11月23日、鹿児島市内で第115回教育委員会対象セミナーを開催した。鹿児島市・大分市・西米良村・福岡市・熊本市の5つの教育委員会が登壇し、学習者主体の授業・教員研修、教育データ活用、GIGA第2期の環境整備などについて報告した。
熊本市教育センターの山下若菜指導主事は多様な子供・教員が「学びとる」授業・研修の取組について報告した。
◆・◇・◆
本市は教員主導の「教わる」授業から、子供が主役の「学びとる」授業への転換を目指して授業改善に取り組んでいる。子供が自分で考え、判断し、決定し、行動する授業だ。これには「選択権は学習者にある」という授業観・指導観のアップデートが欠かせない。これまでは教員が知識を伝達する授業が中心だったが、これからは教員も共に学ぶ授業へと変わっていく。子供たちの特性や関心・意欲は多様であることを前提に、個人の強みを引き出し、楽しく学び続ける力や新たな価値を生み出す力を育成することが重要になる。
ICTによって表現の量や質、選択肢が広がった。教科書でも端末の使用を前提とした単元が増え、教科の中で取り扱う言語活動が多様化している。授業で言語活動を設定する際には、指導事項を意識すること、教員がねらいをもって少しの制約を与えることが必要だ。「なんでも自由にやっていい」では上手くいかない。様々な言語活動を経験させて、子供の学びの選択肢を増やすことも重要である。
本市の実践でも多様な言語活動を通して学んだことを深く理解する授業が多く見られるようになった。小学校1年生活・アサガオの育て方のポイントを新1年生に動画で伝える活動や、中学校2年社会・学習課題について調べオリジナルクイズをつくる活動などだ。
小学校2年算数では、身の周りから「かけ算」を見つけて「九九ラップ」をつくる活動に取り組んだ。教科の見方・考え方を働かせながら、学ぶ内容と日常を結びつけ、学びを「自分ごと」として捉えることを目指した取組だ。
本市と福島市、横浜市、枚方市の4市で地域の名物をテーマにした「九九ラップ」を発表し合う交流会を開催。本市の児童は「からしれんこんの穴の数」に着目してラップを創作した。「グループをまとめるのが難しかった。なぜなら皆の意見を聞かないといけないから」という子供の感想もあり、これからの社会で求められる多様な他者と協働する力の育成にもつながった。
教員の学びの姿は子供たちの学びの相似形だ。そこで教員研修も「教わる」研修から自分で「学びとる」研修へと転換を図り、子供の学びを教員自身が体験する内容としている。学びとる授業や協働活動、役割分担、新しい価値の創造といった新しい学びを体験しながら学びとる研修を通して、自ら学び続ける教員の育成を目指している。
教員研修ではプロジェクト学習も体験した。課題を共有し、役割を決めて情報収集。同じ役割同士で情報交換をした後、班で整理・分析してまとめ、最後に発表して評価し合った。協力しないと解決の難しい課題を抽象化していく方法や、情報活用能力、ジグソー法の進め方、協働する・対話するということ、ルーブリック評価とふり返りなどを実際に体験しながら学ぶことで、参加した教員は「忙しかったが達成感があった」と新しい学びの良さを体感し「教室でやってみたい」と意欲を見せていた。
子供の特性が多様であるのと同様に教員の授業スタイルも多様である。子供が協働的な学びの中で自分に合った学びを獲得するように、教員も協働する中で自分に合った授業スタイルを見つけることができる。「楽しい」は「学びたい」の原動力である。子供も教員もワクワクする授業を目指して授業改善に取り組んでほしいと考えている。
授業改善や校内研修の指針となる「ICT教育モデルカリキュラム」を作成。教員用端末で閲覧でき、研修や授業で活用してもらっている。情報活用能力育成に向けた年間指導計画を各学年ごとに提示しており、教科書の改訂などに合わせて都度、更新している。
各校のICT活用の段階に応じた様々な研修も提供している。パッケージ研修では授業でのアプリの活用法、プログラミング教育、情報モラル教育、管理職研修などをテーマに、研修時間や実施方法なども各校の要望に合わせ、教員が今困っていることや必要な情報についての研修をオーダーメイドで提供。希望参加型のSD研修は基本的な操作などについてオンライン研修を実施している。
ICT支援員とも密に連携。授業支援・準備や行事の支援などのほか、パッケージ研修に随行してもらう場合もある。さらに教員からの相談・要望をもとにアプリや教材作成も担ってもらっている。
YouTubeチャンネルやFacebook、ホームページ、熊本市授業実践集などにより、本市の学びを世界に発信している。本市教育委員会が主催する「熊本エデュケーションウィーク」で地域推進教育課、総合支援課など様々な部署が各自でコンテンツを企画し、オンラインや参集型で配信。今年度は1月13~19日に開催し、約80のコンテンツを用意した。
熊本大学が主催する「熊本デジタル作品コンテスト」は子供のアウトプットの場を広げるとともに、入賞作品を見た子供が創作に取り組むという好循環ができている。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年2月3日号掲載