2月3日、福岡市内で第117回教育委員会対象セミナーを開催。堀田龍也教授・東京学芸大学教職大学院は次期学習指導要領に向けたGIGA第2期の最新動向について講演。石垣市は次世代の校務DX、山江村と春日西中学校は1人1台端末を活用した授業改善について報告した。
山江村教育委員会 藤本誠一教育長
熊本県山江村は2011年度よりICT教育を推進。当時から同村のICT教育を牽引してきた藤本誠一教育長が環境整備、池田幸彦山田小学校長が実践研究について報告した。
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本村は子育て支援に力を入れており、就学金支援や小・中学校の給食費助成、英検受験料の無料化や中学生への語学研修なども実施。英検の合格率は70%以上である。今年度は中学校生徒会の提案でジェンダーレス制服を導入。子供の主体性や多様性を重視している。
2011年度に文部科学省の調査研究事業として3台の電子黒板が山田小学校に導入されたことからICT教育の環境整備と研究が始まった。教員のニーズに応じて計画的にICT機器を導入したことにより、教員の指導力向上と子供たちの学力向上につながった。
2015年度に1人1台端末環境となり、GIGAスクール構想開始時に1回目の更新を実施。現在は1人あたり1・5台整備し持ち帰りのために端末保障も付帯している。2025年度に2回目の更新を行う予定だ。
指導者用デジタル教科書は全教科、学習者用デジタル教科書は4教科配備し、ICT支援員を小中学校に常駐している。校務支援システムは教員の異動を考慮し10市町村で共通のシステムを整備。今後、教員用端末の1台化に取り組む予定だ。
山江村村立山田小学校 池田幸彦校長
山田小学校は昨年度よりリーディングDXスクールに指定。「自分の考えをもち、自分を表現できる児童」の育成を目指して授業改善に取り組んだが、焦点化されたテーマの方が全員で取り組みやすいという教員の意見を受け、今年度は研究テーマを再構築。
「自立・協働して学べる児童」の育成に向けて、発達段階に応じた複線型授業に取り組むこととした。
必要に応じて他者参照しながら児童が学習過程に沿って個々に学習を進め、教員は児童の実態に応じて支援を行い、最終的には学習過程を自分で進められる力の育成を目指している。
複線型授業のイメージ図を教員や児童と共有し、単元全体や単元内の一部の流れで捉えるようにしている。教科や単元に応じて一斉指導と複線型授業を組み合わせながら取り組んでいるところだ。
研究の視点は3つ。
1つ目は自ら学習を進めていく力の育成だ。児童が見通しをもてるよう単元の初めに学びのガイドを提示。指導要領を児童にもわかりやすい表現で伝えるガイドAと単元計画を示すガイドBの2枚の基本形を用意し、学習内容や学年に応じてアレンジして使っている。学習計画を進める上ではスプレッドシートを用いた学習シートを児童の実態に合わせて作成。個々の疑問や課題、ふり返りや自己評価を共有している。
授業では個々に学習を進めながら友達の意見と自分の意見を比べたり、どのように進めていけばよいか分からない時は友達のやり方を見て理解したり、児童自身が必要に応じて他者参照しながら学びを広げている。一方で、個の学びに集中するあまり多様な考えに触れることができないという状況も生じている。教員はこれまで以上に1人ひとりの学習内容や進捗を把握し、適宜指導をしたり、児童同士をつないだりすることを意識する必要がある。
2つ目の研究視点は子供の見取りと評価だ。評価方法や時期、観点を明確にし、児童向けに評価規準を示している。自らの学びが目標のどこまで近づいているかを確認することができ、児童のやる気を生み出したり、学びの質を高めたりすることにつながった。
3つ目の視点は学習者マインドの育成だ。学習者自身が「なぜ学ぶのか」について考え「学びの必要性」を感じ、学びたい気持ちを持つことが自立した学びに欠かせない。日常的な指導で1人ひとりの学習者マインドを育むために教員間で取組を共有しながら研究を進めているところだ。
教員は授業について考え、校内研究に取り組むことが楽しいと話しており、子供たちもこれまで以上に熱心に学習に取り組んでいる。5・6年生が学級閉鎖で休んだ際には4年生が率先して代わりに委員会活動を担うなど自主的に活動する力が育まれていると感じている。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載