学ぶことができるようになる。
個別最適な学びで基礎・基本を鍛えると個人が伸び、協働学習が充実するのではない。1人ひとりの良い点や可能性を生かして多様な他者と協働する中で新しい視点や考え方を互いに学び合い、学びの拡張を経たうえで個別最適な学びに戻ることで質の高い深い学びが実現できる。
教員の授業改善や研修の進め方も同様である。1人で指導案を考えてその後検討し合う、1人で観察の視点を考えてその後対話してふり返るのではなく、一緒にアイデアを出し合うことを経て実践者が指導案を完成させること、一緒に観察視点を焦点化してから個人でふり返ることで自分のものになる。
生成AIパイロット校の相模原市立中野中学校は生徒主体の対話的な学習文化づくりに取り組んでおり、生成AIとのやり取りを通して生徒同士の対話が生まれる授業を実践している。
生徒が考えたくなる、対話したくなるように教員があらかじめプロンプトの枠組みを準備し、生徒はそれをアレンジして活用している。回答を複数例示させる、AIに質問返しをさせ生徒の思考とプロンプト入力を促す、生徒のまとめをAIに整理させるなどだ。
生成AI活用の目的を6つ(課題解決・対話的学習、多面的な見方・多角的な考え方、メタ認知、個別最適化、語彙力・表現力の育成、文章添削・校正・評価)に分類し、プロンプトの構成に反映。何のために生成AIを使うのかを明確にしている。
また、授業づくりの際には生成AIを使って生徒の対話をシミュレーションして、問いや課題の設定を教員間で吟味している。「学び合いが深まる対話を行うこと」「生徒Aは支援が必要」などと設定・役割をAIに与え、学びの深まりやつまずきを想定しながらAI上で模擬授業を行うことで、授業改善のヒントを得ることができ、特に若手教員にとって経験を積む機会になっている。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載