パネル討議では生成AIパイロット校である楠本誠校長(松阪市立米ノ庄小学校)、伊藤将人主幹教諭(岩沼市立岩沼北中学校)、須藤祥代主幹教諭(千代田区立九段中等教育学校)が登壇。モデレータはリーディングDXスクール事業企画委員の佐藤和紀准教授(信州大学教育学部)。
初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドラインVer2・0では情報活用能力の育成強化が示されている。情報活用能力が身についていない子供が生成AIを使うとどうなるのか。情報活用能力を育成していく過程ではどの段階でどのように取組を進めていけばよいのか、また、小中高の接続をどうすべきかについて討議した。
生成AIパイロット校として様々な実践に取り組んでいる。利用している生成AIはChatGPTだ。教育委員会のバックアップがあり心強い。小学校である程度実践が進んでいるため、中学校段階ではアプリの説明等が不要である。
実践にあたっては「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の事例に倣って進めている。また、ほぼすべての保護者から利用の承諾を得ている。
技術の授業で「ライオンが街中に脱走した」架空のニュース動画を皆で視聴。フェイク動画が社会に与える影響について議論し、ファクトチェックのポイントを考え、活発な意見が出た。生徒自身が騙されないための方法を考えることで、情報モラルも身についていくのではないかと考えている。
国語では、作文の作成を生成AIがサポート。理解できない言葉の意味を中学生にもわかりやすく説明させた。英語では、生成AIに英単語や文法チェック、英会話相手を依頼。社会では歴史の長文の要約や思考の整理に利用。技術ではWebサイトの作成に利用した。
校務利用については、ルーブリック、各種アンケート、考査問題のたたき台や、会議・研修の文字起こし、考査問題ごとの正答率とアドバイスなど多岐にわたり生成AIに依頼。ゼロベースで行うよりも時間短縮になる。このほか月例報告集計やグループ分けの自動化、文書等の自動複製、無料APIを利用して暑さ指数を電子黒板に表示するなどの取組もある。市内で合同研修会を行い、横展開も図っている。
2024年度から校務分掌にCNV(Crate a New Value)室を設置した。教育DXや探究などを主に担当している。
本校の生徒は履歴を見ることができる校内独自の生成AI「otomotto」を利用しており、ごく自然に日常使いをしている様子が見られる。各教科で情報活用能力と紐づけた生成AI活用を推進。高校1年の総合的な探究では1人ひとり卒業研究を行う。そこで生成AIで自分の立てた問いについて推敲している。
国語の平家物語では画像生成AIで情景を可視化。それを推敲しながら完成していくなど、情報の再構成に利用。情報では情報通信ネットワークの構築について、生成AIに相談。生成AIと機器の解説書ではルータの設定方法が異なるなどの発見があった。これは情報収集力の育成につながる。
英語では英文内容を画像生成AIで表現。世界史探究では生成AIをディベートの相手としてシミュレーション。探究ではアウトプットの機会が多く、情報の比較や相互評価も日常的に行うため、情報活用能力育成につながっている。情報活用能力を高めることで、対話をより大事にするようになり、生成結果の丸写しは自分のためにならないなどの自覚につながるようだ。
本市では生成AIは小学校では利用できないため校務を中心に行っている。利用している生成AIは探究モードがあるもの。すぐに答えを出さないため、校務活用を通じて教員が生成AIとの付き合い方を学び取っている。
当初、生成AI活用に関する教員の不安をまとめたところ「なくても授業はできる」「忙しいので研修を受ける時間がない」「教える自信がない」など、10年以上前の文科省・学びのイノベーション事業におけるICT活用に関する不安とまったく同じであった。そこで本校では、これらの不安を解決するための計画を立てるとともに、教頭が中心になって生成AIの校務活用を進めた。ICTが得意な教員からの発信ではなく、教頭提案とすることがポイントだ。教頭提案はMicrosoftチームス上で行い、「いいね」で参加を表明することとした。
また、教員は生成AIとのやりとりを体験・経験することでイメージ化を図り、できるところから活用することとした。アンケートの分析や発出文書作成のたたき台の生成、文書添削、教材作りのアイデア出し、情報モラル授業の内容の相談や評価ルーブリックのたたき台の生成などを行った。特に初めての文書作成でもゼロから考える必要がなく時間短縮につながった。活用できそうな場面は予想以上にあることを共有できた。