麻布大学は神奈川県相模原市にキャンパスを置き、獣医学部と生命・環境科学部の2学部・6学科を擁する。創立は1890年、大学設立は1950年で、大学名は創立当初、校舎が東京・麻布にあったことに由来する。
同学は2024年4月「高大接続・社会連携プログラム開発センター」を設置した。
「高大連携から高大接続へ、地域連携から社会連携へと本学の取組をより発展させ、麻布出る杭事業および課題解決型学習(PBL)の取組を強化・推進させて、その成果を大学改革に反映させるとともに、本学の魅力の拡大と教育改革につなげることを目的として設置しました」(麻布大学 高大接続・社会連携プログラム開発センター長 前田高志氏)
「麻布出る杭事業」とは、文部科学省の「出る杭を引き出す教育プログラム」(通称、出る杭)に、全国で唯一採択された「動物共生科学ジェネラリスト育成プログラム」のことだ。同学の強みである動物共生科学を主軸に、動物、食品、環境の各分野で研究プロジェクトが行われている。
学生は1年後期から、所属学科に関係なく興味を持った研究プロジェクトに参加。研究したいと思っている意欲的な1年生にとっては魅力的なプログラムだ。
また、高等学校の学習指導要領の改訂にともない、22年度から「総合的な探究の時間」の講義も実施されている。
「学習者が主体的にテーマを決め、それを解決するという総合的な探究の時間は、多くの高校がその取組に苦慮しており、大学や企業と連携したPBLへの関心は非常に高いものがあります。総合的な探究の時間を切り口として、本学が行っている出る杭事業やPBLに接続できれば、高校の理系教員や生徒に本学を強く印象づけることができます」
高大接続・社会連携プログラム開発センターは昨年、デジタル技術を活用した社会連携事業を実施した。
1つは24年8月に行った市民参加型ワークショップ「麻布大学生と橋本デジタルマッピング」だ。神奈川県相模原市にある橋本地区のいまの魅力をGIS(地理情報システム)を活用してデジタル地図として未来へ残し、まちづくりに貢献しようというものだ。JR東海が運営する橋本エリアのイノベーション創出促進拠点「FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)」との共催事業として実施。橋本駅周辺では現在、27年のリニア中央新幹線の新駅開業を見据え、新たなまちづくりを目指して、様々な整備計画が進められている。地域住民の多くが、まちの姿が日々変化し続け、愛着あるまちの風景が変わりゆくことに驚きや寂しさを感じている。同時に、今あるまちの魅力を何らかの形で残していきたいという思いをもつ人も少なくない。
そこで、今回のワークショップを立ち上げ、麻布大学の学生がまちの魅力や思い出をデジタル地図として未来に残していく手法を、ワークショップで伝えた。参加者はまちに出て、思い思いの場所を撮影し、撮影後は参加者同士でそれぞれの画像を共有した。
同年11月には、社会連携事業の第2弾として、神奈川県立相模三川公園(海老名市)で「スマホ片手で生き物記録~iNaturalistで県立相模三川公園を世界につなげる」を実施した。
麻布大学の高大接続・社会連携プログラム開発センター、県立相模三川公園の指定管理者である神奈川県公園協会、サカタのタネグリーンサービスの3者による共同主催事業で、麻布大学生命・環境科学部の学生がプログラムの企画・実施を主体的に担った。
プログラムには普段から相模三川公園を利用している住民ら11人が参加。学生がマンツーマンで、誰もが生物の観察記録を投稿できるSNS「iNaturalist」の使い方を伝えた。その後、参加者はペアになって公園内の生き物を観察、撮影してiNaturalistに投稿。約1時間の観察で250ほどの観察データが投稿された。神奈川県公園協会と麻布大学は今後も協働して、iNaturalistを活用した自然観察プログラムを相模三川公園以外の県立公園でも実施していく意向だ。
(蓬田修一)
教育家庭新聞マルチメディア号 2025年2月3日号掲載