2月3日、福岡市内で第117回教育委員会対象セミナーを開催。堀田龍也教授・東京学芸大学教職大学院は次期学習指導要領に向けたGIGA第2期の最新動向について講演。石垣市は次世代の校務DX、山江村と春日西中学校は1人1台端末を活用した授業改善について報告した。
東京学芸大学教職大学院 堀田龍也教授
堀田龍也教授は次期学習指導要領に向けたGIGA2期の動向について講演した。
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2030年からスタートする次期学習指導要領の検討が始まった。「デジタルの力でリアルな学びを支える」ことを基本的な考え方としつつ、GIGAスクール環境が十全に用いられることを前提に議論が進む。
情報活用能力の抜本的向上に向けては、何らかのまとまった時間を確保する方策も考えられる。新たな学びにふさわしい教科書の内容や分量、新たな検定の方法なども検討されるだろう。
デジタル学習基盤を前提とした学びについて考えると同時に、そうした学びにおいてどこでどのように教師の指導性を発揮するのか。指導が不要になるということではなく、指導の重点が変わるということだ。
GIGAスクール構想による1人1台端末活用が始まってから5年が経ち、活用の地域間格差という課題も生じている。
子供が日常的に端末を使い、クラウドで情報を共有しながら1人で学んだり友達と学び合ったりできているか。様々な学習ログがきちんと蓄積されているか。それに合わせ1人ひとりの学力やペースに合わせた学びを展開しているか。デジタル教科書を必要に応じて使える環境か。学習の基盤としての情報活用能力が身についているか。今一度ふり返る時期である。
端末活用が進んでいる学校は知識・技能よりも思考力・判断力・表現の分野のスコアが相対的に高い。一斉指導の時間配分が減り、自分の考えを説明するという学習活動が増えるからだ。基礎的な知識についての反復学習も引き続き必要であるが、その上で授業の形を変えなければならない。
学力とは「学んだ力+学ぶ力」である。学力調査等のスコアのみを指標にしてしまうと「学ぶ力」を見過ごす恐れがある。学び続けなければならない時代において、学ぶ力がないと、学び続けることはできないであろう。そのためにも「自分のために学ぶ」という考え方を子供と共有することだ。学び手として自分の成長ぶりを理解し喜びを感じることができれば、学ぶ力は伸びていく。
そこで重要になるものがふり返りである。ある学校では、ふり返りを学習内容と学び方に分けて進めていた。学習内容は単元や教科によって変わるが、学び方は教科を越えて転移する。その子なりに成長していけばよく、学び方を学び、自分のペースで学べるようにすることが個別最適な学びの核だ。
子供が自分のペースで個別最適に学ぶためには、自分で教科書を読み取って情報を抜き出す力は学力の基礎として極めて重要である。子供の学習のために作られた教科書を自ら読み取る力がなければ、ネット上の多様な情報を適切に読み取れるはずがない。大事だと思う部分に線を引き、読み取る練習は重要な学習活動である。
読み取って理解した内容がクラスの友達と一致しないこともあるだろう。そこで対話が生まれる。協働の方法も指導する必要があるだろう。ある学校では、確かめたい時は似ている考えの人と、深めたり広げたりしたい時は異なる考えの人となど、目的をもって子供自身が協働する相手を決める方法が定着している。これも、クラウド環境で学習の進捗状況を共有することで可能になる学習活動だ。
こうした学びが進んでも、一斉指導がなくなるわけではない。大型提示装置と実物投影機でわかりやすく教えることが効果的な場面もある。基礎学力が大事なことも変わらない。基礎・基本がなければ1人で学ぶことはできない。クラスの子供たちがキーボードで何文字打てるか把握しているだろうか。文字が書ける、九九ができることと同じようにキーボード入力も学びの基礎である。
これからの学校は多様性や包摂性が求められる。クラウドで共有して他者参照するだけでも学びやすくなる子供は多い。外国人児童生徒が増加する中、翻訳ツールも必要な整うべき学習環境といえる。
1人ひとりが自分の力で学べるようになると、教員は発達上課題がある子など多様な子供に対応する時間を確保しやすくなる。個別最適な学びとは1人立ちできない子にもよりよい手立てを考えることである。
そのためにも生徒指導だけでなく学習指導においても心理的安全性が保たれた、「わからない」と言える教室・授業づくりが重要だ。人の話を聞く姿勢がしっかりと身についており、1人ひとりの発言が尊重される安心感のある環境は子供の学びたい気持ちを後押しする。これは学級経営や学年経営にも関わる。個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実と、子供たちが暮らしやすい学校づくりとは密接に関係する。
端末の持ち帰りやクラウドを使った学習が日常的に行われていれば、学校に来られない子供もどこからでも学習に参加できる。教員も同様に、家庭の都合等で学校に来れずとも家からクラウドで教材を配布したり指導したりすることは可能だ。
こうした柔軟な運用は実際に行われている。諮問に「柔軟な教育課程」とあるがこれは単に授業時間を短縮することを指すのではない。1コマの時間を学習内容に合わせて教育委員会や学校の判断で弾力的に編成することであり、これは現行の学習指導要領でも既に可能だ。これをさらに広げるためにはどうすればよいのか、という話である。
情報活用能力は次期学習指導要領でもますます重視される。「学び方」の1つが情報活用能力であり、これを身につけることで学ぶ力そのものが向上する。各教科の学びのついでに情報活用能力を育てるのではなく、情報活用能力が身につくことによって教科の学びが充実する、という点を理解する必要があるだろう。
来年度からCBTの段階的な実施が始まる。動画による出題も考えられるだろう。それに備え動画を見て学ぶスキルを授業に組み込んだり、2027年度の全面実施の前に全校同時アクセスを試み、ネットワークの負荷等を検証したりすることが求められる。
学校のICT環境整備3か年計画が公表された。指導者用端末の考え方が拡大し非常勤講師への配備を含むか否かも自治体判断に任されている。教員の業務用ディスプレイの1人1台配備、次世代型校務支援システムなどが積算され、GIGA2期に向けた内容に更新されている。電子黒板等の大型提示装置や実物投影機といったわかりやすく教える術は引き続きの整備が求められる。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載