技術の進展や予測が難しい社会に対応できるような学びの変革と多様な課題解決に対応するためにも、教育長のリーダーシップが一層重要視されている。一方で、教育長の候補者不足や要件に合う人材不足が課題として指摘されていることから、一社・LEAPとPwCコンサルティングは2月22日、第2回教育政策リーダーフォーラムをオンラインで開催。
水野達朗大阪府教育長、遠藤洋路熊本市教育長、高橋洋平鎌倉市教育長が「学習者中心の学びへ変容をリードする『これからの教育長』とは」をテーマに討議した。ファシリテータはLEAP代表理事・鈴木寛教授(東京大学公共政策大学院)。当日は300人以上の教育関係者が視聴した。
熊本市教育長、大阪府教育長、鎌倉市教育長が登壇。鈴木寛教授がファシリテートした
冒頭、LEAP代表理事・加治佐哲也氏(兵庫教育大学長)は「LEAPの活動を通じて教育長職を、より存在感があり、公教育に影響力のある専門職集団としていきたいと考えている。今日は学習者中心の学びを実現するために教育長はどうあるべきかを考える機会としたい」とあいさつした。
一社・LEAPは2024年3月に設立。教育政策のリーダーに求められるものが増えている中、実現すべき教育に向けて広く人材確保するための仕組みの検討や普及に向けて現職教育長や教育政策に携わる大学関係者、コンサルティング会社が連携して設立された。
討議では、省庁や企業で活躍した経歴をもつ現職教育長が登壇。
高橋洋平・鎌倉市教育長は文科省を退職後、コンサルティング企業の教育マネージャーを経て2023年より現職。教育長就任後は、教育行政職を民間連携で公募するほか、ふるさと納税制度を活用して寄付を募る「鎌倉スクールコラボファンド」を進めた。LEAPの理事・事務局長も務める。
遠藤洋路・熊本市教育長は文科省、熊本県教育庁などを経て2017年より現職。文科省退職後は起業し、兵庫教育大学客員教授も兼任。教育長就任後は熊本地震からの復興に向けて2018年、iPad(LTE)や電子黒板を全小中学校に導入した。
水野達郎・大阪府教育長は、家庭教育アドバイザーや不登校児童生徒を支援するカウンセラー等を経て、大東市教育長に就任。「教室復帰ではなく、すべての子供の学びへのアクセス」を目指した政策を実施し、2024年より現職。
いずれも首長部局からの声掛けで教育長職に就いている。
次世代の教育を進めるためには、教育長がキーになる。行政経験者や校長経験者が大半である教育長職だが、大阪府では昨年4月から、民間経験があり教育長職経験ももつ水野氏に教育長を依頼。これまでの組織マネジメントの経験を活かし、大阪から全国によりよい教育政策を発信してもらいたい。府の取組が、多様な外部人材登用の有効性を広げる機会になればと考えている。
大阪府では2024年度より、所得制限なしの高校授業料無償化を段階的にスタート。子供の選択肢が広がることで高校の魅力化や特色づくりが一層重要になり、高校全体の活性化につなげたい。
国を支えるものは教育である。現場の声をしっかり聴きながら様々な情報や新しい知見を教育に吹き込んでいくパワーが教育長に必要。遠藤教育長は適任である。熊本県に社会教育課長として出向していた際に交流があり、判断力や分析力の高さについては知っていた。文部科学省にいた経験から教育行政に詳しく、省庁の退職後はシンクタンクを設置するなど気概をもってシステム変革に挑もうとする気持ちに注目していた。
――今まさにこの時期「学習者中心の学び」を実現するために、教育長にはどのような力が必要か
■高橋 学習者中心の学びを始め、何らかの変革を起こすためには教育現場が腹落ちすることが必要。そのために必要なものは対話。教育長が声を大きくするだけでは変わらないし変えられない。現在、鎌倉市では新しい教育大綱を策定中。教育長として伝えるべきことは伝えた上で、すべての学校のすべての教員と目線を合わせながら語り合っているところだ。手法を教員に委ねて力を発揮してもらうにはどうすべきかについて、大人も「探究」している。
■遠藤 議会を動かすのは首長の力。そのため首長と教育長がともに目指す方向が同じである点は重要だ。
――教育施策や教育大綱を絵にかいた餅にしないようにするためには、リソースを集めることも求められる。外部人材も含め、税金以外のリソースについてどのように確保しているのか
■高橋 鎌倉市ではふるさと納税の仕組みを使い、鎌倉スクールコラボファンドを実施。約4000万円を調達した。また、教育行政職のスペシャリストを民間企業(エン・ジャパン)と連携して募集。約100人の応募があった。
■水野 大阪府大東市では、物品寄付や事業・イベント等のネーミングライツ設定などにより財源の確保に努めた。物品寄付については学校が必要とする用具等をまとめたウィッシュリストを教育委員会が作成した。
大阪府では、全体予算の約7%程度だった教育予算を11%程度まで引き上げた。
■遠藤 Kumamoto Education Weekを2021年度から毎年開催している。全市あげてオンラインや対面で教育について考える期間で、企業や民間団体、大学等と連携しており2024年度は70以上のプログラムを実施。協力企業は毎年増えている。担当職員が力を入れて集めている。
さいたま市前教育長であり、LEAP理事を務める細田眞由美氏は討議をふり返り、
「外部人材として嘱望されて就任した3人の教育長の成功の原因は、外部人材であることのみではなく、人間力にもあると感じた。アンテナを高く持ち学び続けているところが共通しており、教育に対する確固たるフィロソフィーがあるからこそ、周囲を巻き込む力を発揮できる。
さいたま市教育長時代、国際バカロレアの公立中高一貫校を絶対に実現したいと考え、首長が会議で移動する時間を利用して資料を1枚にまとめてプレゼン。マニフェストに入れていただいた。絶対に進めたい施策については、政策の窓をこじ開ける胆力も必要である」と話した。
「未来の教室」事業を行っている経産省商務・サービスグループサービス政策課教育産業室では2025年1月、「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する事例集」を公表。自治体が行ったふるさと納税や寄付、基金設立、投資運用などの事例をまとめており、大東市のウィッシュリストや鎌倉市の教育行政職ポストの新設・採用及び基金設立についても掲載されている。
詳細:イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する事例集
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年3月3日号掲載