11月23日、鹿児島市内で第115回教育委員会対象セミナーを開催した。鹿児島市・大分市・西米良村・福岡市・熊本市の5つの教育委員会が登壇し、学習者主体の授業・教員研修、教育データ活用、GIGA第2期の環境整備などについて報告した。
学校DX戦略アドバイザーを務める木田博教育DX担当部長は学習者中心の学びの実現に向けた自由進度学習のポイントについて報告した。
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多くの学校が、端末やクラウドを活用した共有や共同編集などデジタライゼーションの段階へと学びを進めているところだ。一方で教員が端末の使い方を指示する「デジタル一斉授業」になってしまうと、子供が自ら学び進める力が育ちにくいという懸念がある。PISA調査の結果にも自律した学びには自信がないという面が現れている。
教育DXの目指すところは、子供が自分で学習を組み立てる自己調整力を身につけ、学習者中心の学びを実現することだ。本市では子供が学びを自分のものだと思い、自分でつくることができる学習者中心の学びの実現に向けて自由進度学習に取り組んでいる。
学校DX戦略アドバイザーとして全国の学校を支援する中で自由進度学習の成否のポイントが見えてきた。
1つ目は、子供が解決のために多様な方略を選ぶ余地があるか、という点である。教科書とワークシートだけを使ってすべての子供が1人で問題解決をすることは難しい。動画やデジタルドリル、Web検索といった学習方法や、1人で学ぶ、誰かと協力する、教員に質問するなど様々な学習形態を用意して、子供自身が自分の学びに合う方法を必要な場面で自由に選択できる環境づくりが必要だ。
2つ目は、教員が子供の学習状況を細かに把握できているかどうかだ。本市では、ICTを活用することで、子供たち同士が学習状況を共有でき、教員は子供がどの問題でつまずいているのかをリアルタイムに把握してきめ細やかな支援を行えるようになった。
これらのポイントを押さえ、自由進度学習を実現するためにはICT活用が必要不可欠だ。学習計画表のクラウド共有や電子黒板での前時のふり返りを行うほか、子供の課題解決の支援となるワークシートや動画等のコンテンツに自由にアクセスできるようにし、学びの特性に応じて端末やツールを自己選択できるようにしておかなければならない。さらに、デジタルドリルの自動採点機能や授業支援システムのふり返り機能などを活用して、個々の学習の進捗や定着状況を教員がリアルタイムに把握することで、個別の支援もしやすくなる。
こうした学習基盤の下、子供たちは自分のペースで学習を進め、「分かる」という実感を得られるようになる。分かる実感があるほど、学習に対する意欲が高まり、分からないところをそのままにせず、理解するまで粘り強く取り組む主体性が育まれる。
常に教員の指示で学習を進めるのではなく、子供たち自身が「学習は自分たちのものだ」と考え自ら学習を進めていく。これらの経験の蓄積により、現在は子供同士で次の学習について話し合い、時間配分の工夫など改善策を講じる姿勢が生まれつつある。
自由進度学習に取り組んでいる本市の学校の実践を紹介する。
田上小学校は学年の発達段階に合わせて単元内の一部で自由進度学習を取り入れている。同校の取組のポイントは子供に委ねる部分を段階的に広げていることだ。子供たち自身も「先生に教えてもらって学ぶ」という固定的な学習観からの転換を図ることが必要で、自ら計画を立て学習を進める経験を重ねることで、主体的な学びの力が醸成され、学びの幅が広がる。
2年ではいくつかの観点に沿って問いを選択し、課題解決の見通しについては一斉に取り組む。6年では自ら問いを立て、これまで獲得した多様な学び方を活かして学びを進め、表現方法も子供に委ねる。いずれも問いを立てることを大事にしている。学びは「自分で決める」「自分で進める」という思いが主体的に学習に取り組むきっかけになる。
今年度、デジタル庁の実証事業に参画している八幡小学校で活用している学習計画シートはタップするだけで入力でき共有もしやすい。取組状況はグラフで可視化される。子供が自分の計画表を書くときに他の子供のシートを参照できる点がポイントだ。「受け身の授業だと集中力が切れてしまうが、自分で進んで楽しみながら授業を受けられるようになった」と子供も前向きに取り組んでいる。
錦江台小学校も単元内自由進度学習に取り組んでいる。学習計画表を共有して個々の活動を把握しており、活動場所も教室や図書室、廊下など様々だ。子供が自分で目標を立てると多様な発想が生まれる。単に問題を解けるようになるのではなく、友達に分かりやすく説明するなど目標を高め、自ら動画を作成する子も現れた。
伊敷中学校の実践は子供自身が学びを進めるための手立てがきちんと準備されている点がポイントだ。これがないと単なる「自習」になってしまう。その子が分かるようになるための方略が十分に準備されていないと自由進度学習は成り立たない。定期的にふり返りを行って互いの進捗状況を共有することも大事である。同校でも生徒による自主的な動画作成が行われており、問題解決のために友達の作成した動画を視聴する子もいた。学びの特性によって何が一番効果的かはそれぞれ異なるため、選択できるように準備することが重要だ
吉田南中学校は各教科において単元内自由進度学習を実現している。国語科では3つのミッションから学習内容を選択し、自分のペースでまとめていた。調べた素材や記述をスライドにまとめ、それを入れ替えながら発表資料を編集していく作業はICTならではだ。
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年2月3日号掲載