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教育ICT

データ活用で学級風土づくり デジタル教材の効果も高まる~富山県黒部市立たかせ小学校

2025年1月3日

 教育データの利活用に向けた検討が国レベルで始まっている。様々なデータをダッシュボード化する方向に議論が進む中、「統合して意味をもつデータと単体で利用できるデータそれぞれのよさを各自治体のニーズに合わせて運用することも重要」という指摘もある。

富山県黒部市では2017年度より総合質問紙調査「i-check」の分析結果を利用した授業改善を進めている。黒部市立たかせ小学校(岸泉校長)6年生でも本分析結果を基にグループ編成や声かけなどを意識して授業を進めており、デジタル教材との相乗効果で自力解決に集中して取り組む様子や話し合いが活性化する様子が見られた。

 

調査結果を基にして席替え

算数では「東京ドームのおよその面積を考える」ことに取り組んでいた。

62組ではicheckの分析結果を基に111日より席替えを実施。発信力が弱かったり自己肯定感が低かったりした児童は安心して相談できそうな児童の近くの席とした。授業者の能澤紀子教諭は、それぞれの児童のよさをクラスで共有することを意識して授業を進めていた。

様々な形を当てはめて考えていた

不定形な形である「東京ドーム」の「およその面積」について当初、ほとんどの児童は教科書に掲載されている「正方形」を当てはめて考えていた。

しかし教科書の二次元コードから読み取ったシミュレーション教材を使って東京ドームの形に様々な図形を重ねて考えることで、面積のズレを視覚的に確認することができるため、「長方形」や「円形」などの図形を当てはめて試行錯誤する様子が教室中に見られた。

半径のサイズも様々

自分の考えや発見についてのグループ内での話し合いも活発に行われている。

終わってみると、最初は正方形と考えた多くの児童が円形を当てはめて「およその面積」を求めており、長方形や台形、平行四辺形を当てはめて考える児童もいた。

さらに、同じ形であってもそれぞれの児童が当てはめた図形の大きさは異なっており、一辺や半径のサイズも様々であった。1人で複数の値を考えて何度も計算し直している児童もいた。

 

デジタル教材で試行錯誤が活性化

能澤紀子教諭

能澤教諭は「夏休みの研修で、icheckによる詳細な分析結果を基に山浦秀男先生(東京家政大学非常勤講師)に様々なアドバイスをいただいた。1時間の中で発言しない子がいないようにすることが自己有用感につながる、という言葉が印象に強く残っており、それを意識して席替えと声かけをしている」と話す。

「席替えは、算数に苦手意識の強い子も見通しをもって授業に臨むとともに友達のアドバイスや励ましを得やすくなることを意識して行った。デジタル教材については、ある児童が積極的に取り組むと考えて利用してみたところ、予想以上に多くの児童に効果があった。不定形な形に近い図形にいろいろな形を当てはめてシミュレーションしながら考えることができ、自分で試行錯誤して考えることは楽しいことなのだと改めて気付いたようだ。分析結果を基にした席替えや声がけ、授業の進め方を工夫することにより、授業改善が進むことを実感した」と成果を話す。

今後については「多様な考えが予想より多く出たこともあり、なぜ最初と考えが変わったのか、この大きさにした理由などについて話し合う時間が不足した。今後改善する」と話す。

児童相互が自分の考えを話しやすい座席配置を工夫したことと、デジタル教材の活用をきっかけに授業の流れが変わったとふり返った。

 

全員が主人公になる機会を意図的に提供

クラス全体が温かい雰囲気で授業が進む

同校の分析を担当した山浦氏は、教員時代から長年、質問紙調査の分析を授業に活かし、「すべての児童生徒に出番をつくる」「主体的に学び、学び合う楽しさを実感できる」授業づくりを行ってきた。

「能澤教諭は、1人ひとりをよく見て声かけをしており、全員がそれぞれ主人公になる機会を意図的に提供していた。デジタル教材がよい刺激になり、1人ひとりうなずきながら楽しそうに取り組み、クラス全体が温かい雰囲気で授業が進んでいた」と話す。

「他市では、意図的なグループ編成と、児童が満足感をもって授業に参加できる学級風土づくりを目指して10年以上、icheckを年2回実施し、その結果を適切に活用することで不登校がゼロになったという事例があり、全国から視察が来ている。このほか、教育委員会が3年間で全校を指定校となるようにして分析に取り組み、数年で学校全体が変わった例もある」と話した。

 

児童への声かけが具体的になった

岸泉校長

教育委員会では、児童生徒の内面がより詳細にわかる、分析結果もわかりやすいと考えて2017年度にそれまで利用していた質問紙調査をicheckに変更。以来、黒部市教育センターが中心となってicheck研修を継続している。岸校長は昨年まで教育センター所長を務めていた。

◇・◇・◇

icheckは学級経営の支えになる大切な調査。この重要性を学校全体に浸透させたいと考え、研修センターの研修に加え、本校では9月に研修を行った。icheck分析の第一人者である山浦先生に本校の調査結果を詳細に分析していただき、クラスのよさや課題、解決方法を具体的に提案いただいた。

全体として学級に安心感をもって所属しているものの、自己肯定感が低い児童や仲間との問題を抱えている可能性がある児童が明らかとなった。

1人ひとりの心情面や家庭環境などの注意点や課題が示されるため、新任の教員にとっても児童のことが理解しやすく、研修後は児童への声かけがこれまで以上に具体的かつ丁寧になった。1時間の中で1人ひとりが主役になる場面をもたせようという意識が強くなったと感じる。

児童が主役になる学校づくりの根底は、自己肯定感。それを育むためには教員や保護者など周囲の大人の協力と児童の理解が欠かせない。それにicheckの分析結果が役立つ。

本市では今年度よりコミュニティスクールも始まり、地域のつながりが一層重要になっている。研修で理解したことを家庭にも伝え協力を得られるように働きかけたいと考えている。

 

学級や学校全体のリスクマネジメントにも効果

中義文教育長・黒部市教育委員会

富山県教育委員会では「幼・小・中学校教育指導の重点~一人一人を見つめ、育てる」を策定しており、副題にある「一人一人を見つめ、育てる」ことは、学校教育にとって最も大切なことと考えながら、教育行政を進めている。

今日の授業では分析結果を取り入れ、児童の多様な考えをうまく引き出していた。

児童の自己肯定感や発信力を高めるためには、人間関係が良好であることが基盤になる。学級の人間関係を見取り、手立てを講じるためには、様々な視点から児童の状況を知ることが重要であろうと考え、本市でもicheckを活用している。本調査を年2回実施しており、児童生徒の変容を詳細に把握できると考えている。また、学級や学年、学校全体の状況や傾向もひと目でわかることから、管理職による教員への適切な声かけにも役立つのではないかと思う。

さらに、次年度からは各校で独自に、調査分析結果を理解するための研修を年2回実施してはどうかと校長会に働きかけることを考えている。客観的なデータを活かした継続的な授業改善が進めば成果も上がりやすくなり、教員も自信をもって授業に臨むことができる。その上、分析結果とその変容を理解し、各校ならではの対応の手立てを進めることは、学級風土づくりとともに、学級や学校全体のリスクマネジメントにも効果的である。今後も、分析結果を全市でさらに有効に活用していきたい。

 

総合質問紙調査 icheck(東京書籍)

「自己肯定感」や「ソーシャルスキル」などの様々な視点で児童生徒の個性や背景、今の心のありようを立体的に描き出すことができる調査。児童生徒が自分を大切に思えているか、クラスの人間関係、いじめの実態、悩みなど表出しにくい情報を可視化できる。

▼詳細=https://www.tokyo-shoseki.co.jp/academic/n_icheck.html

教育家庭新聞 2025年1月1日号掲載

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