日本教育工学協会(JAET)は10月25・26日、第50回全日本教育工学研究協議会全国大会を東京都港区で開催し、多数の教育関係者が参集した。テーマは「Next GIGA~創造性を育むICTを活用した新しい時代の教育を目指して~」。初日、港区内の4小中学校は本テーマに基づいた授業を公開。
本大会の全体会で高橋純会長は「授業は変わっている。指導案も変わる必要があるのではないか。現在の指導案は、個別最適な学びを表現できるものになっているかを考え直す時期にある」と話した。
港区立白金小学校(東京都)では、児童それぞれが自らの学びをどう進めるかを意識して選択する機会を設定して自由進度学習を進めており、「汎用的なクラウドツールの授業活用」を目的にGoogleスプレッドシートやFigJamなどを中心に利用している。
同校では、自由進度の際に協働する相手を選択する際のポイントとして「安心して学習に取り組みたい人は仲のいい友達、話しやすい友達」「考えを広げ深めたい人は、自分と考えが違う人」など、5つの選択肢を全校で共有していた。
児童の望ましいふり返りを授業中に紹介しているクラスもあった。そこでは「今の学習は~~なので次回は~~したい」という流れで記載されているものを中心に紹介していた。全校的に「ふり返り」や「協働」の質を高めようと丁寧に進めようとしている。
6年生の児童は「自宅でも課題のまとめの続きに取り組んでいる」「友達のまとめを見ることは自分の学習を進めることにつながっている」「もっと共有して友達の良いところを学びたい」と話した。
6年社会「江戸幕府と政治の安定」では「学習状況を整理、ペアや近くの人と確認」「めあて達成に向けた自由進度学習」「ふり返り」の3段階で進めていた。
児童は「大名」「民衆」「外国人」を切り口に、疑問点や重要なポイントなどについて、端末上の教科書に線を引き、付せんツールを使って情報を整理。
付せんは「大切だと思ったこと」「疑問」「疑問の答え」「自分の意見や感想」「友達の意見」の5色に分かれており、まず大切だと思ったことを抜き出してから自分の疑問を複数考えている。付せんの色分けにより思考を整理しやすいようで、児童それぞれのまとめ方は様々だ。
自由進度学習の中で行うふり返りは項目ごとに行っており、それぞれについて「教科に関するふり返り」「学び方に関するふり返り」両方を分けて記入していた。
「教科に関するふり返り」については、分かったことや疑問に思ったこと、比較や関連づけた内容など。「学び方に関するふり返り」は、集中度や進め方、進度などだ。これらはすべてクラウド上で共有しており、教員のコメントも記入されている。
ふり返りは250文字以上を目標としている。授業者は「書く量が増えることは質の向上につながると考えよう」「次の学びを意識してふり返ろう」と児童に伝えていた。
6年国際科「Let’s Save the animals」では、英語を使って、自分が興味をもった絶滅危惧種の動物についてのプレゼンを各自で作成していた。
プレゼンの流れは「あいさつ」「紹介する動物は何か」「その動物の特徴と住んでいる場所」「その動物が抱えている問題」「それについての解決方法」「あいさつ」。スライドは全部で7枚と決められている。
児童はレッサーパンダやヒポポタマスなど自分が選んだ動物について、この型を基に英文を考えていく。フリー素材の図版から写真を選んでいる児童もいる。多くの児童はGoogleスライドを利用しているが、「動画を利用したい」と考えてCanvaを利用している児童もいる。ペアで練習を進めている児童もいた。
港区立小中学校4校の公開授業後に総括として行われたパネル討議「NextGIGA~タブレット端末を活用した学びの変革 4校の軌跡」では、各校の研究主任が登壇。研究テーマに向けた校内体制づくりや児童生徒の変容などを発表した。進行は港区教育情報参事官・中川哲氏。
研究テーマは「自ら学びを深めようとする児童生徒の育成~ICTを活用した日常的な授業実践を通して」。
長谷川正樹主任教諭は、「最初は一斉授業から転換することへの抵抗をどう打ち破るかの葛藤だった」という。しかし本実践を進めると、児童生徒は「自分で学ぶことができた」「自分で学ぶことで知識量が増えた」など肯定的であり、教員も「課題のある子供にかける時間が増えた」などのメリットを報告したという。
中川氏が「一斉授業からどのように指導観の転換を図ったか」と問うと、「Microsoft Teamsで情報配信し、協働学習の視点で進めた」と回答。リアルタイムの情報共有が大切であると話した。
研究テーマは「主体的に考え、豊に表現する児童の育成~ICT機器を利活用した授業デザインを通して」。
清水達也指導教諭は、「課題設定・課題解決、協働学習の学習形態で進めることを意識した。この形態で進めると、子供は見通しを持って学べるようになった」と学びの変容を報告。一方、協働学習で組む友人の人間関係が固定化しがちな面が課題だと話した。
研究テーマは「目的意識を持ち、相手意識を働かせながら表現できる児童の育成」。
玉木脩一指導教諭は、「子供たちが大きく変わりアウトプットの質が上がった」と報告。例えば3年生の地域学習で、児童は「港区の移り変わり」を調べ、教員も驚くような内容を発表したという。
中川氏は「課題解決の流れで学ぶと子供のアウトプット力が高まる。皆が同じようなアウトプットにならないように、それぞれの課題を深める支援が重要」と話した。
研究テーマは「自ら考え、主体的に学ぶ児童の育成」。
宮崎洋平主任教諭は、「自分で考えて進むことができない児童もおり、当初は不安に思いながら自由進度学習に着手した。教員が意識を変えようと、1年間続けたところクラウドを学びの中で使えるようになり、現在はChatで意思疎通を図っている」と報告。
中川氏は「クラウドやChatで情報共有して便利さを実感してから、授業で活用する流れが大切」と話した。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年12月2日号掲載