12月3日、東京都内で第116回教育委員会対象セミナーを開催。文科省の寺島史朗学校情報基盤・教材課長は第2期に向けた学校ネットワーク改善について講演。探究学習、ネットワーク統合、電子黒板や生成AIの授業活用の取組が報告された。
つくば市立みどりの学園義務教育学校は昨年度より生成AIの授業活用に取り組んでいる。中村教頭は「生成AIの科学的な理解が活用への不安解消やクリティカルな思考につながる」と話す。
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本校は2030年代のチェンジメーカーの育成というビジョンの下、9年間の系統的な学びを活かし、ICT教育、プログラミング教育、STEAM教育、英語教育、アクティブ・ラーニングなど2030年代に必要だと思われる力を身につけるための学びを授業に取り入れており、生成AIの活用もその1つと考えている。
初めに「生成AIとは何か、なぜ必要か」についての校内研修を実施。次に「学校教育にどう取り入れるか」について有識者や企業による外部研修を行った。特に従来のAIや機械学習、ディープラーニングについて学び、「AI」の科学的な理解を促すことは子供にとっても大人にとっても重要である。例えば、AIが情報を統語論的にフィードバックしていることが分かれば、「間違った情報が出力されるのではないか」とクリティカルな視点で考えることができるようになる。
その後、授業での具体的な活用について学校DX戦略アドバイザー等による研修を受けた上で、試行錯誤しながら実際の授業に取り組んだ。教員が前向きにチャレンジしやすいように「褒める」ことも心がけ、31もの指導事例を生み出すことができた。
その他、市のICT指導員による操作研修や教員の特性に応じた個別最適な学びを実現するメンター研修など段階的な研修を実施。
「年齢制限や著作権の問題が気になる」「情報の正確性や確認方法に不安がある」といった否定的な意見に対して、正しい理論を伝えて不安の徹底的な解消を図り、教員が納得して活用できるよう努めた。
小学校1年の道徳では「むねにとげがささる」という表現の意味について、AIの回答と自分の考えを比較した。「胸に小さな鋭利なものが刺さる」と現象を説明するAIの回答に対し、児童は「いやな気持ちのこと」と自分なりに表現。感情を持たない生成AIの特性を利用して、子供の気づきを促していた。
中学校1年国語の詩の単元では、教科書の作品と同じ題で作成した生成AIの詩とを対比させ、そのコントラストによって「人間らしさとは何か」を考え、作者の意図に迫った。作者の作品傾向を調べるなど課題解決のためのツールとしても生成AIを活用。プロンプトの入力が不十分で「『虫』という詩は誰の詩のことですか」と問い返されたり、プロンプトの少しの違いで回答が異なったりすることを体験し、どう入力すれば求める回答を得られるか考えながら取り組んでいた。
中学校2年国語の『走れメロス』の単元では、AIメロスとの対話を通してメロス像を探究する学びに挑戦。メロスの人物像を読み取り、それを生成AIに取り込んでAIメロスを作成。物語の様々な場面でAIメロスがどのように行動するかをインタビューし、物語には表現されていない感情の揺れに迫るなど新たなメロス像を追究した。
本校では探究プロセスのすべての場面で生成AIを使っている。多面的・多角的な視点をもたらす「思考の壁打ち相手」として、生成AIとの対話を通して視点を広げたり思考を深めたりしていくうちに、子供の内発的動機が高まり主体性が育まれる。
生成AI利用前後の児童生徒調査では、生成AIは「なんでもできる」「調べ物が得意」「仕事をうばう」「勉強をしなくてもよくなる」が減少し、「間違ったことをいう」が上昇。「AIは人間を退化させると思っていたが、AIを動かすためには知識が必要だと分かった」「AIを使えるようになるために勉強が必要だと思った」とAIとの向き合い方を子供自身が考えていた。
実践を通して、学校がよりよく生成AIに触れる機会を提供すれば子供たちは正しく生成AIと共生できると感じている。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年2月3日号掲載