10月16日、第113回教育委員会対象セミナーを札幌市内で開催。運用から1年が経過したゼロトラスト環境「奈良市モデル」、北海道における1人1台端末活用、個別最適で協働的な学びと次世代の教員養成、情報活用能力育成と校務DX、ふり返りと自己調整学習の取組が報告された。
佐藤正範副センター長は札幌市の小学校教員を経て、東京学芸大学付属竹早小学校で先端的なICT活用や「SUGOI部屋」の実証実験に取り組み、現在は教職課程で特にICT活用に関する講義を担当している。
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学校で学ぶ意味とは何だろうか。私は「協働」の価値にあると考えている。子供が友達と共に価値判断をし、学級社会の一員として新たな価値をつくる中で自己効力感を得ることが学校の意義ではないだろうか。
協働の前提には「個別最適」ができているか、という観点がある。協働は互いの「違い」により意味を持つ。違うからこそ自分のことを伝えたくなり、相手のことも聞きたくなる。子供が「交流・協働したい」と思う授業づくりのためには子供を「揃えない」こと、違いを活かすことだ。
子供たちは幼稚園や保育園で遊びを元に自分で活動を選択しており個別最適を経験している。この意欲的、自主的な子供の特性を活かすためにも低学年における教員の関わり方が重要になる。従来通りの学習規律の下で皆が揃って落ち着いたクラスがすなわち良いクラスと言えるのか改めて考えるべきだろう。
低学年からの個別最適を基盤に、高学年に向けて協働の場面を増やしていく。子供の既知・既習事項や興味関心を元にした「違いやズレ」を活かす授業設計が肝要だ。「とっておきの自分だけの知」を持ち寄ることが学びに対するモチベーションにつながる。
ある特別支援学級の授業ではICTツールを使って子供たちのズレを活かした学びに取り組んでいた。皆で1つのすごろくを作るという内容でマスの数をあえて少なく設定。子供は自分が考えたとっておきのルールを持ち寄り、折り合いをつけながら協働していた。
1つのテーマを投げかけると子供はそれぞれ違うことを思いつく。個々のやりたいことをなるべく担保することで、友達に見せたい、教えたい気持ちが生まれて協働的な学びとなり、個々の学びが集まると教科の内容に迫る主体的な学びが実現する。こうした授業設計のために教員には幅広い内容の理解と子供の実態を捉えることが求められる。
学生に伝えている指導案作成の視点は、子供にとって楽しい活動か、子供たちの違いが生まれる内容か、多様な子供の考えや発言が広く想定されているか。まとめを子供主体で行うために脱線を想定した余白も必要だ。
子供に選択肢を持たせ、考える時間を多く確保できることがGIGA端末やデジタル教科書の良さだ。コーディネーターとしての教員の役割が重要になる。環境やテクノロジーが整備され、内容・授業観・教育観の追従が求められている。
中学生1000人の進路を追いかけたデータがある。これを元に教員養成課程で「普通のキャリア」を考える講義を行った。人は自分の経験と照らし合わせて「普通」を思い浮かべるが、データを見ると、中学校卒業後、高校に進学し4年制大学を卒業して教員になった(就職した)人は163人のみ。大学を卒業して教員になった多くの先生方こそ、自分自身の「普通」を押し付けることなく、目の前の子供に多様で豊かなキャリアの道筋を示してほしい。
Z世代の次の世代であるα世代はデジタルネイティブで情報収集が得意であり、タイムパフォーマンスや個人のアイデンティティ、多様性を重視する傾向がある。一方、待つことや我慢すること、揃えさせられることは苦手だと言われている。今の子供たちの価値判断に寄り添って学習効率の考え方を少し変えていく必要があるだろう。
様々な情報を集めて現状をよく知り、多様な子供たちに共感し、可能性を大事にしてほしいと学生に伝えている。
【第114回教育委員会対象セミナー・札幌:2024年10月16日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年11月4日号掲載