2月3日、福岡市内で第117回教育委員会対象セミナーを開催。堀田龍也教授・東京学芸大学教職大学院は次期学習指導要領に向けたGIGA第2期の最新動向について講演。石垣市は次世代の校務DX、山江村と春日西中学校は1人1台端末を活用した授業改善について報告した。
春日市立春日西中学校 佐々木保高主幹教諭
春日市立春日西中学校 大津圭介校長
福岡県春日市立春日西中学校は昨年度生成AIパイロット校に、今年度リーディングDXスクールに指定。端末を活用した個別最適な学びと協働的な学びの一体的推進に取り組んでいる。
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本校は各学年6学級に加え特別支援学級が9学級と多様な生徒が在籍している。一斉授業のみでは取り残されてしまう可能性のある生徒への支援に課題を感じており、また学びに対する主体性の醸成や個別最適な学びに向けた授業改善の必要性も感じていた。
そこで2023年度、教員の意識改革を図るために教員研修を実施し、一斉授業と両輪で個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を進めていく方針を周知。数学科を中心に自由進度学習に取り組み、他教科の教員が授業を参観して授業改善の具体的なイメージをもてるようにした。
さらに生成AIパイロット校に応募し研修や校務で生成AIに触れたことで、より教員の意識改革や授業改善を促すことにつながった。
2024年2月、教員全員で2024年度の重点目標を決める経営参画会議を実施。本校の課題の1つとして生徒の主体性と自律性の不足が挙げられた。学びに対する受動的な態度からの脱却を目指して、2024年度も引き続き自由進度学習と生成AI活用の取組を進めているところだ。
今年度、自由進度学習(数学・美術)、生成AI活用(理科・英語・音楽)、さらに生成AIと自由進度学習を組み合わせた授業実践(社会)など、全教科・全教員が1人一回の公開授業で授業改善に取り組んだ。
数学科では単元内自由進度学習を展開。学習形態や、習得する方法、生徒が自作した問題を互いに解き合う、教員が用意した問題を解くなど演習する方法も生徒が選択。ステップごとに小テストを設定し、スプレッドシートを使ったふり返りシートを用意して教員による形成的評価を行いながら進めた。
すでに個別最適な学びを実践している美術科ではICT活用の場面を工夫した。スプレッドシートで他者参照しながら個人目標を立て、制作状況も写真に撮って共有。困ったことや表現の仕方について相互にコメントやアドバイスを行い、協働して解決しながら次の目標につなげていた。
理科「気象のしくみと天気の変化」の単元では、気象庁HPから気象情報を取得し生成AIに入力して天気を予報させた。生徒は様々な情報とともに吟味して信憑性があるかを確かめつつ、考えを深めていた。この実践でもスプレッドシートで学習計画を立てて自らの学びを可視化させ、個別最適な学びの充実を図った。
英語科では自分が決めたトピックについて発表原稿をまとめ、生成AIを活用して原稿の添削や、発音の確認を行った。生徒それぞれの実態に応じた回答が返ってくるよう設定したプロンプトの定型文を用意したことで、より個々の課題に迫る学びを実現できた。
音楽科では文章からメロディーを生成するAI「Creevo」を活用。創作に苦手意識をもっている生徒でも何度も繰り返し創作した音楽を比較・吟味することができ、その音楽を選択した理由を観点別に説明することで、創作を突き詰める学びを実践した。
生成AIと自由進度学習を組み合わせた社会科の実践では、享保の改革、田沼意次の改革、寛政の改革のうち江戸幕府の収入を最も増やした改革はどれかという視点でそれぞれの類似点・相違点を捉えさせた。仲間との協働、生成AIへの相談、インターネットでの情報収集、教員からのアドバイスなど授業の中で必要に応じて生徒が学ぶ手立てを選択できるようにし、個に応じた指導を行った。授業の最後に、教員が意図した学びの視点がまとめに盛り込まれているかを生成AIに評価・助言してもらった。
2023年度からの生成AIの活用により校務も効率化。今年度の教育利用も不安なくスムーズに導入ができた。生徒は一問一答の知識の習得の場面ではなく、思考・判断の場面で学習の伴走者として生成AIを活用する姿が見られた。
生徒への生成AIについてのガイダンスは外部講師により実施したが、今後は自校で情報モラル教育等が行える体制としたいと考えている。教員間の活用格差が生じないような工夫も必要だ。
生徒は状況に応じてインターネット検索等と上手く使い分けができるようになってきたが、ハルシネーションの問題や安易に答えを求めようとするなど、生成AI特有の課題への対応も必要であると考えている。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載