11月1日、第114回教育委員会対象セミナーを大阪で開催。枚方市教育委員会は端末更新と生成AIの校務活用、摂津市教育委員会は大阪府の共同調達、佐用町教育委員会は校務・学習系ネットワーク統合、たつの市立龍野東中学校は授業DXと教育データ活用について報告した。
兵庫県佐用町は2023年度に校務支援システムをクラウド化し校務系・学習系ネットワークを統合。篠倉氏は「校務デジタル化の目的は教育の質の向上。副次的な成果が目的とならないよう留意が必要だ」と話す。
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セキュリティとはそもそもリスク管理のことで、リスクの回避・軽減・移転・受容を組み合わせてリスクに対応する。
セキュリティ対策はどこまで対策すれば良いのか、判断が難しいものだと考えている。その判断に躊躇してしまうと「教育の質の向上」に向けたデジタル化の取組が止まってしまう。
本町では文科省のガイドラインに準拠する形で過不足のないセキュリティ対策を行い、次世代の校務システム整備を進めた。
検討要素の1つは校務支援システムとクラウドツールの使い分け方針について。変化の大きい社会に対応できるシステムを設計思想として、拡張性を高めるために、業務やシステムをできる限り汎用的なクラウドツールに置き換え、校務支援システムもパブリッククラウド化した。
2つ目が情報資産の管理分類を踏まえたアクセス制御方針だ。学習系は従来どおりID・パスワード認証とし、校務系は多要素認証によるアクセス制御を採用。セキュリティ対策は「どの情報を大切に扱うべきか」の合意形成が最も重要だ。この議論があってこそ現実的なセキュリティを構築できる。
3つ目は教員用端末の選定方針だ。教育現場では私有端末の使用が一般的でないことから生体認証に対応し、授業利用を意識してタブレットモード対応の端末を選定。教員用端末を1台化した。
前述の検討要素を踏まえ学習eポータル「まなびポケット」を基盤としたシステムを構築した。
統合認証サービスにより学習コンテンツにはまなびポケットからシングルサインオンができ、校務支援システムにアクセスする際にのみ多要素認証を行う。校務支援システムへのアクセスは教員のみ可能な設定とした。これによりセキュリティと利便性を両立できた。
シンプルなシステム構成で管理・運用コストを削減でき、SaaSのためサービスを止めることなく運用できる点もメリットだ。
新たなシステムの導入時に最も問題になるのが「手段の目的化」だ。教育の質の向上や業務効率化といった本来の目的を明確にすること、教員がどのように使うのか、誰がどのように運用するのかという視点も重要だ。
導入を検討する前にまず事務フロー全体を見直すことだ。紙ベースの業務が主流の場合、単にツールを入れてもペーパーレスにならない。現状の課題を洗い出し、デジタル化の効果が期待できる領域を特定してツールを選択する。新しいシステムを既存の業務に合わせようとするとカスタマイズが発生するなどむしろ業務が困難になる場合もある。
教員の実際のニーズに基づいて学校現場の実情に合ったツールを選定することも重要だ。
新しいツールの導入は慣れるまでが大変だ。本来の業務が後回しになるような状況を防ぐためにガイドラインや運用ルールの策定などツールに振り回されない環境整備も不可欠である。
ツールが導入されるだけでは業務改善は進まない。教員が使いこなせるようになるために、ITリテラシー向上のための研修や成功事例の横展開も行っている。
長期的なデジタル化の成功のためには運用やメンテナンスがしやすいシステムを整備することだ。持続可能な運用と継続的な改善を行うことで、表面的なデジタル化にとどまらない本質的な効率化が実現できる。
【第115回教育委員会対象セミナー・大阪:2024年11月1日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年12月2日号掲載