ChatGPTで対話繰り返し課題や研究を理解
東洋大学INIAD(情報連携学部)は2023年4月、生成AIのChatGPTを組み入れた新たな教育システム「AI-MOP」(AI Management and Operation Platform、AI管理運用プラットフォーム)を開発し導入した。
学生はAI-MOPで対話を繰り返すことで、自身の課題や研究について、深く理解しながら取り組むことができる。主な特徴は次。
- Slackベースのユーザーインターフェース
INIADでは、学生と職員とのコミュニケーションプラットフォームとして、全員がSlackを使っている。そこで、直接ChatGPTなどと対話するのではなくて、日ごろ使い慣れているSlackのボット機能によって複数のAIモデルにアクセスできる。
- APIによるプログラミング連携
API(Application Programming Interface)(※)により、生成AIをプログラムから呼び出すことができる。AIを使うシステム開発にも活用でき、このスキルは実務でも重要である。
(※)アプリケーションやソフトウェアを連携させるためのインターフェース
- トークン管理機能
質問ごとにAIサービスの利用量を可視化。また、公平な利用環境の確保や効率的な利用が促進された。
- マルチモデル対応
複数の企業が提供する最新生成AIモデルが利用できる。現在はOpenAI社とAnthropic社の最新AIモデルに対応している。
社会貢献できるアプリ開発が可能に
学生がAI-MOPを活用して作ったアプリを3つ紹介する。
- AI Study Map(3年・チーム実習)
学習支援アプリ。学習テーマを入力すると、AIが自動的にマインドマップ型の教材を生成し、学習トピックを表示する。ユーザが各トピックの確認問題に正解すると、その項目を発展させた次の学習トピックが生成される。
- ☆いにあど なび☆(4年・卒業研究)
INIADの施設案内アプリ。AIに行きたい場所を話しかけると、AIが周辺画像から認識した現在地から目的地までナビゲーション。施錠されたドアを通るときは、AIが判断して自動的に解錠する。
- AiDAR for VI(4年・卒業研究)
視覚障害者を支援。スマートフォンのセンサーで障害物までの距離を検知し、AIを用いることで、周囲に何があるかなどの状況を音声で説明する。
思考の深化に役立つ 特性や限界も体験
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坂村健名誉教授・東京大学
AI-MOPを開発・導入した背景について、INIAD創設者で東京大学名誉教授の坂村健氏は「生成AIを使うことは、自分の頭で考えないことにはつながらないと考えています。むしろAIとの対話を通じて、自分の考えを深めることができます。実社会でも生成AIの活用は不可避です。学生のうちから適切な活用方法と、AIを積極的に使う姿勢を身につけることが重要です」と話す。
導入から2年近くが経過し、次のような効果が確認されている。
- 学習意欲の向上
気軽に質問できるようになり、より積極的に学習に取り組む学生が増えた。深夜でも質問できることで、学習の継続性が向上した。
- 思考力の深化
AIとの対話を通じて、多角的な視点で考える習慣が身についた。回答を単に利用するのではなく、批判的思考力が育成されている。
- 実践的なAIリテラシーの向上
生成AIの特性や限界を実体験として理解できるようになり、将来の実務での活用を見据えたスキルが身についた。
高い質の成果物を生む パートナーとして活用
学生からは「24時間対応の家庭教師のような存在」「基礎的な質問を気軽にできる」など評価する声が多い。教員からも、学生の理解度の把握や個別指導の充実につながっているという評価を得ている。
導入当初から、AIの回答をそのまま使用する「取って出し」は厳しく禁止してきた。
AIとの対話を通じて理解を深め、よりよい成果を目指すよう、課題によってはAIとの対話ログを提出させるなどの指導も行っている。
また、AIの回答の質は、問いかける側の理解度で決まることも、繰り返し強調してきた。
「学生たちは生成AIを『答えを出してくれる便利なツール』としてではなく、『より深い理解や高い質の成果物を目指すためのパートナー』として活用する姿勢を身につけています。これは私たちが目指していた教育効果そのものであり、大変喜ばしく感じています」
今後はAI-MOPへの最新生成AIモデル対応を継続していくとともに、より多様な学習シーンでの活用を可能にするための機能拡張も予定している。
(蓬田修一)
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載